第39話 まさかの事態。
二人を連れて静かに話せる場所へと移動した。
「まず、東雲――(ギロッ)咲からね。何で、咲はギルドにいるの?」
加藤さんもこの場所にいるので、要らぬ誤解を生まないように苗字で呼ぼうとすると、横からとてつもない殺気を出しながら睨まれたので、すぐさまいつも通りの名前呼びに変えた。
「さっきも言ったでしょ?私も一緒にダンジョンに潜るからよ。」
「いやいやそれは無理でしょ?だって咲はあの東雲グループの御令嬢だよ?そんな人がダンジョンに潜って、万が一何かあったらどうするの?俺はもちろんだけど、ギルドにだって何かしらの責任は行くんだよ?」
「そこは心配しないでいいわ。ちゃんとお父様の許可は貰って来たわ。」
「許可?」
その言葉を聞いた俺は、すごく嫌な予感がした。
この類の予感は絶対に無視するなと、俺の勘がそう告げていた。
「その許可について具体的に聞いていい?咲のお父様は“なんて言って許可”を出したの?」
「それはもちろん『私のこの体に一つでも傷が付けば悠真が責任取ってくれるから、心配ないわ』と言ったら、お父様もそれなら安心だ!!って言っていたわよ。」
「はい!?!?!?俺、関係ないじゃん!!てか、責任ってなに?」
「当然でしょ?悠真は私の騎士なのだから、姫である私を守るのは義務でしょ?で、その義務を全うできなかったら、騎士としての責任があるのは当然でしょ。」
「はぁ???騎士???――俺が、咲の?」
あぁ‥‥もうダメかも。話をしてるだけで頭が痛くなってきた。一旦、咲のことは置いておこう。最悪、ギルドを出た瞬間に、本気で走って咲を撒いてからダンジョンに潜るとしよう。
うん、それしかない。じゃあ、次は加藤さんの方を解決しないとな。
「えっとですね‥‥加藤さん。自分と咲は同じ学校の、ただのクラスメイトなんです。」
「いやいや、悠真くん。流石にその言い訳は無理があるよ。二人が同じ学校に通っている。ここまでは納得できるよ。でも、女の子を名前で呼んで、向こうは悠真くんのことを騎士と呼んでいる。この状況で、ただの友達は無理だよ?」
「いやいや‥‥本当なんですって。この“騎士”呼びも、さっき言うようになったんです。俺と咲は“ただのクラスメイト”なんですって。」
「はぁ‥‥なるほど。悠真くんは知らないんだね。」
「えっ?何をですか?」
「いい?東雲グループのような、ダンジョンで一代を築いた名家には、ある共通のルールというか掟みたいなものがあって、その内容が『家を継ぐ当主には一人の騎士を就ける』というものなの。そして、この騎士は必ず当主の異性じゃないとダメなの。
つまり、悠真は今、この時をもって、東雲グループを次期当主である『東雲 咲の騎士』に選ばれたの。」
「へ‥‥ええええええ!!!!!!」
口から心臓が飛び出るかと思った。
俺がこいつの騎士?そんな話があるかよ!?聞いてないし、そんな制度というか規則があるなんて。それに、別に任命されたからって、何で強制なんだよ。強制は違うでしょ!!俺の意思は?どこに行ったんだよ。
いやいや。俺はEランクになったばかりの駆け出しだ。そんな俺を騎士に任命するなんて、あり得るはずがないじゃないか。うん‥‥きっと間違いだ。
「ま、待ってください。今の話は‥‥本当のことか‥‥咲?」
「そうよ。あなたは『私の騎士』になるの。いついかなる時も私の傍に居て、私を守る役目になったの。どう?光栄でしょ?」
「いやいや全然!!マジで‥‥無理。それ断れるよね?……てか、断れないとかおかしいよね?だって、俺の意思は‥‥どうなるの?」
「残念ながら断れないわ。騎士を選ぶ対象は、探索者の資格を持ち、Eランク以上の探索者が対象ですもの。あなたがランクアップなどせずにFランクにいれば問題なかったんですけどねぇ‥‥ランクアップしてしまったから。
私もまさか、こんなにも速くランクアップするなんて思ってもいませんでした。流石は、私の『騎士』ですね。主人として鼻が高いです。」
「加藤さん!!どうしてそんなルールがあるって教えてくれなかったんですか!!ランクアップの時は、一言言ってなかったですよね!?」
「そ、それは‥‥そうだけど。いや、だってまさか悠真くんが東雲グループの人と繋がりがあるなんて思いもしないし、それにEランクになったばっかりの人を騎士に任命するなんて、思いもしないでしょ!!
過去‥‥当主が任命した騎士は、みんなAランクかSランクなんだから!!」
「それは‥‥そうかもですが。本当に断る方法はないんですか?」
「う、うん。ないかな。悠真がランクアップをした時にクランを立てていれば回避も出来たんだけど、クランを立ててない以上は‥‥無理だね。」
「クランを立てていれば回避出来たんですか?」
「そうよ。クランとは家柄みたいな物で、一度立ててしまったら、そのクランにあるものは全てクランのリーダーの物になるから、いくら東雲グループでも、そのルールを破ることは出来ないの。
でも、私は‥‥確信していたわ。悠真は絶対にクランは立てないと。だって、私の騎士様は一人がお好きですもの。」
「クッ‥‥はぁ‥‥終わった。」
俺は逃げることを諦めた。
俺こと『白瀬 悠真』は今日、この日、『東雲 咲の騎士』になった‥‥いや、なってしまった。




