まじむんになった母 ①
第72話
ああ、まただ。またこいつが目覚めた。
私はこいつのことを、押さえ切れない。
でもなぜ、こいつを押さえていなければならないのか。
もう忘れてしまった。
もう何年こうしているのか。
もう忘れてしまった。
苦しい、辛い、悲しい、寂しい、私にはそんな感情しかない。
だって私は、マジムンだから。
私はこいつを押さえるためだけに存在している、マジムンだから。
おう、おう、おう。
目覚めたこいつが暴れている。
こいつは3人もいるから、誰かひとりが必ず目覚めて暴れ出すんだ。
そして私は、こいつを眠らせる。
でもすぐに、他のひとりが目を覚ます。
おう、おう、おう。
だめだ。やはりすぐには止められない。
力が足りない。
ああ、まただ。目の前に子供がいる。
だめよ、早く逃げなさい。
ほら、ほら。
ああ、でも、かわいいわ。
なぜなの?どうしてこんなにかわいいの?
もう少し見ていたい。もう少し近づきたい。
もう少し、もう少し。
触りたい・・・・抱きしめたい・・・・
おう、おう、おう。
ああ、こいつが子供に手を伸ばした。
だめなのに、こいつは押さえ込まなきゃならないのに。
子供から霊気が流れ込んでくる。
ああ、ああああ、幸せ・・・
ああ!いけない!!子供が暴れている。
こいつの瘴気に冒されて、気が狂ったように。
子供は側にいる子供から霊気を奪って、それがこいつに吸われて。
それが私にも流れ込む。
ああ、あああ・・・・幸せ。
だめだ。違うんだ。私はこいつを押さえ込む。
そのために存在する、マジムン。
子供を、助けなきゃ。
ああ、かわいい子供。
私の、子供。
助けてあげるわよ。
ほら、手を伸ばして。
私が、助けてあげる。
あなたからもらった力は、私を強くしてくれる。
その力でこいつを眠らせて、すぐにここを離れよう。
おう、おう、おう。
眠れよ、マジムン。
ミミチリボージ。
・
・
前学期試験の成績が開示され、準備に明け暮れた大学祭も終わり、すでに9月も過ぎようとしていた。そんなある日、琉球弧伝承研究室の面々はいっときの平穏を楽しんでいる。
「当銘さん、うちのサークルって、大学祭で意外と人気あるんですね」
副部長の当銘に声を掛けたのは、2年の大城望だった。
「なんか、オカルト系って集まる人を選ぶって言うか、そんな気がしてたんですけど、男子も女子も、学年もあんまり関係ないみたいに集客してたでしょ?結構儲かっちゃいました?」
「え?そういうことはねぇ、新垣に聞いてよ。大体さぁ、去年まではお客さん、あんまり集まらなかったんだから、望ちゃんだって去年のこと知らないって事は、来なかったんでしょ?このサークルの出し物」
「あ・・う~ん、そうですねぇ、えっとぉ、真美さん!どうですか?儲かっちゃいました?」
「ふふふ、どう思うね、のぞみくん」
意味ありげな笑みを浮かべ、新垣真美が決算ファイルを起動する。
「今年はねぇ、すごいのだよ。売れた売れたぁ!マジムンTシャツ!霊能御守り!霊能100円そば!」
「おお、頑張った甲斐がありましたねぇ」
「おうよ!のぞみくん、だがねぇ、一番儲かったのはぁ」
「儲かったのは?」
「占い天使ミスズの部屋!10分2000円!!」
「ああ!奥間さんが発案した、あれ!神鈴さんがめっちゃ嫌がってたヤツ!」
「あはは、そうだね、なにしろ元手がほぼ0円だからねぇ、売り上げ丸ごとボッタクリ、もとい!純利益だもんねぇ、笑いが止まらんわ」
「そうなんだ!じゃあ、打ち上げ行っちゃいます?行っちゃいます?」
「そうだね!前の部長の時はもう赤字で赤字で。でも今年は違う!くらくら寿司とか焼き肉クィーンとかでもいいはずよ?神鈴さんにお願いしちゃうか」
部長が神鈴になって大成功に終った琉大祭、ふたりで盛り上がる真美と望の声に誘われたように、部室のドアが開いた。
「あのさぁ~、廊下まで聞こえてるんだけどさぁ~、前の部長の赤字がなんだって~?」
「え?誰?」
入ってきた男性に向かって望が思わず口走ったが、真美は目を丸くして立ち上がった。
つづく
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