ガジュマルの下の幽霊たち ①
第38話
週末の某時刻、琉球大学サークル棟の入り口。
3階建てのサークル棟には全てのサークルが部室を構えている。それら部室の窓は各サークルの看板や芸術的?オブジェが外から見えるように配置されているものが多い。
その2階の真ん中に、琉球弧伝承研究室の窓が見えた。
ひとりの女性がその窓を見上げ、なにやら呟いている。
「あの、すみません、あの窓の部屋になにかご用ですか?」
話し掛けたのは、集合時間に少し遅れた金城日葵だった。
「え?あら、あなた、あの窓のサークルの人?」
「あ、はい、1年生です。あの、あなたは?」
「ふふ、ごめんなさい。私もあの窓のサークルの人。全然出ないから会ったことなかったわね。私、真鏡名神鈴っていいます」
「え!じゃあ、新しい部長さんの?」
「ええ、私です。比嘉部長に頼まれちゃったからね、ホントはやりたくないんだけど」
「す、すみません、私1年の、あの、金城日葵っていいます」
改めて見ると、真鏡名神鈴は不思議な雰囲気を湛えていた。
背は高く、180cm近くに見える。白いブラウスに黒いテーパードパンツのシンプルなコーディネートは、長身と相まってシャープなシルエットを作りだしている。それにも増して、絹糸のように輝く長い黒髪に、切れ長の瞳とうっすらと笑みを浮かべる口元が、彼女の神秘性を醸しているようだ。
「ところでね、あなたの他の1年生に、なにかおかしな人、いない?」
「おかしな人って、どういう・・ちょっと、分かりません」
口ごもりながら否定した日葵だったが、日葵の脳裏には天音の顔が浮かんでいた。
日葵は天音と言葉から、小学1年のときの自身も関わった怪異との闘い、天音の母親、名城明日葉のこと、そして高校3年のとき天音と言葉が闘った怪異のこと、全てを聞いていた。もちろん天音の力、霊力についてもだ。
もしかしてこの人は、天音の霊力をこの場で感じているのでは?
日葵はそんなことを思った。
「そう?う~ん、ここに立ったらね、部室の窓の辺りからなんか、ね」
神鈴はやはり、サークル棟の部室から相当離れたこの場所で、すでに何かを感じ取っている。
「うん!まぁいいわ!もう時間過ぎてるし、さ、行きましょ?ひまりちゃん」
日葵は頷くと、神鈴の後ろについてサークル棟の部室に向かった。
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「ひまりちゃん、遅刻だよ~、うちな~タイムは仕事では駄目だからね~、サークルならまぁ、いいんだけど~、でも、次期部長の遅刻は、だめ~」
日葵と神鈴が部室に入ると、比嘉部長がのんびりと声を掛けた。
少し照れ笑いしながら頭を下げて席に着く日葵に対し、神鈴は入り口で全員の顔を見渡すと、すぐに天音に視線を向けた。
-この人、すごい人だな。こんな人がいたんだ。
神鈴と目が合った瞬間、天音も彼女の能力の高さに驚きを隠せなかった。神鈴の霊気は鮮やかな緑色、穏やかだが全てを包み込む力を感じさせる。
新しい部長のお披露目であるこの日、比嘉部長の号令に応えて、普段サークルに出てこない幽霊部員も集まっていた。真鏡名神鈴もそのひとりだが、彼女は在籍だけの幽霊部員ではない。サークルの誰よりも琉球弧の伝承に詳しく、そして実際の怪現象にも対峙している。
「はい~、じゃ、全員揃ったから、発表しま~す。来年4月からの部長さん、真鏡名神鈴さんで~す。みなさん、はくしゅ~」
比嘉の音頭のもと、全員が拍手で神鈴を迎えた。神鈴はその場で礼をし、背筋を伸ばして挨拶を始める。
「みなさん、次期部長に指名されました、真鏡名神鈴、今度3年生です。そのまま4年生まで部長をするかもしれません。どうぞよろしくお願いします」
神鈴はもう一度頭を下げ、席に着いた。
「はい、ありがとう~、では次に、副部長は、今度4年生の当銘健太くん、書記会計は、今度3年生の新垣真美さんです~、みなさんよろしくお願いします~」
比嘉の進行で滞りなく会は進み、取り敢えずの終会を迎える頃、部員のひとりが手を挙げた。
「あの、すいません。ひとついいですか?」
発言したのは、普段サークルに出てこない、完全幽霊部員の奥間勇二だった。
「はい~、えっと、3年の奥間くん?珍しいねぇ~、はいはい、なにかありますか?」
「えっと、実は、同級生の友達から相談されたんですけれども・・あの、霊現象って言うか・・」
神鈴は興味の視線を奥間に向けた。
つづく
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