第64話 タッグマッチ⑫
「はぁ‥‥はぁ‥‥どうだ?少しは効いたか?」
力、全てを出し切った。もう、腕すら上げられない。これでまともなダメージが入ってなかったら終わりだ。せめて同じぐらい削れていれば‥‥まだ、あるが‥‥どうだ?
奴の方を見ると、ドスッ‥‥ドスッ‥‥と体を揺らしながら戻って来た。マンティコアの容態は先程のような元気な状態ではなく瀕死になっていた。
「ハハハッ!!お前も限界じゃねーか。流石にあれだけ殴られたら無傷じゃあ済まないよな。」
マンティコアの固い皮膚は剣といった斬撃に対しては強いが、打撃にはそんなに強くない。表面上は無傷に見えても殴られた衝撃は波となって内部にダメージを与えていた。
これならいける。俺も限界に近いが奴の方が辛そうだ。押せば倒せる!!と踏み出そうとした時だった。
「グハッ!!」
突如、胸の奥から込み上げて来た血を吐き出した。
ゴホッゴホッと咳が止まらず立っていることが出来なくなり地面に手を着いた。
そう、俺の体は既に限界を超えているのだ。さっき動けていたのは大量のアドレナリンが分泌されたことによる、最後の力だった。そして、そのアドレナリンの効果が切れたのだろう。体の痛みと疲労が津波のように体を包み込んだ。
その結果――動けなくなった。
クソッ!!奴も限界だ‥‥今、動かないと!!今、やらないとダメなんだ!!
と心では分かっているが、体が全くついてこない。この二人の勝負は引き分けという形で幕を閉じるが、この命懸けの勝負に関しては、まだ、動ける者が残っている。
「はぁ‥‥悠真‥‥手を貸すわ。」
後ろから現れたのは咲だった。
咲も幾度となる天啓によって体こそは元気であったが、この精神と脳には甚大な被害が出ているのだろう、いつものようなすまし顔ではなく苦しそうな表情をしていた。
「‥‥手を取りなさい。二人でトドメを刺すわよ。」
その手には俺が捨てた折れた剣が握られていた。
俺は最後の力を振り絞って咲の手を取り、無理やり体を引き起こした。足はガクガクと震えているし、視界も定まらない。それでも、咲に支えられながら一歩ずつ前に進む。
マンティコアも俺達の動きに反応して、最後の力を振り絞るように体を起こした。
まだ‥‥終わっていない。奴の口元からは、再び淡く光るエネルギーが集まり始めていた。
こんな状態でも奴はブレスを撃つ気でいる。もちろん、俺達に避ける力などはない。ここで頼りになるのは俺の力ではなく――咲の天啓だ。
「‥‥咲、見えてるか?」
「えぇ‥‥あと、数秒で来るわ。」
間に合うか?いや、間に合わせるしかない。
俺は折れた剣を咲から受け取る。半分に砕けた刃は、既に武器としての役目を果たしているとは言えない代物だったが――それでも、今の俺達にはこれしかない。
「行くぞ‥‥!!」
「えぇ!!」
咲の肩を借りながら、最後の一歩を踏み出す。
マンティコアの口が大きく開かれ、ブレスが放たれようとしたその瞬間――
「今よ!!」
咲の声と同時に、俺は全身の力を振り絞って跳んだ。
そして、折れた剣を――奴の喉元へと突き立てた。
ガギィンッ!!と硬質な音が鳴り響くが関係ない!!そのまま、体重を乗せて深く無理やり刃を押し込んでいく!!
「――――ッ!!」
ビキッ‥‥と何かが割れる感触が手に伝わった。剣が完全に砕けると思った――次の瞬間、マンティコアの体から力が抜けたことで俺達も倒れた。
放たれかけていたブレスは霧散し、その巨体がゆっくりと――前のめりに崩れ落ちた。
ズゥン!!と地面が揺れる。
「‥‥ははっ‥‥やった、のか‥‥?」
答えるように、マンティコアの体が光となって崩れ始める。
その中心から、淡く輝く魔石が姿を現した。
「‥‥勝った。」
そう呟いた瞬間、全身から力が抜けていく。
もう‥‥立っていられない。
俺の意識は、そのまま闇へと沈んでいった――。




