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プロローグ

▸この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、一切関係ありません。

 橙色の街灯に照らされているものの、 ほとんど視界が効かない夜道を歩く。そう遠く無いうちに冬になりそうなこの季節。暖かみのある光はゆらゆらと揺らいでいるためか、どこか頼りなく、私を不安にさせる。いや、不安になるのはこの季節と街灯のせいだけでは無いだろう。少し前の自分であれば、冬が近づいてこようとも、街灯を見る間もなくこの道をさっさと歩いていたはずなのだから。

 しばらく歩いていると、自分の右手側に古臭い建物が見えてきた。その建物の正面に立ち、 体ごと向き直る。闇に身を潜め、静かに息をしているような異様な雰囲気を纏っているそれに、つい喉を鳴らす。そして、自分を叱責するように頬を叩き、奥歯を噛み締めながらその扉に手を伸ばした。私が扉を開けたことにより、小さく鳴った鈴の音に体を強張らせながら足を踏み入れる。

 建物の中は案外暖かく、光に満ちていた。外と中との落差に軽く目を回しながらもそっと扉を閉めた。

「おや、こんな夜更けに依頼人とは・・・随分とお困りの様ですね」

 奥の方から現れたのは、人形かと疑ってしまうほど美しい容姿を持った一人の青年だった。

 私が鳴らした鈴の音に気づいたのだろう。青年は作り物のような笑みを浮かべながら私を見つめた。

「ようこそ、探偵事務所伽藍堂へ」

 西洋の血が流れているのだろうか。青年は琥珀色の瞳を輝かせながら、舞台役者のように大袈裟なお辞儀をしてみせた。


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