第29話 本命の入学式。
入学式。
それは、人が一つの段階を終え、次へ進んだことを示す式だ。
悠真は小学生を卒業し、中学生になった。だが悠真にとって年齢というものはただの数字に過ぎず、そこに特別な意味、そして価値を感じてはいなかった。
しかし、学校という場所では違う。
年齢は「学年」として区切られ明確な序列を生む『上級生は上で下級生は下』それが当たり前として受け入れられて秩序として保たれているわけだが、それは学校という閉じた学び舎だからこそ成り立つ価値観であり、一歩でも外へ出れば‥‥その序列は簡単に崩れ去る。
悠真は、そのこと誰よりも知っていた――いや、正確には経験していた。年齢が上であったとしても能力、地位、権力という名の力の前では無力なのだ。
そして悠真がこれから足を踏み入れる世界は『最も年齢というものが役に立たない場所』。その世界は力が全てで、弱い者から淘汰される世界だということも。
――ダンジョンである。
中学生になったことで正式にダンジョンに潜ることが出来るようになった。悠真はずっとこの年齢になることを待っていた。日々、きついトレーニングを熟してその時の為に備えていた。
その備えが今日やっと実を結ぶ。
◇
「じゃあ、行ってくるよ。」
「う、うん。悠真‥‥本当に気を付けるのよ。母さん、嫌だからね‥‥ダンジョンで怪我をして帰ってくる息子なんて見たくないからね‥‥約束守ってね。」
「分かってるよ。じゃあ――。」
俺はそんな軽い気持ちでダンジョンに行くつもりであったが、母は戦地に息子を送り出すような悲壮感を漂わせていた。だが、その認識も間違ってはいない。
事実、ダンジョンは魔物と命を懸けて戦う場所であり、戦地と呼ばれてもおかしくない。だが、俺の能力を見ても尚、あの心配の仕方はおかしいと思う。俺が持っているスキルとステータスなら、低層で怪我をするなどあり得ないことだ。
でも、母はそんなことはどうでもいいと言って、ダンジョンに潜る上である約束を取り付けた。
1つ『私生活との両立をし、ずっとダンジョンに籠り続けるのは禁止。』
2つ『晩御飯までは必ず帰ってくること。』
3つ『ダンジョンに潜る時は必ず連絡をすること。』
――が、母が出した約束であった。
最初は否定したが、これを飲めないならダンジョンに潜ることは絶対に認めないと言われては、俺も受け入れるしかない。
そしてこの約束を一度でも破れば、二度とダンジョンに潜ることは禁止と言われている。
本当に困る約束だが、要は破らなければいいだけの話だ。俺は腕に付けているスマートウォッチの振動アラームを18時30分にセットして、探索者登録の為にギルドへと向かった。
◇
《八王子ギルド》
あの事件が起きる前の八王子ギルドは地元からも信頼されており、高ランクから低ランクまで様々な探索者が活動していて、それなりの活気を持ったギルドであった。
だが、その信頼は――7年前に起きた『ダンジョンブレイク』によって壊れてしまった。
ダンジョンブレイクに対する対応がずさんであり、しかも防衛時の防衛設備も不十分で、多くの被害を出したと報道された。
その報道によって『八王子ギルドは政府から支援金を減額』、そして『それらに対する責任としてギルドマスターは解雇』となり、追い打ちを掛けるように活動していた探索者は他の場所へ、信頼していた地元民もその恐怖から他の場所へ引っ越してしまった。
その結果‥‥今の八王子ギルドには、ほとんど人が残っていなかった。
「はぁ‥‥今日も探索者‥‥0。新規登録者も‥‥0。うちのギルドって、どうしてこうなったかな~。ダンジョンブレイクが起きる前は私もギルドマスターの秘書だったのに、今はただの受付嬢。そろそろ転職も考えないとダメかな~~。」
受付嬢は誰にも見られていないことをいいことに机に突っ伏していると、「あの~探索者の新規登録はできますか?」と声を掛けられて、「え?」と間抜けな声を出して起きるのだった。
この2人の出会いは、八王子ギルドを大きく変えることになる。




