神社の娘と初めての怪異 ①
第64話
6月のある日、大学生たちは近づく夏休みに向けて勉強に忙しい。それはこの数ヶ月の勉学の成果を試される前学期試験が、夏休み直前の8月初めに実施されるからだ。
そんな中にも関わらず、琉球弧伝承研究室に4人の2年生が入部することになった。
「はい、入部書類はこれで大丈夫だね。4人とも、琉球弧伝承研究室にようこそ!」
副部長の当銘健太は笑顔で書類を束ねた。ひと学年で7名もの部員が集まるのは、この弱小サークル史上初の出来事なのだ。
「いやぁ~2年生が7人に増えたなぁ。君たち4人とも、天音に誘われたんだよね?」
「いえ、オレたち誘われたんじゃなくって、天音の友達ってだけなんです。ただちょっと前、学食の前でオレたち、天音に助けられちゃって。あ!助けられたのはオレと伊波だけで、大城さんと仲間さんは違うんですけど」
そう言うのは、ガジュマルに巣くうマジムンに襲われ、天音に助けられたと思い込んでいる玉城智だ。その横では、やはりそう思い込んでいる伊波武史がブンブンと首を縦に振っている。
そんなふたりの横に座る、ショートヘアの女子が話に加わった。
「あの、私たち、そういうオカルト的なのちょっと興味があって、このサークルのことは知ってたんですけど、玉城君と伊波君からその話を聞いて、わぁ、なんかすごいな!って」
ボーイッシュなショートヘアの前髪をかき上げながらそう話すのは、大城望だ。
「私は直接聞いてないんですけど、望から一緒に入ろって誘われて。それに、サークルに入ってた方が就活とか有利かなって思って」
入部理由を正直に話すのは仲間五月、セミロングのストレートヘアに縁なしメガネを掛けている。
おとなしそうな印象の五月に対し、望は活発な印象を受けるが、ふたりとも漫画やアニメが大好きなインドア派だ。ときに不思議系の動画チャンネルにはまり、ふたりで夜中まで盛り上がることもある真面目な文系女子だった。干物系女子、と呼ばれることもあるようだが。
「うんうん、そういうの大歓迎です。全然出てこない幽霊部員も結構居るしね。じゃ、今ちゃんと出てくる部員たちのこと、教えとこうか」
当銘は、えっと、と天井を見上げながら指を折る。
「4年生は副部長の僕と、奥間くんでしょ?4年には女子、いないんだよなぁ。3年は真鏡名部長と書記の新垣さん。3年は女子だけなんだよ。で、2年は君たち7名ね。そして1年は・・」
当銘は目線を天井から部室の奥に移した。
「ほら、今日来てるあの2人は1年生なんだ。君たち、ちょっと来て、自己紹介してね」
当銘に促され、玉城たちの前に2人が並んだ。
「えっと、じゃあ私から。宝山百合子です。東京出身です。よろしくお願いします」
「あ、僕は金城達也です。糸満出身です。よろしくお願いします」
当銘はふたりについて、簡単に紹介を始める。
「宝山さんは、東京の有名な神社の娘さんなんだよね。それでこの大学を選んだのも沖縄のスピリチュアルなところを体験したいって、ね?」
当銘の話に百合子はわずかに微笑みながら頷く。
「で、金城くんの方は・・」
「あ、副部長!それは言わないでもらえますか?」
「ああ、ごめんごめん。でもまあ、これはすぐに分かると思うから、とにかくよろしくね」
達也の方は何か知られたくないことでもあるようだが、当銘の話しぶりから、それほど重要なことでもなさそうだ。
「じゃあ、ふたりは1年だけど先に入部してる訳だし、4人にこのサークルのこと、教えてあげてね」
当銘はそう言うと、書類を持って部室を出て行った。残された6人は取りあえず席に着き、1年生の話を聞くことにした。
まず宝山百合子が口を開いた。
「えっと、なにか分からないこととか、ありますか?私たちも入ってすぐだから、そんなに詳しくはないんですけど」
