耳切坊主(ミミチリボージ) ②
第82話
天音を囲むミミチリボージは3体になった。そして天音は、これをチャンスだと捉えていた。
-よし、言葉たちのお陰でこいつの力が削がれた、やるなら今だ!!
天音は全力の霊気を身に纏い、両腕に長大な霊刃を作り出した。金色に輝く霊刃は、膨大な霊圧を持って1体目のミミチリボージに振り下ろされる。
霊刃に切られたミミチリボージは瞬時に具現化し、両手に持った包丁で霊刃を受け止める。だがその包丁は紙切れのように切り刻まれ、すでに用を成さない。
天音の全力の霊刃の前には、1体のミミチリボージの力で敵うはずもなかった。
「ぐぉおおあぁああーーーっ!!」
その叫びは、瘴気の体を霊刃で切り刻まれ、欠片となって燃え上がるミミチリボージの断末魔だ。
-1体はやった!あと2体!!
だが天音の霊気も、最初のミミチリボージとの闘いで相当の量が削がれていた。1体の霧散を受け、残る2体は同時に具現化する。
-真っ黒い顔、耳がない、更に黒い双眸・・・覚えている。こいつらだ、こいつらが僕の母さんを!
「うぅおぉおおぉぉぉおおーーーーっ!!」
咆哮する天音の気力は自らの削がれた霊力を補い、再びミミチリボージに向かう。天音の両腕の霊刃は更に光度と硬度を増し、ミミチリボージの鎌を溶かした。その勢いのまま、霊刃はその頭を霧散させ、胸を、腹を、そして腰に掛けて、袈裟切りに消していく。もう残りは、足だ。
「消ぃえぇろぉぉおおおおーーーー!!」
そして1体が、断末魔の声を上げる間もなく天音の前で消滅する。
-あと1体っ!
天音はすでに、自身の霊気を使い切る寸前だ。だが母を奪ったマジムンに対する天音の怒りは、自分の力を超えるものを天音に与えた。
「おまえがぁぁあああぁーーーーっ!!」
最後の1体に向け、天音は力の限りの一撃を加える。
その時だった。
「あまねぇーーっ!待てぇええーーーっ!!」
叫び声が天音の耳をつんざいた。
天音は叫び声の方に顔を向ける。それは神鈴の叫びだった。天音が攻撃を止めた瞬間、神鈴はミミチリボージに手を伸ばし、その霊気で縛り上げた。これで一時は、この1体の動きを止められる。
「神鈴さん、どうして!こいつを祓えば、母さんは解放されるのに!!」
「違う!お前のお母さんは、こいつら全部を押さえていたんだ!」
「だから、こいつを祓えば!」
「お母さんは、明日葉さんは、ずっと3体を、今は4体を押さえていた。封印していたんだ。だけど、1体ずつ祓われれば、明日葉さんは残りのミミチリボージに入るしかない!分かるか!最後の1体をこのまま祓えば、明日葉さんも消える!!」
「っ!そうか・・・母さんはミミチリボージと一体化しているんだ。このままじゃ母さんは救えない・・・じゃ、じゃあ神鈴さん!僕はどうすればいいんですか!!」
「待て、あまね、私の力、忘れたか?」
「あ・・神鈴さんの力・・・・・降霊術」
「そうだ、だから待てって言ったんだ。見ろ、言葉と百合子があのミミチリボージを圧倒している。もうすぐあいつを倒すだろう。そうしたら、お前の目の前の1体から・・・」
天音の目を真っ直ぐに見つめながら、神鈴が言う。
「明日葉さんを・・・降ろすぞ」
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同時刻、真鏡名家の一番座。スズ子は自ら張った結界と神鈴の目を通して、状況を全て把握していた。
「ほぉほぉほぉ!さすが神鈴だわ。鈴音よ、こりゃもう、娘より孫の方が上じゃなぁ」
「おかぁよ、誰がいつ、どこで、私が神鈴より上だと言いました?あの子はずっと私より上ですよ?産まれたときからずっと」
「かぁっかっかっか!!よく分かってるさぁね!鈴音、さすがスズ子の娘さぁ。だがこの一件、まだ終らんぞ?分かるな?」
「はい、おかぁ、これからですね」
スズ子と鈴音の会話は、神鈴に届いてはいなかった。
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「神鈴さん!あと一撃、私と百合ちゃんの一撃で、こいつを倒します!!」
言葉はそう叫ぶと、全力の霊気を竹刀に込めた。竹刀は真っ白に輝く霊気と濃密な霊気を二重に纏い、巨大な霊刃となる。
「言葉さん、私が動き止めます!今!!」
百合子の霊鞭もその威力を増し、弱ったミミチリボージを縛り付ける
「行くぞ!チェエエーーストォオォオーーっ!!」
裂帛の気合いを纏い、言葉の霊刃はミミチリボージを中点から切り裂く。その刹那、ミミチリボージの瘴気は散り散りに燃え、宙に消えた。
「や、やった・・あまね!!」
「天音!言葉と百合子がやった!次はお前と私だ!!タイミングを合わせろ!」
「はい!神鈴さん!!」
神鈴は天音に目で合図すると、ミミチリボージの拘束を解いた。暫時瞬く間に、天音の強靱な霊刃がミミチリボージの中点を捉える。
魂魄の一撃は、最後のミミチリボージを左右真っ二つに切り裂くと、更に粉々に打ち砕き、そして燃やし尽くした。
「はぁ、はぁ・・・やった」
「あまね、まだだぞ。ほら」
天音は神鈴が指差す先を見やった。
そこには、母がいた。いや、マジムンと化した、名城明日葉がいた。
「あ・・・・あああ・・母さん」
明日葉は天音たちを見ている。だがその目に宿る光は、我が子を見る光ではなかった。
・
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おう、おう、おう、おう。
ミミチリボージどもが消えた。
私は自由になったのか?
でも、どうして私は消えない?
私は、自由に消えることもできないのか?
ああ、目の前に人がいる。
懐かしい匂い。
何の匂いだったかしら。
こども?
こどもなの?
でも目の前にいるのは・・・おとなだ。
こどもじゃない。
私の、こどもじゃない。
ああっ!!
だれ!また私を捕らえようとするのは、だれ?
ミミチリボージじゃない・・・お前は。
お前は、だれだ!!
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天音は目の前に浮かぶ明日葉の姿を凝視している。だが、一瞬だけ襲いかかる素振りを見せた明日葉は、すぐに動きを止め、その身をよじり始めた。まるで何かに囚われ、その手から逃れようとするように。
「神鈴さん!母さんの様子がおかしい!あれは!!」
「天音、あれは何かが明日葉さんを捕まえようとしているんだ!!ミミチリボージじゃない、何者か!」
明日葉の動きが止まった。天音と神鈴の目は、明日葉の後ろに広がる波打ち際で真っ黒に立ち昇る、竜巻のような瘴気の渦を捉えた。
つづく
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