ガジュマルの下の幽霊たち ⑤
第42話
それはずっと昔のこと。
ここに生える大きなガジュマルがまだ小さな木の芽だった頃、ここには涸れ井戸しかなかった。この集落ではもう使われなくなった涸れ井戸。
女の子はお使いがてら、興味半分で井戸を覗き込み、そして落ちた。
暗い井戸の底で枯れ葉や泥に覆われた女の子は、そのまま息絶えた。
女の子がどこにいるのか、誰にも知られぬまま、時は過ぎた。
そして、まだ小学生だった女の子は、そのまま井戸に縛り付けられてしまった。
遊びたいなぁ、誰かと一緒に、遊びたいなぁ、って、思いながら。
何十年も過ぎたある日、女の子は大きくなったガジュマルの下で遊ぶ4人の男の子を見つけて、嬉しくなって、井戸から出て一緒に遊んだ。
そしてかくれんぼをして、女の子は涸れ井戸に隠れた。
それは、自分の体を見つけて欲しいという女の子の願いもあったから。
4人は、涸れ井戸の女の子を見つけた。
そのとき、4人はこの女の子が、涸れ井戸に落ちて死んだのだと思い込んでしまった。
4人が見たのは女の子の霊体・・・幻だったのに。
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神鈴がそこまで伝えると、4人の霊気は更に大きく膨れ上がった。正気を失ったように蠢くそれは、まるで悪鬼のように見える。
「安座真!霊圧が大きい!それに霊たちが、自分たちを騙したのか、あのとき、もう死んでいたのか?って、こりゃ怒ってるぞ!悪い霊ではないが、今すぐ祓うか?」
「神鈴さん、待ってください。もう少しですから」
「もう少しって、なにがだ?」
「ほら、この子、見てください」
宙に浮かぶ女の子の霊は、泣きそうな顔で4人を見つめている。そしてその唇は、何かを話すように動いていた。
神鈴がその動きを読む。
「・・・ご・め・ん・な・さ・い・・・ごめんなさい?」
神鈴がその言葉を口にした瞬間、4人の霊は女の子に殺到する。神鈴は完全に虚を突かれた。
「ま、まずい、安座真!やるぞっ!!」
両の手を組み合わせ、瞬間的に印を結んだ神鈴は、それを4人に向け突き出した。神鈴の霊気が塊となって放出される。
だがそれは、天音が手の平から発した目映ゆく光る霊気に防がれた。
「大丈夫、神鈴さん、大丈夫ですよ、ほら」
4人の老人が小さな女の子を囲んでいる。老人たちの霊気はほのかに揺らぎ、小さな女の子を包む。
と、女の子の姿は見る間に小学生ほどの大きさになった。
老人たちは口々に何かを話している。
彼らの言葉は音にはならないが、心に直接響き渡った。
「あぁ、良かった。僕たちが騙されてただけだったんだね」
「ようやく見つけてあげられた。ごめんね、あのとき逃げて」
「やっと戻ってきたんだね、ずっと、会いたかったんだよ」
「寂しかったね、ごめんね、これからは、ずっと一緒だよ」
老人たちは手を取り合い、天を仰いだ。
その瞬間、老人たちの姿は目映い光の中に掻き消え、小学生の男の子の姿になっていた。
4人の男の子と、ひとりの女の子。
5人は手を繋ぎ、輪になった。みんな笑っている。
そして5人は光の輪になって、ふわりと空に昇っていった。
ガジュマルから1枚、ひらひらと葉っぱが落ちる。そしてその葉っぱは、椅子の上に落ちた。
葉っぱが椅子から落ちることは、もうなかった。
つづく
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