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ガジュマルの下の幽霊たち ③

第40話


 奥間の案内で公園に到着した5人は、公園の入り口に立っていた。


 それほど大きい公園ではないが、滑り台やブランコ、今では珍しくなったジャングルジムもある。

 大きなタコのオブジェもあって、頭の中に入ってあちこちから顔を出せるし、8本の足はもちろん滑り台になっている。たくさんの子供たちが遊べる、良い公園だ。


 だが、この公園で遊ぶ子供の姿は無かった。公園の真ん中に生えた大きなガジュマルの下の、4個の椅子にまつわる噂のせいだ。


 地面に直接置いてある円筒形の4個の椅子は、確かにきれいだった。普通、公園の椅子、それも大きな木の下の椅子ならば、枯れ葉や枝や草などが積もったり、土で汚れているものだが、この椅子の上はまるで拭いてあるようだ。


 その4個の椅子の前で、神鈴は腕組みをしていた。


「ねぇ、安座真君、どう見える?」

「ええ、老人、ですね。4人」


 不意に声を掛けられたが、神鈴と同様に椅子を注視していた天音は慌てることなく応えた。


「そうね、老人だわ。これが子供に見えることがあるのね。どういう条件でそう見えるのかしら」

「それはちょっと分かりませんが、残っている思念が少ないです。この4人は、相当な昔からこうしているんでしょう。多分、この椅子が無かった頃から」

「あなた、残留思念も読めるの?すごいわね」

「そんな、真鏡名さんも読んでるじゃないですか」

「ふん、まぁ、そうね」


 そんなやりとりを見ていた奥間は、天音と神鈴の顔を交互に見ながら目をパチパチとしばたかせた。


「あのさ、ふたりとも、今日初めて会ったんだよね。で、なんなの?その、なんとか思念とか、4人いるとか、本当にいるの?オレ、なんも見えないんだけど」


 そんな奥間のシャツの端が、後ろからツンツンと引っ張られた。振り返ると、日葵が頬を赤らめながら見上げている。


「奥間先輩、あのですね、安座真君、天音くんに関しては本物なのですよ。私は天音くんのこと、よ~く知っているのです。でも、あの神鈴先輩もそうなんですねぇ、ビックリですねぇ。我がサークルには、本物がふたりもいるのですよ」

「ほ、ほんもの?」

「はい、ほんものの、霊能者です」


 日葵は自慢げに鼻の穴を膨らませている。言葉はそんな日葵にあきれ顔だ。


「ひまちゃん、なんでひまちゃんが自慢げなの?それに、今そんな場合じゃないよ?」

「あ、そうだった、ここにも本物がいるんだった。でも、あのふたりのプロと比べると、アマチュア?」

「もう!失礼ね!!でも天音たちと比べられたら、そのとおりだわ」


 高校3年生のとき、天音と一緒に“おとなの花子さん”と闘って以来、言葉も少しだけだが霊気を扱えるようになっていた。


「でもね、あそこの椅子、私にもうっすらと見えるのよ。4人の影、老人、かなぁ。子供のような感じもするかなぁ。でね、ずっと私たちのこと見てるよ?って言うか、ひまちゃんのこと見てるみたい」

「げげ、八千代さんって言ったよね、君も見えるの?君も霊能者?ど、どうなってんの?うちのサークル、ほんもののオカルトサークルになってんじゃん。で?4人の幽霊が、この子のこと、見てる・・」

「やだ!ことちゃん、変なこと言わないで!コワイよ、それ」

「ううん、間違いない、ほら、ひまちゃんが動いたら、4人の目線もそっちに動いたよ。ひまちゃん、間違いなく見られてる」


 言葉の言うとおり、ガジュマルの下に並んだ椅子に座る4人の老人は、ずっと日葵のことを見ていた。そしてそのことに、天音と神鈴も気付いていた。


 日葵の姿を追う4人の霊を見ながら神鈴が口を開く。


「どうやらこれはマジムンとかの怪異じゃなく、純粋な地縛霊のようだね。そして、あれらは日葵ちゃんのことが気になるようだ」

「そうですね、なぜひまちゃんか。う~ん、女子だからって言うと、言葉も女子だけど、あ、神鈴さんも・・・女子か」

「あ?安座真、おま・・いや、君は何が言いたい?」

「あ!いえ!!ひまちゃんは、その、一番子供っぽくて、美鈴さんは、えっと、おとなのじょ・・・女性だなぁ~って」

「え?おとな?そ、そうか?おとなに見えるか?そうか、それならまぁ、いいんだが」


 神鈴は実際、天音たちと1学年しか変わらない。だが、その長身とスタイルと共に、シンプルなコーディネートを着こなすセンスは抜群だった。しかも、凜としたその立ち振る舞いは、言葉や日葵にはない大人の雰囲気を醸し出している。それにやはり、天音の担任だった頃の優梨に似ていて、天音はそれを否応なしに意識させられていた。


「だが安座真の言うことには一理あるかもな。八千代は年相応、普通の女子大生に見えるが、ひまりちゃんは背も小さいし童顔だ。パッと見、中学生。見ようによっては小学生にも見える。私は、まぁ、大人、だしな」

「は、はい、そうなんですよね。あの霊たちがひまちゃんを見つめているのは、やっぱりそれが理由なんじゃないかって・・」


-神鈴さんは怒らせるとコワイ。これからは気を付けねば。


 神鈴の機嫌が直ったのと、自分の言ったことを認めてもらったことで、天音は少しホッとしていた。


「ところで安座真、君は、ああいった霊と対話したこと、あるか?それか、そういう能力は、あるか?」


 霊との対話。


 神鈴の問いに、天音は腕組みして少し考えた。今の父、安座真雄心はそういう能力を持っているが、自分自身にはないと思う。あるいは、そういった経験をしたことがないだけかも。


「いえ、無い、かもしれませんし、やったことがないので・・」

「分からない、か」


 神鈴は少しだけ口角を上げ、天音の肩にポンッと手を置いた。


「じゃ、安座真は少しの間、そこで見ているといい」


 そう言うと神鈴は霊たちに向き直り、両の手を腹の上で組んだ。そして背筋を伸ばして集中を高めると、聞こえるか聞こえないかという声で何かの呪文を唱える。


 天音は神鈴が唱える呪文に聞き覚えがあった。今日、サークル棟の部室にいたとき、どこからか聞こえてきたのだ。それは物理的に聞こえたわけではなかった。ただ頭の中に直接響いていた。


-あれは、神鈴さんの言霊ことだまだったんだ。


 神鈴の言霊に応えたのか、4人の霊は視線を日葵から外し、立ち上がって神鈴の前に並んでいる。そのまま数分、神鈴の呪文が途切れ、霊たちはまたそれぞれの椅子に戻っていった。


「ふぅ、終わったぞ。あの霊たち、やはり悪いものではなかったな・・・」


 神鈴は天音たちに、霊たちのことを教えてくれた。




つづく



お読み頂きまして、ありがとうございます。

毎日数話ずつ更新していますので、ぜひ続きをお読みいただきたいと思います。

気に入っていただけましたら、ブックマークや評価をしていただけますと嬉しいです。

よろしくお願いします。

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