風樹館の万年筆 ⑥
第49話
某時刻、サークル棟の琉球弧伝承研究室には、比嘉部長と奥間、神鈴、天音、そして辺土名助教授がいた。
神鈴はすでに、先ほど風樹館でのことを辺土名に報告している。
呪いに掛かった奥間が自傷行為に走り、それを天音が止めたこと。呪いの根源たる呪物が万年筆だったこと。そしてそれは、ガマから発見された展示物に紛れこませてあり、外から持ち込まれた物であろうということも。
ただ、天音に霊視能力があることは伏せた。辺土名が嘘をついても分かるように、だ。
「助教、ご依頼の件、このとおり、かなり難しいことになっていまして、もう少し詳しく経緯などを教えていただけませんか?」
辺土名はひと息、ふぅっと大きなため息をつくと、話を始めた。
「真鏡名君にはあらかじめ話しておいたけど、じゃあ、もう一度はじめから話そうか。それと、もう少し詳しく、ね」
全員が辺土名の言葉に耳を傾けた。
「実は、この現象が始まったのは30年以上も前からなんだ。当時から風樹館の担当者、つまり大学の事務職員だな。この人たちの中に、風樹館の担当を外れたいとか、体調を崩して長期休むとか、結果、大学職員を辞めてしまう者が続けて出て、何かあるんじゃないか?って、長年、代々の職員の間で噂になっていたんだよ・・」
担当を外れたい理由は、とにかく薄気味悪いから、というようなものだったし、体調不良の症状は、悪夢を見るとか幻覚を見て眠れない、という者が多かった。
最初はどの場合もストレスからの病気だと思われていたのだが、彼らの友人など、悪夢や幻覚の内容を聞いた人たちの間で、どれも内容が似ているか、ほぼ同じなのはおかしい、という噂が立ったそうだ。
そしてそれはついに、風樹館の担当職員だけではなく、風樹館を訪れた学生や一般の観覧者にも広がった。数名で訪れた観覧者の中に、館内で意識を失うとか、錯乱して館を飛び出す者たちが現れだしたのだ。
30年という時間を掛けてじわじわと拡大する怪現象に、ついに大学側も放置できなくなった、ということらしい。
「それで、その人たちが共通して感じるのが、炎、なんですね?」
「ああ、そうなんだ。そして今日、奥間君が感じたのも、熱、炎、渇き、だったね?」
「え、は、はい~、って言うか、確かにそんな感じなんですけど、もう意識がぶっ飛ぶって言うか、もう死ぬ、って言うか、上手く言えなくて、すみません」
奥間が受けた呪いは、ケースの中に入っている状態とは比べものにならなかった。天音と神鈴がいなければ命を落とすほどの呪力だったのだ。
「助教、お話ありがとうございました。ただ今日、奥間が受けた呪いに関しては非常に危険です。これを放置すると、おそらくですが、犠牲者が出るんじゃないかと」
「それほどなのか、その、万年筆に掛かった呪いというのは」
「はい、それで、どうしてもその万年筆を持ち込んだ人物を特定したいんです。そして、呪いを解くよう説得しなくては」
「分かった。だが、なにか手掛かりがなければ調べられるかどうか」
「それについて、手掛かりはいくつかあります。まず・・」
神鈴は辺土名の目をまっすぐに見て、続けた。
つづく
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