風樹館の万年筆 ④
第47話
神鈴の後ろに立っていた奥間が突然硬直し、手足を痙攣させている。
「あ・・・あ、みす・・・みすず・・さん?あれ?あ・・あれ?」
「奥間!いかん、結界が破れた!こいつを開けると呪いが強く発動するのか!!」
風樹館の中では霊力を持たない奥間は呪いを受ける可能性が高かった。だから神鈴はずっと奥間に結界を張っていたのだ。だがケースを開けた瞬間、奥間に強い呪いが襲いかかった。その呪力は神鈴の想定を遙かに超えていた。
「あ・・あぁぁああ!のど!喉が!!のどぉー!水を、水を!ミズーー!」
「あぁあ!あついい、あっついいい!!なんで、なんで目が見えない目が見えない目がぁー!喉が焼ける、のど!やける!あっつい!あっつ・・・」
「ぎゃぁああーー!!」
奥間は口を信じられないほど開け、よだれをだらだらと垂らしていた。見開いた目は真っ赤に充血し、流す涙には血が混ざっている。鼻からも流れ出る血が口に入り、よだれと混ざって襟を赤に染める。更に奥間は、両手で喉を掻きむしろうとして、喉笛に爪を立てていた。
「奥間さん!やめて!のど、喉が、破れる!」
天音は両の手の平に霊気を集め、奥間を後ろから抱き止めた。喉を掻きむしろうとする奥間の手を腕力と霊力の両方で押さえる。
「奥間さん!あっ・・・っ!!あっつ!・・ぐっあああ!!!」
押さえる天音に奥間の体から何かが流れ込み、その脳裏に鮮明なイメージが炸裂した。
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暗いガマの中、自分の後ろで皆が息を潜めている。何人?何十人?全員が民間人だ。自分は、自分は兵隊だ。民間人を守らなければ、敵はすぐそこにいる。気付かれてはならない。相手は鬼畜だ。なにをされるか分からない。女子供もいる。乳飲み子もいるのだ。
自分が、自分が守らなければ。
あ!どこにいく!外に出るんじゃない!お前たちは大人じゃないか!子供たちを守れ!
いかん、あいつらが逃げれば敵がここに気付く。あぁ、赤子よ、泣いてくれるな。おまえの泣き声に気がついて、あいつらが来る。
あぁ、駄目だ。ガマのすぐ外で、あいつらが何かを準備している音がする。だが、自分には闘う術がない。とにかく今は、民間人を隠さなければ。
あぁ、赤子よ、泣かないでおくれ。
××××、××××に手紙を書きたい。そうだ、万年筆、まだ書ける。なにかに、なにかに書きたい。手か、手の平か、手の平にペン先を突き刺して、入れ墨のように書けば、自分が死んでも、××××に届くかも。
ガマの前で何人かが叫んでいる。いかん、いかん、民間人を、民間人を守らなければ。武器は無いが、自分が、自分が出て行けば、民間人は見逃してくれるかも。
走れ、ガマの入り口まで走れ、早く!あいつらが何かする前に、止めるんだ。
なんだ?なんだ?真っ赤ななにかが壁になってガマの入り口を塞いでいる。
前に進めない。
真っ赤だ、何の音だ?
轟々と。なんの匂いだ?
何か焼けてる?肉か?毛か?燃えているのか?なにが?
これは火か!炎なのか!!火炎・・放射?・・
やめろ!やめろやめろやめろ!!自分の後ろには民間人が!女が!子供が!赤子が!!
殺すなら自分だけに、兵隊の自分だけにしろ!!
あああ、やめろぉおー、もうやめろぉぉぉ!
ああああああ!目が!目が見えない!!真っ赤だ、真っ赤だ!
ああ、あんなに赤子が泣いていたのに、今は何も聞こえない。赤子が死んだのか?それとも自分の耳が、焼け落ちたのか?
喉が!喉が熱い!あああっつうういいい!!みず!みずっ!!
そうだ、手、手を隠せ、手を燃やすな、手の平には、××××への手紙が・・
××××、××××・・・お、おれは・・・兄ちゃんは・・・
と・・×××
×・×・×・×
つづく
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