第61話 タッグマッチ⑨
俺達はリタイアではなく前に進むことを選んだが‥‥状況はかなり悪かった。
渋谷ダンジョンの魔物は八王子とは違って厄介な奴も多く、簡単に突破できないのに加えて、例の二人組の襲撃を常に警戒する必要もあったため、二つのことを考えながらの戦闘は”辛い”の一言に尽きる。
そんな中でも俺達は進んでは行ったが、このままでは”優勝”は無理だと言わざるを得なかった。
そこで、すべての逆転を掛けて”主”を攻略することにした。
全てのダンジョンには階層の主と呼ばれる、その階層で一番強い魔物が存在している。
今、俺達が探索している場所はランクで言うとCランク相当なので、階層主は最低でもBランク以上の魔物が出てくるのは間違いない。
Cランクの魔物で良い勝負をしている俺達が、それ以上のランクの魔物を狩ることが出来るのかはかなり怪しいが‥‥やるしかない。
今から優勝を目指すには、階層ボスを倒して大逆転を狙うしかなかった。
そうして階層主がいる部屋へとやって来ると、ちょうどLiveカメラも俺達のことを映しており、今頃スタジオは祭りのようにどんちゃん騒ぎが起こっているだろう。
――それでいい。もっと俺達に注目しろ。
Liveカメラが俺達を映している間は、あの二人も手出しすることは絶対に出来ない。俺達は奇襲を心配せずに魔物だけに集中することが出来る。魔物との純粋な一対一なら、勝率は十分にある。
「咲、準備はいいか?カメラが付いて来る以上は負けることは絶対に出来ない。俺達には勝つ以外の道は残されていない。」
「ふぅ~~分かっているわ。私はいつでも大丈夫よ。」
「あぁ、なら行くぞ!!」
――と、階層主が待つ扉を開けた。
◇
《――スタジオ視点》
「しかし、現在探索している階層はCランク相当です。この階層の主ともなれば、最低でもBランク以上の魔物が出現する可能性が高いですが‥‥解説の神崎さん。階層主との戦闘はどう見るでしょうか?」
「そうですね。まず、階層主というのは通常の魔物とは異なり、その階層における魔力の集積点――いわばダンジョンの核に最も近い存在です。周囲の魔力を常に取り込み続けることで、同ランク帯の魔物と比べても数段上の戦闘能力を有している個体が多いですね」
「なるほど」
「加えて、階層主は侵入者への迎撃を前提として生成されているため、単純な戦闘能力だけではなく、地形や環境を利用した戦闘を行うケースも確認されています。いわば、その階層そのものが階層主のホームグラウンドという訳です」
「つまり、完全に相手の土俵での戦闘になると」
「えぇ。東雲ペアがこれまで戦って来た魔物とは、求められる対処能力が大きく変わって来るでしょうね。かなり厳しい戦闘になると思われます。」
「ありがとうございます、神崎さん。さぁ、その厳しい戦闘となるか――東雲ペアがッ!!いよいよ階層主との対峙です!!」
◇
《――スタジオ裏側視点》
モニターに映し出された二人の姿に、スタジオの熱気は一気に最高潮へと達していた。
そんな中、運営席では慌ただしく指示が飛び交っていた。
「カメラはそのまま固定しろ。絶対に映像を切るな」
「し、しかし‥‥もしもの場合は――」
「駄目だ。このタイミングで映像を切れば、後に視聴者からの苦情は計り知れない。階層主という目玉のイベントを途中で切ることなど出来るはずがないだろう」
運営責任者の言葉に、スタッフは口を噤む。
「しかも、戦っているのは東雲家のご令嬢だ。話題性も十分すぎる。スポンサーが見ている前で、そんな判断を下せる訳がない」
「‥‥了解しました。Liveカメラ、このまま追従を継続します」
「サブカメラはどうしますか?」
「予備の一台を入口側に回せ。万が一、メインが破損した場合でも映像が途切れないようにしておけ。」
「安全管理部から、介入ラインの確認要請が来ていますが――」
「まだだ。階層主との交戦が始まるまでは待機させろ。下手に動けば、映像に映り込む可能性がある。」
「‥‥分かりました。待機を継続させます」
モニターの中では、今まさに扉を開けた二人が、階層主と対峙しようとしていた――。




