第70話 タッグマッチ⑱
《――雪視点》
――男は怒りをあらわにしていた。
男の魔法の原理を見破るのは難しくない。この男が過去に戦った相手も私と同じように見破った人はいるはず。なのに、この男は勝利しているということは、魔法の仕組みを見破るのは”ゴール”ではなく”スタート”と考えるのが普通。
私は、些細な変化も見逃さないように、さらに集中力を高めて――杖を強く握る。
「少しだけ遊んでやるつもりだったが、やめだ!!俺の魔法をコケにした罪‥‥その命で償ってもらうぞ!!」
男は私に向かって走りだしてきた。
魔法使いが自ら距離を詰めることなど普通はあり得ない。相手との距離は魔法使いにとって最も意識するところで、常に一定の距離を保つことで魔法を撃つことが出来る。
だが、それは普通の魔法使いでの話で、男の魔法は「魔法を破壊する魔法」で、その効力を最も出すには相手との距離を詰めて魔法を破壊できる距離に留めておくことで、相手は魔法という武器を失うことになる。
雪は、そのことをいち早く理解してすぐさま後ろに向けて走る。
原則として「魔法使い」の身体能力は低い。魔法使いの役割は後方から最高威力の魔法を放つことにあるので、どうしても魔法ばかりを成長させてしまう。そして、いざって時に行動が出来なくなってしまう魔法使いは多くいる。
この男はそれを知っているのだ。だから、雪にも同じように自分のエリアに入れれば勝てると確信していた。
だが、この男は雪という人間のことを何も理解できていなかった。雪という人間は小さい頃から悠真という完璧で憧れの存在を見て育ったことで、自分の能力に慢心などせず貪欲に足りない物はひたすらに努力していた。
もちろん。それは悠真と別れてからも続けており、一切の妥協はしていなかった。その結果、雪が持つ身体能力は、その男よりも高かった。
後ろを追いかける距離が常に変わらないことに、男は苛立ちを覚える。
「はぁ‥‥はぁ‥‥どうして‥‥だ。なぜ、距離が詰まらない。普通の魔法使いなら、とっくに‥‥足を止めているはずなのに‥‥お前は‥‥はぁ‥‥はぁ‥‥何故だ。」
そんな問いに雪は余裕な声で答えた。
「おじさんが今まで戦ってきた魔法使いって――みんな中途半端な魔法使いだったんだね。
確かに魔法使いの仕事はダメージを与えることだよ。でも、それって仲間がいて初めて成り立つことだよね?守る”盾”に、回復を回す”ヒーラー”に、時間を稼ぐ”アタッカー”と自分以外の仲間が居て初めて、自分の仕事が出来るようになる。
でも、それって逆に言えば‥‥仲間が居なければ何も出来ないってことでしょ?
私はそんな中途半端な魔法使いになる気はないの。私が目指す魔法使いは完璧じゃないとダメなの。悠真の横に立つだもん、それぐらいならないと顔向けできないよ。
だから、おじさんが戦ってきた中途半端な魔法使いとは違って、私は完璧な魔法使いだから、もう、この戦いも終わらせるね。」
私は足を止めて杖をカツンと強く鳴らした。
「私が今までただ走っていたと思う?全ての準備は整ったよ。おじさんを”氷剣の世界”に案内してあげるね。」
その言葉とともに辺り一帯の温度は急激に低下し、吐く息が白くなる。そして空から雪が降り始めた。降る雪はどんどん強く大きくなる、そして雪の隣に氷の剣が作られた。
また1つ‥‥また1つと‥‥剣は作られる。その剣の種類は様々で長い物もあれば短い物もあり、デカい物もあれば、小さい物もある。まさに”氷剣の世界”に相応しい世界だった。
「あ‥‥あり得ない。こ、こんな大きな魔法を‥‥ただの学生が‥‥作れるわけがない!!お、お前‥‥何者だ!!」
「私?さっきも言ったでしょ?私は完璧な魔法使いで‥‥悠真の横に立つ”最高の魔法使い”だよ。じゃあね?おじさん――氷剣の世界でお休みなさい。」
雪は杖を下した。男に向かって無数の氷剣が飛んでいく。第一陣はディスペルで破壊するが、第二陣は破壊することが出来ず‥‥氷剣によって身を凍らされるのだった。
「はぁ‥‥疲れた!!この魔法‥‥強いけど‥‥魔力消費がやばい!!」
と戦いに勝利した雪はその場で大の字になって倒れるのだった。




