もののけが棲む所 ③
第78話
玉城南小学校で霊気を吸われた子供たちは、神鈴たちの手当を受け生気を取り戻した。全ての家を回り終え、奥間が運転する車は国道331号線を海沿いに北上している。
その車中、皆は先ほど経験したことを話していた。
「私、あんな風に霊気を入れてあげるの、初めてです。なんだか子供たちがどんどん元気になるのって、嬉しかった」
そう話すのは言葉だ。
「ほんとですね、私なんか神社の娘なのに、あんなことがあるなんて知らなかった。霊能者には人を癒やす力があるんですね」
百合子も同調する。
広大の霊障に巻き込まれた子供たちは10人、その家を回る際、その親たちに説明したり話をする合間、子供たちの霊気を補う必要があった。神鈴はそれを言葉と百合子に任せた。神鈴は雪子の謝罪や教師の説明を補い、それを助ける役目、そして天音はその間、子供たちに残った思念を読んでいたのだ。
「ふふ、百合ちゃん、神社仏閣はその土地自体に神聖な力が宿ってるから、人はそこに行くだけで癒やされることがあるのよ?それにあなたのお父様も、言わないだけで力があるのかもしれないね」
そんな神鈴の言葉に、奥間も感心したように口を開いた。
「あの子、広大くん?それにお母さん、こう言ってしまうとあれだけど、とってもラッキーだったんじゃない?神鈴に天音、それに言葉ちゃんと百合ちゃん、うちのホンモノはそこいらのホンモノとは違うからねぇ。お金取れば良かった?」
「なに言ってる、勇二、私はそんなことしない」
「あはは、冗談冗談!神鈴はそんなことしないよね」
ふたりの様子を見て、言葉と百合子が小声でコソコソと・・・
「ね、百合ちゃん、なんか夏が過ぎてから、ふたりってなんか・・・ねぇ」
「はい、あの与那国から帰って、神鈴さんも奥間さんも、急に名前呼びになっちゃってて」
「あれかな、そういうことかな、なのかな」
「そういうことって、わぁ、そういうことですか!」
「うるさいぞー、そこのふたり、うるさぁーーい」
ふたりの小声は神鈴にはしっかりと聞こえていたようだ。言葉と百合子は思わず首を竦める。
「ところでだ、天音、広大くんと子供たち、どうだった?」
全員の残留思念を読んだ天音は、車中でずっと目を瞑っていた。
「あ、はい、神鈴さん、春香ちゃんのときとだいたい同じです。でも、ちょっと気になることがあって、話はもう少し後でいいですか?」
「あ?ああ、今も読んでいたのか。じゃあ後でな」
天音は頷くと、再び目を瞑った。
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玉城南小学校の風景が見える。
ああ、校庭で友達が遊んでるなぁ。泥警か。面白そうだ。
背中に衝撃、何かがぶつかったか。
広大くんが走り出した。取り憑かれたな。
ほんの数歩だ。背中が重い、足になにか絡み付いた。ああ、春香ちゃんと一緒だ。毛むくじゃらの腕が広大くんの足を抱いている。
もう一本の腕が、広大くんの肘を掴んでいる。どう考えても腕の位置関係がおかしい。
広大くんの意識は、あるな。自分で自分の体をどうにもできない恐れ、哀しみ。
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ああ、女の子の髪の毛を掴んで、引き摺って。男の子を引き倒して、殴って、止めようとした子、上級生か、でもあっという間に殴り飛ばして、蹴り飛ばして。
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女の子の思念だ。広大くんの顔、恐ろしい形相だ。でも泣いている。かわいそうに。女の子は叫んでる。
いたいいたい。
やめてやめて。
上級生の子だ。こんなやつ、オレが・・そう思ったんだな。でも、広大くんは怯まない。突っ込んでくる広大くんに、体は自分の方が大きいのに引き倒されて、蹴られて。
ああ、みんな力が抜けている。霊気を吸われたんだ。
広大くんに取り憑いた、ミミチリボージに。
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まただ、また母さんが現れた。広大くんの顔を両の手で包んで、大丈夫、助けてあげる、かわいい男の子、母さんはそう言ってる。
広大くんの霊気が、一気になくなった。
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森が見える、海も見える、眼下に小さな島がある。
これは、奥武島だ。
なぜこれが見える?僕は子供たちの思念を読んでいたのに、これは、この道に残った思念か。
そうか、広大くんたちを通じて、僕はミミチリボージと、母さんの思念に繋がったのか。
現象が起こってすぐに思念を読んでるからか、だからこんな風に読めるのか。
ミミチリボージと母さんは、ついさっき、ここを通った。
これは、母さんが残した思念なんだ。
この道は海よりかなり高いところを通っている。海岸線がよく見える。少し大きな港が見えてきた。次は、小さな港、カーブが多い。
見上げると、螺旋状に建設された大きな橋が見える。
ニライカナイ橋か。
今、僕たちも同じ所を走っている。やはりつい先ほど、ミミチリボージと母さんが、ここを通ったんだ。
ここを通り過ぎるとすぐ、知念西小学校だ。ここにあいつは入る。ミミチリボージの目的地は、ここのはずだ。
遠くに久高島が見える。それにすぐ先は斎場御嶽だ。どちらも沖縄の聖地。
だけど、そんな聖地になぜミミチリボージは行きたいのか、その理由は分からない。
左手に知念西小学校、今、通り過ぎる・・・
あっ!!
なんで?どうして!!
目を開けなきゃ!奥間さんに言わなきゃ!
車を、車を!
・
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「奥間さんっ!車を止めて!!」
「うぇ!どうした!!」
「きゃっ!!」
突然車内に響いた天音の声に驚いた奥間は急ブレーキを掛けてハンドルを切る。車はタイヤを軋ませながら路側帯に止まった。
突然の停車に言葉たちの悲鳴も響く。
「どうしたの?天音、今まで目を瞑ってたのに!」
言葉の問い掛けにも応えず、天音は叫んだ。
「今、消えたんです。ミミチリボージの気配、いや、母さんの、名城明日葉の残留思念が!!」
つづく
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