第45話 東雲家。
東雲家の家は、外から見てもとてつもない広さをしていることは分かっていたが、俺の予想などぶっ飛ぶぐらいの迫力と広さがあった。
しかも俺達を出迎えたのは、“何人いるんだ?”と思ってしまうほどのメイド達だった。この光景には俺も驚いたし、流石は「東雲家」と褒めるべきなのだろう。
そんな東雲家に自分がいるということが、実感がなさ過ぎて場違い感をすごく感じていた。今すぐにでも帰りたくなったが、そんなのお構いなしに咲は俺の手を取って堂々と歩いて行くので、少しは俺の気持ちも察して欲しかった。
メイド達に見られながら歩くのは、ダンジョンで歩くよりも辛く、この場所こそが俺にとって“ダンジョン”だと思ってしまうほどにはきつかった。
そんなキツイ道もようやく終わり、いよいよ咲の父が待つ部屋へと着いてしまった。
俺は最後の抵抗として、咲に「また今度にしないか」と提案しようとしたが、咲は俺のことをよく理解しているので、「そうしてまた今度にしたら、二度と来ないでしょ?」と本当のことを言われてしまい、ぐうの音も出なかった。
俺も諦めて覚悟を決めた、という合図を出すと―――コンコンと扉をノックする。すると中から、
「おかえりなさーーい。私の愛しの咲ちゃーーん!!」
と声が響き、扉が勢いよく開けられた。
そして、その声の主は咲に向かって飛び込んで来たが、咲は動じることなくそれを避けて中へと入っていった。
そんなとんでもない光景を見せられて、俺は呆然としていた。
一体何が起きたんだ?
覚悟を決めてから咲が扉をノックしたところまでは、はっきりと覚えているのに、その後は部屋から変な人が咲に向かって飛び出して来たよな?
ん?ちょっと待てよ‥‥この部屋から飛び出して来て、その時に「私の愛しの咲ちゃん」って言っていたよな?ってことは‥‥この壁にぶつかって目を回している人が――
「それが、私の父よ。」
と、自分で理解するよりも前に、咲に言われてしまった。
「いやいや、そんな冷静に座っている場合か!!お父さん、完全に目を回しているぞ!!」
「いつものことよ。私が帰ってくると飛び出して来るのよ。愛してくれているのは分かるけど、重すぎる愛情もしんどいものなのよね。だから、そのまま放置してていいわよ。」
「いやいや、放置はマズイでしょ。流石に手当しないと。」
と、放置はマズイと思った俺は、咲のお父さんに「大丈夫ですか?聞こえてますか?」と声を掛けた。
すると、お父さんは目をパチッと開けて「お前には咲はやらん!!」と、いきなり訳の分からないことを言われるのであった。
◇
「いや~すまんかった。てっきり咲の恋人かと勘違いしちゃってね。本当に手をかける前に知れて良かったよ。」
「あ、あはははは」
その言葉を言われて、口から乾いた笑い声しか出なかった。
100%ないけど、仮に俺が咲の恋人だったら、この人は俺を殺していたと言っているのだ。いくら娘が好きだからって言っても、この愛情は重すぎるんじゃないか。咲が「重すぎる愛情もしんどい」と言っていたことが、よく分かった俺だった。
「お父さん。いつも言っているわよね。帰ってくる度に飛んで来るのは止めてって。今日みたいに、悠真以外の人も家に連れて来る可能性があるのに、これを毎回されたら私‥‥家出するから。」
「な、い‥‥家出だと!?そ、それはダメだ!!絶対にダメだ!!わ、分かった。もう飛ぶのは止めるから、家出だけはしないでくれーー頼む。」
と、実の娘にガチ土下座をする父親。
そんな光景を見て、俺は何をあそこまで緊張していたのかが分からなくなり、部屋に入るまでは覚悟をしっかりと決めていたのに、その覚悟も緊張と共にどこかへと飛んで行ってしまうのであった。




