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風樹館の万年筆 ②

第45話


 1年前の2月、琉大の1年生だった真鏡名神鈴は石垣島の博物館に招かれていた。


 表向きは博物館の展示品調査。


 歴史ある古い品々にまつわる伝承を調査し、それをリポートにまとめて資料化するという依頼だったが、当時その博物館では数年に渡り職員の原因不明の体調不良や事故、事件が続いていたのだ。


 そしてついに観覧者が体調不良を訴えるに至って、地元のユタを頼んで博物館の展示品を視てもらっている。

 ユタによれば、どの展示品かは分からないが、周囲に霊障を与える物があり、職員や観覧者に影響が出ているとのことだった。


 そして琉球大学にそのような現象を扱う学生がいる、との助言を得た。

 当時すでに、その世界で真鏡名神鈴の名は広まっていたのだ。


 高名なユタの家系、真鏡名の出であるということも、そしてそれが交通費のみの負担で、祓い自体は実質無料だということもその理由だ。


「あの件では展示物の中に紛れて置いてあった石板が霊障の元だった、と教えただろう?」


 神鈴は天音の目を見ながら言う。天音も目を逸らさず頷いた。


「あれは霊障ではなく呪いだった。そこは言ってなかったんだ。呪いは簡単に祓えない。下手すればこっちが呪われるし、呪いを掛けた本人に返ってしまう場合もある。だからあのときは、呪いを封じる結界を張った部屋に石板を移し、そこに書いてあった文字から犯人を特定した」

「それ、なんて書いてあったんですか?それに、そこから犯人が特定できるなんて・・」

「ああ、それは一見すると意味のない文字の羅列に見えたんだが、アナグラムになっていたんだよ」

「アナグラム?」

「ああ、暗号の一種だ。単純に文字を入れ替えたり、読む方向を変えると意味が変わる、とかな」

「ああ!あいうえお作文、みたいな?」

「あいうえお・・・まぁ、そうだな。そしてそこには、館長の名前と死、殺、呪といった文字が浮かび上がった。つまり、館長を呪い殺そうとして、その呪いが館長だけではなく、周囲の人たちにも影響を与えていたんだ。それでな、博物館職員の中に犯人がいるって踏んだ。犯人が石板を置ける人物っていうのもあるしな」

「そうか、外部の人間なら石板なんか簡単には置けないですよね、それで犯人が分かって・・」

「ああ、私の前で呪いを解かせた。呪いを掛けた本人だからな」


 天音は神鈴の話を聞きながら、その場にいる感覚に没頭していた。これで天音も神鈴と同様の経験をしたことになる。普段、神鈴の思念を読むことはできないのだが。


 高校生の頃、天音は言葉ことはの霊気が見えず、剣道の試合稽古で連戦連敗だったことを思い出した。

 言葉はかなり大きな霊気を持っていたが、普段はそれを内に秘めていた。だから相手の霊気を視ながら闘う天音は、剣道歴に勝る言葉には勝てなかったのだ。

 だがそのとき、言葉は意識して霊気を出さなかったわけではない。それは言葉の能力のようなもので、無意識にできていたのだろう。


 神鈴はそれを、自由自在に操ることができる。そして今は、自分の経験を天音に見せるために開放している。


「分かりました。神鈴さん、怪異を祓ったり幽霊と会話したり、そういうのと呪いは全然違う、ってことですね?」

「ああ、分かったな。今回この大学内で起こっていることも、これによく似た事例だ。ということは・・」

「呪いを掛けた本人を見つける必要がある。そしてそれは大学内の人間だから、外部に漏らしたくない」

「そうだ、そのとおり!じゃ、そこまで分かったなら、行こうか」


 そこまでふたりのやりとりを呆然と聞くだけだった奥間が、ようやく声を発した。


「へ?行くって、今から?どこに?神鈴さん、どこに行くんです?」

「ああ、風樹館だよ」

「ひぇ!風樹館、ですか?」

「ん、奥間は来なくてもいいぞ?天音とふたりで歩いて行くから」

「あ、いや!キャンパスは広いですから歩けば結構掛かります!行きますよ!オレも!」


 奥間は慌ててシートベルトを締め、シフトレバーをDレンジに入れた。



 大学のキャンパスは広い。1周歩けば楽に半日は掛かるだろう。だが車ならば、風樹館の近くの駐車場までわずか数分だ。


 3人は、駐車場から風樹館までだらだらと登る坂道を歩いていた。


「ふぅ、坂を登るのは意外ときついな。奥間が送ってくれて助かったよ」

「え?そうですか?いや~、神鈴さんが言うならオレ、ヤンバルまででも走っちゃいますよ!でも、オレなんかが付いてきて、いいんですか?ふたりの邪魔になるんじゃ?」

「ああ、いや、邪魔というか、ひとりで置いておくと、奥間が呪われるかもしれないだろ?それに、この呪いで普通の人間がどんな状態になるのか、一緒に居た方が確認しやすい」

「は?・・・はぁ?」


 奥間は瞬間的に天音を振り返り、お前もそう思ってるの?という表情を見せた。


「あ!いや奥間さん、そんなこと微塵も思ってませんよ!神鈴さんも、冗談ですよね!今の!」

「あはは、まぁね」


 神鈴は慌てる奥間の顔を見て、さも面白そうに笑った。




つづく


お読み頂きまして、ありがとうございます。

毎日数話ずつ更新していますので、ぜひ続きをお読みいただきたいと思います。

気に入っていただけましたら、ブックマークや評価をしていただけますと嬉しいです。

よろしくお願いします。

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