真鏡名家の厄災 ⑤
第62話
あの日の全てを語った天音は今、この場の変化を感じ取っていた。天音の声に緊張が混ざる。
「・・・大事なことがもうひとつ」
「大事なこと?それって、なに?」
「母さんのお父さんとお母さんを襲ったマジムン、そいつは今もいるよ?普段は自動車道に潜んでいるようだけど、ほら、降りてくる」
全員が身構えた。スズ子以外は。
「かっかっかっか!見えたわ!天音、お前は大した子供だよ。お前の思念読みを借りて、儂にも全てが分かった!天音、お前には分からんか?こいつの正体!!」
「はい、スズ子さん、この高架橋が出来る前、ここは豚小屋だった。そこでは病気で死んで、埋められた豚もたくさんいた。その豚が変化したマジムンが、この自動車道の何キロにも渡って取り憑いている。だからここだけでは小さい瘴気しか感じないけど、実際は・・」
「そうさ、よく分かったな!こいつは強い霊力に惹かれて、普段は何キロにも引き延ばした瘴気を一点に集中させる。そしてこいつは、人間の両足を真似ていたな!」
「はい、両足の間を車が通るように!」
「そうさ、つまりな!こいつは豚の怪異、ワーマジムンさぁね!それも特大だ!」
スズ子が叫んだ瞬間、高架橋に掛かる自動車道から濃い瘴気が立ち昇り、側道にいる全員を包み込もうと降り注いできた。
「神鈴!辺土名さんを守ってあげな!」
「分かった、おばぁ!」
神鈴は辺土名助教の側に駆け寄ると、ふたりの上に霊気の壁を作った。緑色に輝く壁は降り注ぐ瘴気を防ぎ、触る毎に霧散させていく。
鈴音はスズ子に寄り添い、やはり瘴気を防ぐ。優梨も雄心も同様だ。
「僕がやるよ!」
天音は誰に言うことなく叫び、両手に巨大な霊球を練り上げた。ワーマジムンを一撃で霧散させる大きさだ。
ワーマジムンは沖縄で古くから恐れられる豚の怪異だ。様々な形を取って現れるが、最後は人の霊気を吸うために、両足の間をくぐり抜ける。そして霊気を吸われた人は最悪の場合、マブイを落とす。
天音の頭上にあるワーマジムンは巨大だった。この場所で人の両足を真似たコイツは、数え切れない人間の霊気を吸って巨大化したのだ。中にはマブイを落とす人もいただろう。
-卑しいワーマジムン、お前ごとき、僕が一撃で吹き飛ばす!
巨大な霊球に惹かれるようにワーマジムンの瘴気が集まり、そして触れた瞬間霧散する。あとはこの霊球で瘴気全体をすり潰すだけだ。
「よし、行きますっ!」
「待て!天音よ!儂がっ!!」
「天音、母さんがやるっ!!」
ほぼ同時にスズ子と優梨が叫んだ。スズ子はすでに見えない瞳をワーマジムンに向け、体に強力な霊気を纏っている。優梨もチーノウヤの力を解放し、はち切れんばかりの胸の前に両手を置き、銀色に輝く霊気を練り上げていた。
「ほぉ、その白銀の輝き、それを撃つか!優梨!!」
「ああ、撃つともよ!おばあちゃん!」
スズ子と優梨は互いに顔を見合わせ、タイミングを合わせた。
「せぇーいっ!!」
「やぁああっ!!」
ふたりの息が合い、互いの霊気が絡み合って巨大な霊弾となる。それは見上げるほどの両足に似せたワーマジムンの本体を触れる側から消し飛ばし、そして最後に現れた醜い豚の顔を焼き尽くす。
ワーマジムンの断末魔の鳴き声が高く響いた。
それは、車の急ブレーキの音に似ていた。
「あいつめ、誠仁と由布の霊力を吸っておったわ」
「そうね、でも、これで終ったわ。父さんと母さんの、仇を討った」
誠仁と由布に繋がる、祖母と孫娘、誠仁と由布の命を奪ったワーマジムンは、そのふたりの力で葬り去られた。
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つづく
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