第19話 選択の代償。
家に帰って来た俺を待っていたのは、普段では考えられないほどの豪勢な料理と飾り付けられたリビングだった。
「うわ~~凄い。」
その光景を見て驚いた表情をすると、姉が“凄いでしょ”みたいな自慢げな表情をしていて、なぜか分からないが少しイラッとしたので何か仕返しをしてやろうと思ったが、やめた。
家族にはたくさん心配をかけたし、入院中も色々としてもらったから、今日だけはその表情をしていていいよ。
「ほら、今日は悠真のおかえりなさいパーティーだから奮発して超豪勢にしたわよ!!それじゃあ、みんな席に着いて。」
母の言葉と共に俺、姉、父は各々の席に座り、俺は水、姉はジュース、父母はワインを持って乾杯の準備をした。
「じゃあ、乾杯の言葉、流石に悠真か?」
「え?俺??いや、父さんでいいじゃないの?」
「このパーティーの主役は悠真だ。悠真のおかえりなさいパーティーなんだから、乾杯の言うのは当然、悠真だろ?みんなもそれでいいよな?」
「「うん」」
と母も姉も頷いていた。
流石にこれを断ることは出来ない。俺の為にここまで用意してくれたわけだし、最後の最後で俺が壊すわけにはいかないよな。
と、俺はグラスを持ち上げた。
「えーーと。まず、みんなには色々と心配と迷惑を掛けてごめんなさい。でも、俺はあの時の選択は間違ってないと思ってる。あの時の選択を決断したお陰で俺も雪も、そして雪が助けた子もみんな生きているわけだから、俺は良かったと思ってる。
無いとは思うけど、もし仮に同じ場面に遭遇したとしても、俺は同じ選択をすると思う。
だから、今日はその感謝の意を込めて―――乾杯!!」
「「「乾杯」」」
と、そうして俺の“おかえりなさいパーティー”はスタートするのだった。
◇
そうしておかえりなさいパーティーを終えて一晩を過ごした。そしてある程度時間を家で過ごしたあとに家を出て、雪の家に向かってインターフォンを押すと――出てきたのは雪だった。
俺と雪は玄関で目が合ったまま数秒かたまり、雪が「悠真が来たから少し話してくるね。」と言い残して家を出てきて、俺の手を取って歩き出した。
俺達は何も話すことなく歩いて、初めて出会った公園に着いた。すると、雪が「この場所で出会ったんだよね?私達。」と言ってきたので、俺も“そうだな”と返した。
そしてしばらく沈黙が続き、俺はあの時の話を持ち出した。
「あの時のことは誰にも言ってないか?」
「うん、私は言ってないよ。」
「そう‥‥ん?今、私はって言ったか?」
「うん、言った。私は言ってない。」
「俺も言ってないぞ?」
「うん、知ってるよ。でも、言葉以外でも伝わる可能性はあるってことだよ。さっき、この場所で出会ったって言ったじゃん。だ、だから‥‥わ、別れも‥‥この場所って‥‥思ったの。」
雪は大量の涙を流していたが、俺はそんなことも気にならないぐらい“別れ”という言葉に思考を持っていかれていた。
「ど、どういうこと?何‥‥別れって‥‥俺と雪が離れるってことか?」
「――コクン。」
雪は頷いて肯定した。そのことに俺は何とか飲み込んで事情を聞くことにした。まずは雪の話を聞かないことには何も分からないからだ。
「一体‥‥な、なにがあった?」
「実はね。パパとママが離婚することになったの。理由はパパの‥‥浮気でね。ママはそのことを知っていて、お金のこともあって‥‥知らないふりをしてたんだけど‥‥もう限界だって言ってたの。」
「事情は分かった。で、でも何で今なんだ?お金のことがあったから、今まで離婚しなかったんだろ?」
「うん。それは‥‥私の力のお陰で解消されたの。」
その言葉を聞いて、俺は全てを理解した。
雪は契約したんだ。雪の能力であれば欲しがる企業はたくさんいる。しかも、雪はまだ5歳だ。そのことを加味すれば、もっとスキルも強化されて強くなるだろう。
だから病院側もあれだけ雪に会わせなかったんだ。
例えたくさん探索者たちが入院しているとしても、一般と探索者で分けて管理すればいいだけの話だ。それを理由にするってことは、今は会わせたくない理由が他にあったってことだ。
はぁ‥‥クソッ!!俺がバカッ!!病院であればステータスの検査をする可能性があるってことを、なぜ考えなかった。いや、それを考慮したところで‥‥あまり変化はない‥‥か。
「なるほど‥‥雪は‥‥探索者になるのか。」
「うん、そうなると思う。だから小学校は探索者の学校に行くことになると思う。」
「だろうな。」
俺達は何も話せなくなった。いや、正確には何を話していいのかが分からないのだ。だから俺は、この場所から雪から離れたかった。雪のそばにいれば、もっと悲しい気持ちになるからだ。
雪のとった選択は正しい。両親のことを考えるなら、お金がもらえる企業と手を組むのは当然だけど‥‥俺は、心の何処かで雪とパーティーを組んで探索者になれると思っていた。
でも、その運命は完全に――無くなった。
俺はその場から立ち上がって雪と向かい合う形を取った。これが俺と雪が話す最後の機会となるわけだから、せめて自分の中に悔いが残らないようにしようと、言葉を始める。
「雪が取った選択は間違ってないと思う。俺が雪の立場なら同じことをすると思う。だから、道は分かれるけど俺は雪のことを応援してる‥‥だから、探索者として頑張ってくれ。」
そう言い残してその場を去り、二度と雪と話すことはなく、雪はこの街を去って行った。




