第82話 正しさだけでは生きられない。
朝の集会は順調に進んでいった。
進行は副会長の芽衣先輩が行い、教師、風紀委と連絡事項を述べて行き、最後の締めは生徒代表の生徒会長の一ノ瀬会長が、その壇上にあがった。
壇上に立つ立ち振る舞いは可憐であり、皆の代表となるには相応しい姿であり、周りの生徒も性別関係なしに見惚れていた。
『皆さん、おはようございます。生徒会会長の一ノ瀬です。』
マイク越しの声であるのに、その声は澄み渡っており耳の中へとスッと入ってきた。
『新入生の皆さんが入学してから、しばらく時間が経ちました。最初は慣れないことも多かったと思いますが、校内でも新入生の姿が自然に溶け込んできているように感じます。授業や部活動、クラスでの生活を通して、少しずつこの学校にも慣れてきた頃ではないでしょうか。
そして、これからの時期――学校行事の一つである体育祭が近づいてきています。
体育祭は学年やクラスを越えて協力し、全員で作り上げていく大きな行事です。勝敗だけではなく、仲間と力を合わせること、そして全力で取り組むことが、この行事の大きな意味だと思います。
新入生の皆さんにとっては、初めての体育祭になります。分からないこともあると思いますが、先輩たちも含めて、学校全体で盛り上げていきましょう。
それでは皆さん、体調管理にも気を付けながら、今日も一日頑張りましょう。以上で朝の挨拶とします。』
長くも短くもなく完璧な長さで、かつ話す速度も丁度よく、一番聞きやすい話し方をしていた。こういった態度だけではなく些細なところでも、その育ちの良さが伺える。
そして、彼女の立ち振る舞いも相まって全てが――完璧と言わざるを得ない。
会長の締めの言葉が終わり、朝の集会は滞りなく終了した。俺は最後の軽い片付けをしていたので遅れて教室へと戻っている時だった。
『――はい。分かっていますよ。お父様。』
という話し声が聞こえてきたので、物陰に隠れて様子を伺うと、その人物は風紀委員会の会長の七瀬さんだった。
電話の相手は“お父様”ということは、七瀬家の現当主だ。本当なら聞かない方がいい話だとは分かっているけど、芽衣先輩から聞いた話もあるし‥‥少し気になるな。
絶対にしてはいけないとは分かっていたが、俺は電話の会話を盗み聞くことにした。
『これ以上、自由にさせるつもりはありません。次の‥‥で、落として見せます。そうなれば一ノ瀬も終わりでしょう。』
――ッ!!聞いてはいけないことを聞いてしまった。七瀬先輩は一ノ瀬家に何かをするつもりだ。その何かは聞き取ることが出来なかったが、これは大変なことだ。
と俺はさらなる情報を聞く為に、体が少し前かがみになったときだった。
~~♪♪とスマホが鳴った。
もちろん、七瀬先輩も音に気付いてこっちを向いていた。こうなったら取れる選択肢は二つ。一つはスキルを使って逃げること、もう一つはこのまま電話に出てたまたま通ったフリをすることだ。
ここで逃げたら話を聞いていたことがバレる。なら、たまたま通ったフリをする方がいいな。
『もしもし。何?』
『悠真?どこで何をしているの?もうすぐ授業が始まるわよ?』
『分かっている。生徒会の仕事で片付けをしていたの。今から戻るから。じゃあな。』
と咲からの電話を切って、そのまま前に進んで、そこでまた七瀬先輩と出会った感じをとった。
「お疲れ様です、七瀬先輩。先輩も集会の片付けですか?」
「え、ええ‥‥まぁ、そうね。白瀬くんは今、ここを通った感じ?」
「え?あっ、はい。この道を通るのが教室に一番早いので。」
「そう、ならいいわ。それと、風紀委の話は考えてくれた?」
「あーーいや、何とも言えないですね。今日の今日ですし、まだ何も考えてないです。すいません。」
「いいのよ。じっくり考えてちょうだい。」
「はい。では、自分は教室に戻ります。」
と向かおうとした時だった――
「待って」
と七瀬先輩に止められた。
「最後にもう一個だけ聞きたいんだけど‥‥白瀬くんは、会長の栞のことをどう思ってる?」
「どう思っているかですか。そうですね‥‥いい先輩でもあり、全の生徒の見本になっていると思います。ただ、少し“かわいそう”だとも思っています。」
「‥‥かわいそう??何で、そう思うの?」
「いや、この話に限っては会長だけじゃないですけど、やっぱり会長ぐらいの名家の元に生まれると、自分の自由もなく、全てが用意されたレールを進むことも多いと思いますし、それって楽で裕福な生活は送れるとは思いますけど、すごく退屈な人生だなって思います。
人生って挑戦の連続だと思うんです。習い事も、勉強も、運動も、人間関係であっても失敗と成功を経験して行くことを楽しんで行くのが人生だと思うので、それら全てが決まっているっていうのは“退屈”だと思うので、名家の人はかわいそうだと思います。
あっ!!すいません。生意気でしたね。後輩のただの一般人が言ってはいけないことでした。」
と深々と頭を下げて謝罪をすると、七瀬先輩は「アハハハハ」と大笑いをした。
「は~~白瀬くん。君は素直過ぎるよ。私も名家の一人なのに、面と向かって“つまらない”って、すごいね君。はーー久しぶりにこんな笑ったよ。でも、白瀬くんの言っていることは正しいよ。
白瀬くん。この世はね――正しいだけじゃ生きていけない。時には正しくないこともする必要があるんだよ?それを覚えておいてね。引き留めてごめんね。」
と言い残して七瀬先輩は去って行った。
先輩の最後の表情は言葉以上に何かしら重さがあるように俺は感じた。咲も七瀬さんも一ノ瀬さんと同じ地位と権力を持つ名家の人間ではあるが、その中身はまるで違う。同じ名家であっても家によって育て方も育ち方もまるで違う。
どちらが良いとかはないと思うけど、俺は“咲の家”のような暖かい家の方が好きだ。
などと考えていると―――キーンコーンカーンコーンと授業が始まる鐘が鳴り、俺の遅刻が確定するのだった。
「あっ‥‥やっちまったああ!!」




