風樹館の万年筆 ⑧
第51話
2週間後、琉球弧伝承研究室に入ってきた辺土名助教授は、足早に席に着いた。
「すまない、遅くなった。戦没者名簿や当時の軍の名簿と大学の職員名簿、いろいろ調べたよ。それで、ある人物の名前が挙がったんだ。じゃあ、いいかな?」
部室に集まっていた神鈴、天音、そして奥間はそろって頷いた。
内容が内容なだけに、この件に他の部員は関わっていない。あらましを知る比嘉部長もだ。あれから皆、呪いや風樹館でのことを話すことも止められている。
「年代は沖縄戦の末期、沖縄本島南部は地上戦に突入して地獄の様相だった。それは知っているね?」
辺土名の問い掛けに全員が頷く。そして辺土名の話は核心に触れた。
「安座真君の話からすると、時期は地上戦終結間近、5月末から6月のことだろう。そこでガマの中で亡くなった日本兵の名前を調べ、遺物として収集された万年筆があることも確認した。それが遺族に返された記録もあった。万年筆に名前が刻んであったんだ。消えかけていたそうだがね。そしてその名字は、この大学の職員録にもあった。30年前に定年退職した人だ」
神鈴が身を乗り出す。
「助教、その人の名前って」
「ああ、小那覇智久、この大学の元学長だ」
おなはともひさ、その名前を聞いて、天音が大きく頷いた。それを見て、神鈴が口を開く。
「辺土名助教、よく分かりました。そこで私たちから、助教にお詫びすることがあります」
「詫び?なんのことだね?」
「はい、私たちはその、小那覇智久という人物について、すでに知っていたんです。元学長ということも」
「な?しかし、どうやって?」
「天音の、安座真の霊視です。先日、助教がお帰りになってから、奥間の体に残った呪いをもう一度霊視しました。集中して霊視した天音は、その名前を聞き取ることに成功したんです」
「なんだって?じゃあなぜ私に伝えなかったんだね?」
「申し訳ありません。ただ、その名前から、天音はその人が元学長というところまで視えてしまった。もしかしたら、学校がこのことを伏せてしまうんじゃないかと、万年筆もどうにかして処分するとか・・・そうすると、呪いは解けません。それどころか、土着の呪いになってしまうことも・・」
「分かった!そういうことか。君たちは学校が隠蔽を図ると思ったんだな。しかし、んん~~~」
辺土名は腕組みしながら唸っている。万年筆の持ち主の名前を伝えられなかったことを相当怒っているように見える。その様子を見て、天音がたまらず声を上げた。
「辺土名助教!ほんっとうに申し訳ありません。助教に言わないようにって言ったのは僕なんです。この呪いのことは30年にも渡って噂でしかありませんでした。でも、はっきりとした現象が起こっているのに、僕たちはこの件について口外するなと言われましたし、もしかしたらって。でも今はもう、お詫びするしかないと思っています!」
「・・・まぁ、その考えも、分からなくもないか!」
天音の謝罪を受け入れたのか、辺土名は笑顔で顔を上げた。
「少々腹立たしい、というか信じてもらえなかったのはかなりショックだが・・分かった!それで、これからは私のことを信頼してくれる、かな?」
3人は大きく頷き、大きく返事した。
「はい!辺土名助教授!信頼します!」
「よ~し!じゃあ安座真君、この万年筆から何を見たのか、今度こそ、包み隠さず話してもらおうか?」
辺土名は、いたずらっ子のような笑顔を浮かべた。
つづく
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