第15話 本音と関係。
「グヒヒヒ‥‥」
オークは雪を見て豚みたいな気持ち悪い声を上げて、口からはポタポタと涎を垂らして早く食わせろと言っているようだった。
俺はここから逃げないと雪の手を引っ張るが、雪は完全に腰を抜かしていて立つことが出来なくなっていた。
「クソッ‥‥雪ッ!!逃げるぞッ!!」
と雪の手を引いてそのままお姫様抱っこで部屋を飛び出して、階段を駆け下りて家から逃げ出した。もちろんこれだけではオークを撒けるわけもなく、オークも俺達の後を追ってきていた。
足の速さ的にはこっちに分があるが雪を背負っている分マイナスだし、体力だってその分持っていかれるから向こうの方が絶対に上だ。どうにかして撒かないとだが―――。
「‥‥クソッ!!」
何か考えようとしても走っているせいで考えることに集中できなかった。こうして走っている間にも俺の体力はどんどん減って行き、速度は落ちていた。
あぁ‥‥もう、こうなったら‥‥これしかない。あのオークを倒す以外に俺達が逃げられる方法はない。
「はぁ‥‥はぁ‥‥雪。どうだ?もう動けそうか?」
「う、うん、大丈夫だと思う。さっきよりはマシ。」
「そう。なら、ゆっくりと聞いてくれ。まず、俺達はこのままじゃああいつから逃げ切ることは出来ない。俺達の体力じゃあオークには敵わないから、持久戦になったら追いつかれる。
だから、ここからは二つの方法がある。
まず一つは今からオークに向かって走ってその後を抜けてダンジョンの方に走ること。ダンジョンの方に向かえば探索者の人と会える可能性があるが、その分、他の魔物と出会う可能性もある。もし、仮にオーク以外の魔物に出会ってしまったら、もう逃げることは出来ない。
そして、もう一つはあのオークを俺達で倒すことだ。あのオークさえ倒してしまえば、また隠れることが出来る。
はぁ‥‥はぁ‥‥俺は正直‥‥運に掛けるぐらいだったら自分と雪の‥‥力に掛けたい。」
「私達で倒す??どうやって?相手は魔物なんだよ?倒すだけの力なんて‥‥ないよ?」
そう。雪は自分の力を知らない。だが、俺は雪の力を知っている。その力の使い方だって知っている。俺達が協力するなら、あのオークを倒すことは不可能じゃない。
だから、ここで雪は知る必要がある‥‥自分の力と俺の力を。
「大丈夫だ。雪には言ってなかったが、俺には“相手がどんな力を持っているのかを知る”力があるんだ。前に雪は言っていただろ?変な波みたいな物が見えるって。」
「う、うん。」
「それは雪が特別な力を持っているからだ。俺はその正体が何かを知っていたが雪には伝えなかった。伝えることで雪が‥‥特別になって‥‥俺から‥‥離れて行くかもしれないと‥‥思って‥‥言わなかったんだ。」
それが俺の本心だった。あの時は日本政府とか、未来とか、やりたいことなどと散々理由を並べたが、結局は俺が雪から離れたくなかったんだ。その本心に気付きたくなかったから“隠したん”だ。
「でも、今は違う。これからも雪とみんなで生きていたいと思っている。もちろん自分勝手なことを言っていることは分かってるけど‥‥頼む、俺に力を貸してくれ!!」
「ふふ。全然、自分勝手じゃないよ‥‥悠真は。私の手をいつも引っ張ってくれてる。私がもっと小さかった時も、私の我儘をたくさん聞いてくれたってママから聞かされた。
それに、今日も‥‥自分はママと一緒に逃げられたのに‥‥私の為に‥‥私を救うために‥‥残ってくれた。そんな悠真は全然、自分勝手じゃない!!私にとって悠真は最高な英雄だよ?
私には分からないけど‥‥悠真が私には力があるって言ってくれるなら、それを信じる。私は何をしたらいい?」
「‥‥ありがとう、雪。」
と俺は足を止めて雪を下ろしてその手を差し出して――。
「俺の手を握ってくれ。」
「ふふ‥‥分かった。」
と俺達は再び手を繋いで俺と雪のマナを連結させた。
◇
以前に雪と俺のマナを送ったときに繋がったパスがあるので、それを今度は片方ではなく両方でつなぐことで二人のマナを手の繋がりを通して一つにした。
雪のマナが俺の体内に入ってくるのを感じる。何だろう、少し変な感じがするが嫌な気分はしない。むしろ暖かくて心地よい。
「‥‥雪。君も感じてる?この暖かさを。」
「うん。悠真をもっと近くに感じるよ。」
二人の関係が一段深くなったことで、今までは悠真が雪を支えていたが、今は二人で相互的に支え合えているので目の前にいるオークに何も感じなくなっていた。
「グヒヒヒ」
と足を止めた二人に駆け寄ってくるオークだった。
そんなオークに二人は手を向けた。
「行ける?」
「うん。もちろん。」
たった、それだけの会話を済ますと二人の手に光が集まり――小さい弾となった。
この弾は魔法ではない。魔法を発動させる前のマナを具現化した『魔弾』だ。魔法より威力は落ちるし効率も悪い。だが、この魔弾の元になったのが雪であれば話は別だ。
雪の持つスキルによって、ただの魔弾であってもオークぐらいなら殺せるだけの威力を持つし、それに今回はそれをサポートした悠真の存在もある。悠真はこの世界では唯一のステータスを強化することが出来るのだ。その能力をもってすれば魔法の技術の向上など容易いものだ。
本当に厄介だった。でも、お前のお陰で‥‥俺達は最高の関係になれたよ、ありがとう――『魔弾』
と放たれた魔弾がオークの体に当たって―――ドカーーーーン!!と爆発を起こした。
本来であれば逃げないといけないところだが、俺達二人はその反動でその場に気絶するのだった。
こうしてオークVS悠真・雪の戦いは悠真・雪の勝利で幕を閉じた。




