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風樹館の万年筆 ⑦

第50話


 神鈴が提示した術者に繋がる手掛り、それはまず、術者が大学職員であること。これは風樹館のケースに万年筆を置けたことでも分かる。そして年齢は、戦争当時20歳前後だったと思われる万年筆の持ち主の弟であれば、現在は80代から90代である、ということだ。


「そうか、ならば、沖縄戦の戦没者資料の中に名前があるかもしれないな。それに、ガマで見つかった遺物でも形見の品は出来る限り調べて縁者に返すんだ。そこからも分かるだろう。大学職員だというのも大きいな。名簿があるはずだから、それと照合しよう。しかし私にはよく分からないんだが、どうしてその人物が万年筆の持ち主の弟だと分かるんだね?」


 辺土名の疑問は当然だった。天音が神鈴に目配せする。


「それは、天音、話すか?」

「はい、じゃあ、お話しします。実は・・」


 天音は辺土名に、奥間を助けたときに感じたことを包み隠さず話した。それは、万年筆の持ち主がガマの中で経験した凄惨な出来事や、弟への思いといったものだ。だが、その人物が手の平に書いた手紙については、言わなかった。


「そうか、君にもユタのような力があるんだね。それは信じるよ。だってね、目の前に、本物のユタがいるからね」


 辺土名は神鈴の能力をよく知っていた。だから天音を同行させたのか、と納得もいった。天音と神鈴がいたから奥間は助かったのだろう。


「分かった!では今話した内容で調べよう。その間、風樹館は閉館だ。判明事項があればまた連絡するよ!」



 サークル棟を出て琉球弧伝承研究室の窓を見上げながら、辺土名は考えていた。


-しかし、すごいサークルになったもんだ。真鏡名君が入ってからすごいんだが、あの安座真天音って子、またとんでもないんだろうな。だが分からないこともあるぞ?なんで真鏡名君は奥間って普通の子まで、あそこに連れて行ったんだ?いや、それはもう考えまい。とにかく今は、万年筆の人物の調査だ。


 辺土名は大きく頷くと、止めていた自転車に跨がって走り出した。



「天音、どうして助教に手紙のことを隠したんだ?」


 辺土名が部室を出て行ってすぐ、神鈴が天音に聞いた。


「いえ、隠したわけじゃないんです。あのとき、弟の名前を呼んだ兄のイメージを感じたとき、分からなかったんですよ、弟の名前が。それが分かっていれば助教に伝えても良かったんですけど。それに、助教の話だと特定できそうでしたよね?そう思ったら、ひとつ考えを思いついて」

「ほぉ、どんな考えだ?」

「はい、もう一度、イメージを視てみようと思うんです。さっきは奥間さんを押さえるので必死でしたから、もっと集中して視てみようって」

「ん?どうやるんだ?風樹館にはもう行かないぞ?なぁ奥間」

「いやぁあ!ぜ~ったいもう行きませんって、1億積まれたって!いや、1億なら・・いやいやいや!行きませんっ!」

「あはは、大丈夫ですよ、奥間さん。十分に残ってますから」

「ああ、そうか。そういうことか」

「はい、神鈴さん。奥間さんの体に残ってるんです。今度はそれを、しっかり集中して視ます」

「なになに?オレの体になにが残ってんの?」


 神鈴が奥間に向き直って、静かに言った。


「のろいだよ、の・ろ・い」


 奥間は無言で縮み上がった。



 奥間の手を握り、じっと目を瞑っていた天音は、大きく息を吐き出して、顔を上げた。


「お、天音!どうだ?見えたか?手紙の内容、弟の名前!」

「はい、見えました。内容も、名前も。それに、その名前の人物の思念も、この大学に色濃く残っていました。風樹館で視た残留思念と同じ人です。僕、全部分かってしまいました」

「じゃ、どうする?助教に伝えに、行くか?」

「いえ、言わないでおきましょう。助教が調べてくる名前と照らしてみるんです。もしかしたら、違う名前が出てくるかも知れませんから」

「むぅ、天音、お前、辺土名助教を疑ってるのか?」

「いえ、さっき辺土名助教は嘘なんかついていませんでした。でも、この人物の経歴だと、もしかしたら・・・」

「うん、分かった。天音がそれほど言うなら、信用する」

「ありがとうございます。神鈴さん」


 後は、辺土名からの連絡を待つだけだった。




つづく


お読み頂きまして、ありがとうございます。

毎日数話ずつ更新していますので、ぜひ続きをお読みいただきたいと思います。

気に入っていただけましたら、ブックマークや評価をしていただけますと嬉しいです。

よろしくお願いします。

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