ガジュマルのコワい話
第54話
大学2年生の春、天音は同級生のふたりと大学の学食にいた。一緒に沖縄そばをすする同級生の名前は、玉城智と伊波武史。時々こうして一緒に過ごす友人だ。
このふたりといるときは好きなアニメや音楽やら、面白かった動画の話題やら、気楽な会話で肩が凝らない。
「ところでさ、天音のサークルって、どう?」
「どうって、何がどう?なのさ」
「いやさぁ、天音んとこオカルト研究会だろ?なんか面白い話とか、あるのかな~って。動画にもよくあるじゃん!真実の霊体験!とか、恐怖映像ベスト100!とかさ」
琉球弧伝承研究室をオカルト研究会と言うのは玉城だ。横で伊波もウンウンと頷いている。
「いや、オカルト研究会じゃないし、それに智たちの興味って、ホントにそこか?」
「いっや~分かる?俺のサークルも悪くはないんだけどさぁ、天音んとこって、人数は少ないみたいだけど、すごいんじゃん?」
「はぁ?すごいって、なにがさ」
「特にさ~部長さんがさ~、超がみっつも付く美人じゃ~ん。それに同級生の八千代さんと金城さん?なんかタイプの違う可愛いさだし、3年の新垣さんだって結構人気なんだぞ?やっぱオカルト研究会だから?不思議な魅力って言うか・・な?武史」
「うんうん、俺さぁ、彼女って出来たことないからさ?小さいサークルにそういう女子がいるのって、憧れるわけさぁ~」
伊波も玉城に同調して、夢見る瞳を空中に漂わせている。
「はぁ、そうかいそうかい。そう思うんだったら、ふたりとも入ればいいじゃん。うちはちゃんとサークルに出て来るメンバー少ないから、来る人拒まず、みたいだぞ?」
「え?シンケン?じゃあさ、考えよっかなぁ~」
「おれもおれも!智が入るならおれも入りたい!!」
「はぁ、ところで智、前から気になってたんだけどさ、その、シンケンって、なに?」
「ああ、天音は東京から来たから分かんないかもなぁ。シンケン?っていうのは、マジっ?とか、ホンマか?ホントに?うっそ?みたいな?ニュアンス?」
「あぁ、そういうことかぁ。じゃ智はシンケンを教えてくれたから、ちょっと怖いこと、教えようか」
「え?シンケン?どんなの?」
「あのな?・・・」
天音がふたりに教えたのは、この学食の入り口に生えている”ガジュマル”の話だ。
ガジュマルにはキジムナーが住んでいる、というのは昔から言われるが、この学食のガジュマルは違う。
学生がこのガジュマルの下を通るとき、ぼんやりしたり、考え事をしていると、その隙を突いてマジムンが手を伸ばすという。
それは払っても払っても絡み付いてきて、時には首に巻き付いてくるらしい。
マジムンの手が首に絡みつくと、外そうとしても外れない。そして最後はガジュマルの枝に引き上げられ、首を吊されてしまうのだ。
「・・・という話だ。どう?こわい?」
「え~?そんなことあるわけ無いじゃん!小学生の怪談レベルかよ!」
智は大げさなリアクションで怖くないアピール。武史には意外と刺さったようで、少し落ち着きがなくなった。
「ああっと、おれ、もうそろそろ戻ろうかなぁ~、なぁ天音、智、一緒に行こうよ」
そう言う武史に、自分たちもそろそろ、と言うことで、3人で学食の席を立った。
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学食を出ると、すぐにガジュマルが目に入る。
空はどんよりと曇り、昼なのに薄暗い。近くで雷がゴロゴロと鳴って、すぐにでもスコールが降りそうだ。4月なのに珍しい。
天音はふたりが並んでガジュマルの下に入ったのを見計らって、後ろからひと言だけ声を掛けた。
「あっ!くびにっ!!」
ふたりは、ひっ!っと悲鳴を上げ、慌てて自分の首をまさぐる。そこには確かに、絡みつく何かがあった。
「うゎああああ!!首に!くびにぃぃ!!」
ふたりは更に慌ててそれを外そうとするが、外れない。
「うああああ、あまね!なんとか、なんとかしてぇぇぇ!」
「分かった!ふたりともすぐ助ける!目を瞑って!両手を下にっ!!」
ふたりは天音の言うとおり、目を瞑り両腕を降ろして“気を付け”の姿勢を取る。
「むにゃむにゃむにゃむにゃ、はんだらかんだらほんだら、むにゃむにゃ・・・たぁ!!」
天音はとっておきの「おまじない」を唱え、ふたりの背中をポンッと叩き、絡みついたものを払った。
「ほら、ふたりとも、もう大丈夫、目を開けていいよ」
「うぁあ、シンケン!?これ、シンケン??オカルト研究会、すっげ!」
「こわー!こわぁーー!!天音の話、ホントじゃん!!こっわぁああ!」
天音を見るふたりの目は、すっかり尊敬の眼差しだ。
「ふたりとも助かって良かったねぇ。でもさ、この程度で叫んでるんじゃ、うちのサークル無理だし、部長になんて言われるか分かんないよ?」
「へ?あの美人の部長さんが?」
「ああ、真鏡名神鈴さん、あの人、僕なんか足下にも及ばない、ホンモノ、なんだ」
ふたりは顔を見合わせた。
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学食を離れ、天音はふたりと別れた。
今にも降り出しそうな空を見上げながら、天音は呟いた。
「この薄暗さ、人って、こんな雰囲気にも騙されるんだよなぁ。あんなの、僕が後ろから声を掛けた瞬間、ガジュマルの気根をふたりの首に掛けただけなのに」
ガジュマルの気根は枝からフサフサとぶら下がり、地面に着くと地中に根を張る。そして親木から離れ、独立したガジュマルとして成長する。その気根は見ようによっては首を吊った人のように見える。人はそう思えば、そう見えてしまうものなのだ。
「でもまぁ、あのガジュマルの霊たちは僕みたいな悪戯はしないから、いっかな、祓わなくっても」
天音は足取りも軽く、サークル棟の琉球弧伝承研究室に向かった。
つづく
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