ガジュマルの下の幽霊たち ④
第41話
大きなガジュマルの下にある4つの椅子。
そこに座る霊たちは、誰かを待っているのだそうだ。老人の姿は彼らが死んだときの姿。そしてそれは、まだ椅子も置かれていない、ガジュマルが若木だった頃の話だ。
老人たちがまだ小学生だった頃、4人はいつも学校帰りにここで遊んでいた。ある日は鬼ごっこ、ある日は相撲、そしてある日は、かくれんぼ。
その日、女の子がひとり、4人の遊びに加わった。知らない子だったが、4人はすぐにその子と仲良くなり、いろいろ遊んだ後、最後にかくれんぼをすることにした。
鬼は4人の中のひとり。女の子と後の3人は、思い思いに散って、そして隠れた。
鬼はすぐに3人を見つけた。でも女の子は全然見つからなかった。
仲間たちはいつも同じようなところに隠れるからすぐに見つけたが、初めて一緒に遊ぶ女の子が隠れるところなんて、さっぱり見当が付かなかった。
それで、4人は全員で女の子を探すことにした。だけど、広場の隅々を探しても女の子は見つからなかった。
ガジュマルから少し離れたところに、涸れ井戸があった。誰かが、あそこに隠れたんじゃない?と言ったが、そこには近づくなと大人たちに言われていたので、みな、そんなことないよ、と言い合った。
でも、見たんだ。恐る恐る近づいた涸れ井戸の底に、うっすらと、女の子が倒れているのを。
4人は悲鳴を上げて逃げた。ガジュマルの下まで逃げて、口々に言った。
どこの子か分からない女の子。
死んでる。井戸の底で。
僕たちのせいだ。僕たちのせいだ。僕たちの・・・
4人はそのことを、誰にも言わず隠すことにした。そして4人は、罪の意識に苛まれながら人生を送ることになる。何年も、何十年も。
皮肉なことに、4人は祝われるほど長生きをした。だが、子供の頃に負った罪の意識は消えない。
そして、寿命を全うした4人は次々にこのガジュマルの下に集まって、椅子に座るようになった。
これからも、ずっと、座るだろう。あの子が戻ってくるまで。
あの子に、謝るまで。
・
・
「これがあの霊たちから聞いた話だ。つまりな、あの老人たちは悪霊じゃない。ただ、小学生くらいの子供を見ると、あの子が戻って来たのでは、と近づいてしまうんだよ」
その話を聞いて、言葉と日葵は涙ぐんでいた。特に言葉は、霊たちの心に多少なりとも触れたようで、涙は頬を伝っている。
奥間は神鈴の話を聞いても何が何だか分からなかったが、悪い霊ではないと聞いて少し安心していた。ただ、問題は残っている。
「あの、じゃあ、オレの友達には、安心しろ、悪いものではなかったぞ、とか言えばいいんですか?」
「うん、そうなんだが、安心しろって言っても、この現象が終わらないことには噂が絶えないだろうなぁ」
「え~、そんなぁ。じゃあ友達の駄菓子屋、終わりますよ~」
天音はそんな皆の様子を見ながら、別のものを感じていた。
おそらく神鈴の言霊に応えたのだろう。
何かの思念が、濃くなっていた。
この広場全体に元々存在する様々な残留思念。
その中にほんの少しだけ、だが着実に増えつつある思念がある。
「神鈴さん、霊たちにもう一度話し掛けてもらえませんか?」
「ん?いいが・・・何を言えばいいんだ?」
「はい、とりあえず、こっちを見てくれ、と」
天音の頼みに応え、神鈴は再び霊たちに向き直り、集中して呪文を唱えた。霊たちは再び立ち上がり、神鈴の前に進む。その間に、天音は先ほど感じた思念に集中していた。
-これは、残留思念じゃない。今ここに集まってきてるものだ。それに、これって・・・
集まった思念は小さな球体を形づくり、ガジュマルの木の枝から下がる気根に、まるで木の実のようにぶら下がっている。
天音はそれを、両手の平で包み込むように取った。
「神鈴さん、霊たちに、これを見て、と伝えてください」
神鈴は頷くと顔を天音に向け、霊たちにそちらを見るよう促した。
霊たちに考えを伝える術を、天音は知らなかった。だからただ、心を込めて彼らに言った。
「探してる女の子って、この子かな?」
天音は目の前で包んだ両手を開いた。そこから放たれた球は、みるみるうちに人型に変わる。
そこに、ふわりと宙に浮かぶ小さな女の子が現れた。
その女の子を見た瞬間、4体の霊気が大きく膨れ上がった。
「お!安座真、これ、まずいかも!この霊たちみんな、そうだ、この子だって言ってる!」
「神鈴さん、落ち着いて。彼らに僕が今から話すことを、そのまま伝えてください」
天音が女の子の思念から感じ取ったのは、かくれんぼをした日より前の出来事だった。
つづく
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