真鏡名家の厄災 ③
第60話
優梨たち、そして神鈴たち全員がスズ子の話を聞いている。
スズ子は優梨の父母の事と、優梨の生い立ちについて話していた。そこには、この数ヶ月の間に真鏡名家で調べた事も含まれている。
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「最初はさ、このババアの息子、誠仁とあの女、宮城由布が出会ったことが、そもそもの始まりなのさ・・」
誠仁と由布が出会ったとき、誠仁が20歳、由布は19歳だった。ふたりはすぐに恋に落ち、結婚を前提としての交際が始まった。
誠仁が宮城家に挨拶に行くと、由布の父母は若い誠仁を快く迎えてくれた。事は順調に運ぶと思われた。だが、由布が真鏡名家に挨拶に来たとき、それは起こった。
「あのときさ、由布は、この家の結界を越えられなかったのさ。儂は誠仁に残った由布の気を見て疑念を持っておったがな。実際に会った由布のそれは、儂の見立てを越えておった。それでさ、儂は誠仁を咎めたのよ。真鏡名の家名を汚すのか、あんなマジムンを連れて来おって、とな」
ふと、スズ子の見えない目が、遠いものを見るように動く。
「そうじゃな、思い返すと、儂は今日も、あの日と同じ事をしてるさぁね。あの日、あれから誠仁は帰って来んかったのになぁ」
その日、誠仁は由布を連れて駆け落ちしたのだ。
当然、宮城家は激怒した。なにしろ駆け落ちの理由が、娘がマジムンだ、というのだから、怒りはもっともだろう。
駆け落ちした誠仁は姓を真鏡と改姓し、由布と結婚した。それは宮城家からも、真鏡名家からも認められない結婚だった。
そして生まれたのが、優梨だ。だが、優梨が4歳の時、誠仁と由布は事故で他界する。
残された優梨を宮城家か真鏡名家のどちらが引き取るか、そういった話し合いも持たれたが、優梨は宮城家に引き取られることになった。それは、優梨が真鏡名家に入ることで宮城家と真鏡名家の関わりをが続くことを、宮城家が強く拒絶したからだ。
しかし、優梨を引き取ったのは実の祖父母ではなく、叔父夫妻だった。
それほどに由布の父母の怒りは激しかった。
「その後の話はさ、門中の者に頼んで調べてもらったんだが、優梨よ、お前は子供の頃からずっと真鏡姓のままだったらしいの。つまり、宮城家はお前を引き取っても、家に入れたくはなかったとみえる」
スズ子の話を聞きながら、優梨はずっと俯いたままだった。ここまでは優梨も聞いていた話だろうが、自分のそんな生い立ちを改めて語られるのは、辛いことだった。
雄心が優しく優梨の肩を抱く。
天音も優梨の手を握りしめていた。
ここで、スズ子との交渉役となっていた辺土名が口を開く。
「スズ子さん、その由布さんの特異な力というのは、どのような力で、なぜ真鏡名家はその力を厄災と呼ぶほどに恐れるのですか?」
「ああ、辺土名さん、そうじゃの、由布の力は恐ろしかった。それはの・・」
スズ子はひと呼吸、間を取った。
「マジムンを自分の中に取り込んで、己の力とするものよ。考えてもみらんね。もし、強いマジムンを何体も取り込めるとしたら、そしてその力を自在に扱えるとしたら。もう誰もそれを止められん。だからの・・」
スズ子はまたひと呼吸置いて、言った。
「真鏡名はそれを厄災と、“魔を呼ぶ力”、と恐れたのよ」
由布がこの家の結界を通れなかったのは、その時すでに、由布の中に数体のマジムンがいたからだった。
矮小なマジムンだったから害はなかったし、誠仁もそれほど気にしてはいなかった。普通に存在するマジムンになりかけの霊が憑いているのだ、くらいに思っていたようだ。
だが、スズ子始め真鏡名家は由布の本当の力を看破し、そして恐れた。
誠仁と由布が事故死したとき、真鏡名家ではこう噂されたという。
-やはりだ、やはりあの力は、魔を呼ぶのだ。
「分かったかな?優梨。お前の中にチーノウヤがおるな?そいつはそこいらのマジムンとは比べものにならない大マジムンだ。それこそ由布の力を受け継いでいる証拠。お前の父母を死に招いた力さ。私が、このスズ子がそいつを祓って、お前の力を封印してやるから。そうしたら、真鏡名に入ったらいいさ。どうね?」
スズ子の声を聞きながら、俯いたままの優梨が何かを呟いている
「・・・だ」
皆が優梨の声を聞いている。そして、優梨が顔を上げた。
「いやだ!!この力、手放すもんか!!」
「なに!お前が一緒におるのはマジムンぞ?それにお前の力は魔を呼ぶ!お前はその力で、皆を不幸にしたいのか?」
「そんなことはない!私の中のコイツは、昔は確かにマジムンだった。でも今は私の一部なのよ!それに、私の霊力とコイツの霊力を合わせて、ずっと、ずっと、天音を守ってきたんだから!!」
-母さんは力を失うのを恐れている。それは僕のためだ、僕を守るためなんだ。
天音は思い出していた。
優梨が東京への移住を決めたのは、沖縄では天音を守り切れないと判断したからだった。その時は、沖縄のマジムンが強いからだと思った。だけどそれだけじゃない。優梨は、沖縄で発現した由布の、自分の母の力を奪われることを恐れたのだ。
-母さんがそこまでした理由、それも、僕を守るため。
優梨の想いを受け取って、天音はそれを守ろうと決めた。
天音は渾身の力を込めて叫んだ。
「スズ子さん!あなたは誠仁さんと由布さんが、どうやって亡くなったか知りたくありませんか!」
スズ子が天音を一瞥し、ふん、と鼻を鳴らす。
「出来るもんならな。じゃが、もう何十年前だと思うとる?儂が40過ぎだったから、もう30年以上も前さぁね。それにあの場所、マジムンの匂いがプンプンしておった。由布が魔を呼んだに決まってるさ」
そのスズ子の言葉に、神鈴が割って入った。
「おばぁ、天音なら出来るよ!この前見たでしょ?私の目を通して。この子の思念読みの力はただ事じゃない。この子なら分かる。天音なら!」
「神鈴!おばぁになんてこと!ちょっと黙りなさい」
鈴音が神鈴を諫めるが、神鈴は聞かなかった。
「ううん、黙らない!お母さんも知りたくないの?お母さんの、お兄さんのことなのよ?」
神鈴の言葉に鈴音は黙ってしまった。やはり真相は知りたいのだ。
「ほぉ、と言うことは、鈴音さん、あなたは私の叔母さんね?」
優梨が鈴音を見やって言う。
「そして神鈴ちゃん、あなたは私の、従姉妹」
神鈴にも目をやる。そして優梨は、スズ子に目線を移した。
「そしてあなたは、私のおばあちゃん。ねぇ!おばあちゃん、私に、孫の私に1回だけ、1回だけでいいの!おばあちゃんらしいことしてよ!ねぇ!」
優梨の言葉を受け、スズ子は見えない目をトートーメーに向け、ぼそりと呟いた。
「グソーのご先祖様方よ、どうするねぇ?・・・そうねぇ、分かった。それで、いいさぁね」
スズ子は皆を向き直り、そして声を張る。
「分かったさぁ!優梨、あんたの願い、このばあちゃんが聞いてあげようね!」
スズ子の合図で、全員がその場所に向かう。
そこは事故現場、優梨の父母、誠仁と由布が、命を落とした場所だ。
つづく
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