第66話 タッグマッチ⑭
主を倒せたと安堵して油断した。
主を倒すまでは部屋からは出ることも入ることも出来ないが、倒してしまえば、出ることも入ることも出来ることを完全に失念していた。
あいつらの目線から見れば主と戦って負けて死んでも御の字で、もし主を倒したとしても、消耗したところを襲えば確実に殺すことが出来るから、警戒するべきはカメラだけだ。
そのカメラも映すべきところは映したからか、気絶している間に何処かへと消えていた。警戒するべきカメラが消えれば‥‥襲われるのは当然のことで、雪が来ていなければ確実に死んでいた。
「‥‥咲。奴らはお前のことを本気で殺そうとしている。ここまで来ても”試練”だと思うか?さっきの一撃、雪がいなければ確実に死んでいたぞ。流石に行き過ぎていると思うけど?」
「‥‥そうね。いくらなんでもやり過ぎね。これは本当に命を狙われていると思った方がいいわね。」
「なら、取るべき選択肢は‥‥一つだ。一人で逃げろ。」
その選択がこの場で取るべき最良の選択だ。
俺は咲の騎士で「騎士は主を守る」のが仕事。なら、主を逃がすことが、騎士として役目を果たす必要がある。ここで主を失うことが一番いけない。
だが、咲が素直に聞くわけもなく――首を横に振る。
「ダメよ。置いていけるわけがないわ。」
「咲、ここでお前を死なせるわけには行かない。俺一人ならこの体でも凌ぐことは出来る。それに雪の魔法を起点にすれば戦うことだって出来る。でも、咲のことを守りながらだと話は変わる。
それに‥‥お前も限界だろ?
俺が気付いてないと思っているのか?さっきの膝枕の時に俺を庇ってそのままさせたわけじゃなく、自分が動けないからそのままにさせたんだろ?」
「‥‥」
「ここは退け。それが取るべき主としての選択だ。」
「‥‥分かったわ。なら、約束しなさい。絶対に私の所に戻ってくると!!」
「あぁ‥‥任せろ。」
咲を説得した俺は雪に向かって「雪!!あの時のオークとの戦いを覚えているか?」と声を出した。
かつてダンジョンブレイクに巻き込まれた俺と雪はダンジョンから出て来たオークと戦ったことがある。その時の戦法は魔力のコントロールが出来ない雪に代わって、俺がコントロール役になって魔力の塊の「魔弾」をぶつけることで、オークを撃破した。
今の雪であれば俺のコントロールが無くても自分で扱うことが出来るだろうから、俺は陽動役として雪から注意を逸らして、そこに魔弾をぶつけて‥‥その間に咲を逃がすという作戦だ。
俺の言葉を聞いた雪はその作戦を理解したのだろう――杖に魔力を込め始めた。
なら、俺もやるか。と鉛のように重い体を動かして、ボロボロの体に身体強化を掛けた。
「うぐッ!!」
声にならないほどの激痛が全身を襲うが歯を食いしばって耐える。
ここで痛み如きで倒れることなど出来ない。やるべきことをするまでは倒れることは許されない。と痛みは全て忘れて、全力で走りだした。
「速い!!」
身体強化での全力疾走の速度は並みの探索者より圧倒的に速い。その速度に面食らったのだろう。魔法使いから目を離してはいけない場面で奴ら二人の警戒は雪から俺へ移った。
その証拠に危機感知が脳内で鳴り響いている。
よし。ヘイトは取れた。後は、適当に攻撃を仕掛けて雪の攻撃を待つ。
俺は相手を俺から離れさせないように単打ではなく連打で攻撃を仕掛けた。
敵は身体強化の速度に慣れていない。なら、その速度を使って押せるだけ押せ!!手数は一切減らさずにがむしゃらに手を出しまくるが、相手は本物の暗殺者だ。魔物とは違って対人に特化しており、俺の拳は――パシッと受け止められた。
「プロを舐め過ぎだよ‥‥学生くん。こんな単調な攻撃でいつまでも抑えられるわけがないでしょ。」
グギギギ!!と止められた拳に圧が掛かる。
「うぐッ!!」
マンティコアとの戦いで手の骨が折れている。そこに圧を掛けられてとんでもない痛みが生じて、俺の顔は苦痛で歪む。
「あれ?もしかして‥‥手を怪我しているのかな?これならどう?」
ゴリッ!!と完全に砕かれた。
「あ"あ”あ”ああああ!!」
痛みで絶叫すると、こいつは「アハハハハ!!」と高らかに笑い声を上げて、痛みに悶える俺を見て喜んでいた。
このままじゃ‥‥詰むと思ったときだった。後ろから――。
「悠真!!行くよ!!」
雪の声が届いた。そして後ろから魔弾が飛んできていた。男はそれを見て俺の手を離して、その場から逃げる。そして俺も急いで身を引いて攻撃を避けた。
魔弾は関係ない所へと向かって飛んで行く。
これでは咲の逃げる時間を稼ぐことは出来ないと思ったが、雪は「逃げても無駄だよ!!」と魔弾を空中で動かして敵にホーミングさせていた。
撃った魔法を後からコントロールすることなど普通は出来ない。それをいとも簡単にやってしまう雪の魔法の才は俺の想像を遥かに超えていた。
「逃がさないよ!!ドカン!!」
――と魔弾が敵に命中した。そして、その間に咲は部屋から出て行った。