「え~っと、宝山さん?大城望です。私たちは自己紹介してないから、今言っておくね。私は玉城君と伊波君から、すごく不思議な事が本当に起こるサークルなんだって聞いて入部したの」
望の話を智が引き継ぐ。
「うんうん!あ、オレは玉城智、こっちは伊波武史。オレたち二人がね、このサークルの安座真天音にマジムンから助けてもらったんだよ。いやぁ、あいつはシンケンホンモノ!それでさ、入部を決めたって訳、なっ!」
「そうさぁ!あのガジュマルの下でさ、オレたちふたりともマジムンに首を絞められたんだよ。それを天音がさ、ぽんって背中叩いて、な!」
智と武史は頷き合いながらその時のことを話し出した。それを受けるように五月も口を開く。
「あの、私は仲間五月です。私は今の話、望に聞いたんだけど、そんなことが本当にあるなら見てみたいなって。それに、就活にも有利かなぁ、って」
五月の話に、敏感に反応したのは金城達也だ。
「へぇ、サークル活動って就職に有利なんですか?ふぅ~ん、それでネェネェは入学してすぐここに入ったんだなぁ。そうか、天音さんが関係してるかもって思ったけど、就職に有利なのか。それに天音さんには八千代さんがいるし・・」
「え?えっと、金城達也くん、だったね。ネェネェって、お姉さんがここにいるの?ってことは・・それにさ、天音と八千代さんって、ふたりは付き合ってるの?」
意外そうな顔をして玉城が聞き返す。
「あ、天音さんと八千代さんが付き合ってるのかっていうのは、えっと、すみません、僕の想像です。それと、えっと、ネェネェっていうのは、その、あの~」
しどろもどろになる達也に変わって、百合子がきっぱりと言い放った。
「もうっ達也くんったら!ネェネェっていうのは2年の金城日葵さんです。達也くんは日葵さんの弟です!」
2年生の4人は顔を見合わせている。微妙な表情の男子ふたりにひきかえ、女子ふたりは意味深な笑顔だ。
「へぇ~、達也君ってネェネェ大好きなんだ、それでこのサークルに?達也君って、もしかして・・シ・ス・コ・ン?」
ずばりと切り込んだ望の言葉に、達也は黙って俯いてしまう。その顔は真っ赤に茹で上がっていた。
そんな達也をじっとりと横目に見ながら、百合子が話を続ける。
「あの、それはそうと、さっきから安座真さんの話がすごく出て来るんですけど、安座真さんってそんなすごい霊能があるんですか?私たちは4月の末に入部したんですけど、真鏡名部長には霊能を感じます。でも安座真さんには、そんなに・・」
「え~?だってさ、智とオレが襲われてるの、あっという間に助けたんだよ?天音はホンモノ!絶対そうさ~」
普段は言葉少なな伊波がムキになって言い返す。それに玉城も加わる。
「そう!武史の言うとおり!天音はシンケンホンモノ!って言うかさ、もしかして宝山さんもそういうチカラ、あるの?」
「あぁ、えぇっと、まぁ、あります・・ねぇ」
そう言う百合子の顔には、自慢気な表情が浮かんでいた。
「ほんと?シンケン??聞いたか武史!」
「うんうん!じゃあこのサークルって、ホンモノが3人になるわけ?すごいじゃん!」
智と武史が驚きの表情で声を上げた。
「え?3人?えっと、真鏡名部長と私と、天音さん?」
そう言う百合子の言葉を、それまで黙っていた達也が否定する。
「いや、宝山さん、4人だと思うよ?ネェネェが言ってたからさ」
「4人?もうひとり?それって誰のこと?」
百合子がそう言ったとき、部室のドアが勢いよく開いた。
「わぁ!ホントに2年生が4人も入ってる!女子もふたり?うれしぃ~」
そう言いながら入ってきたのは、八千代言葉だった。
つづく
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