ユタ、真鏡名神鈴
第37話
10月の沖縄は最高気温が30度を下回る日が増え、台風も滅多に来ない季節だ。サシバが渡り、北東の風が爽やかな沖縄の短い秋。観光するにしても何にしても、沖縄で一番いい時期。だが、最低気温は普通に26度以上もあるので、本土の感覚なら真夏だし、海で泳ごうと思えば泳げる。
安座真天音と八千代言葉、琉球大学1年目の秋である。
沖縄本島のみならず、大隅諸島、奄美諸島から八重山諸島に至る琉球弧に伝わる民間伝承を研究し、その歴史と関係を紐解くという高尚な建前を持つオカルトおたくのサークル、“琉球弧伝承研究室”でも、すでに終盤の就職活動や卒業論文作成の最中、4年生は忙しい日々を送っている。
部長の4年生、比嘉光良も例外ではなかったし、未だ就職内定をもらえていない状況に、その顔には少々焦りも見える。と、普通は思えるのだが、当の比嘉はいたってのんびりしたものだった。
「部長、もう10月ですけど、就活しなくていいんですか?それに卒論だって、もうすぐ提出の締め切りなんですよね?」
のんびりサークルに出ている場合ではない、という意味を込めて声を掛けたのは、2年生の新垣真美だった。
「え~?いいのいいの、単位は大丈夫だしさ~、就職だって、卒業して探したっていいのさ。僕、焦って仕事を探したくないタイプだから~」
「すっごいですね、私はまだ2年だけど、もう考えてますよ?来年から就活が始まるんですから。それに面接とかでサークル活動のこと聞かれたりしますよね?正直このサークルのことどう言おうかなって」
「え~、そんなの、琉球弧の歴史についてふか~く学んでいますから、それを御社のイメージアップやグローバル戦略に活かしたい、とか言えばいいんじゃない?」
「それ、なんかすっごく良いんですけど、でも琉球弧の知識を使って、どうやって企業のイメージアップやグローバル戦略に活かすんですか?」
「え?そんなの僕だって知らないよ~、そう言っとけばいいって、僕も先輩に教わったからさ~。ははは」
「はぁ、なるほど、我がサークル伝統の就活対策、ってわけですね?」
新垣はため息交じりにあきれ顔を作って見せた。だが、新垣にはもうひとつ心配事があった。
「ところで、来年の部長さんって、やっぱり副部長がなるんですか?」
「いや、当銘くんにはね、ちょっと、僕に部長は無理ですって断られちゃってさ~」
「え?だって、副部長はとっても真面目にサークル出てくるし、うちの唯一の良心っていうか、まともっていうか・・あとは誰が・・」
「うん、だからね~、僕も当銘くんだって思ってたんだけどさ~、本人が辞退するんだから無理に押し付ける事はできないよね~」
「まぁ、そう、ですねぇ」
「だからね、彼女に頼んだらね、いいですよって言うからさ~、頼むことにしたんだ~」
「彼女って、うちの女性部員って言うと、え?まさか・・みすず?」
「そうそう、真鏡名神鈴」
「え~?だって神鈴って私とおんなじ2年ですよ?しかもサークルには、たまぁ~にしか来ないじゃないですか」
「うん、でもさ、彼女ってたまに出てくると、すっごいネタ持ってくるでしょ?それに、彼女が普段なにしてるか、知ってる?」
「い、いえ。でも確かにそうですね。神鈴ってば、来ればびっくりするようなオカルトネタを持ってきますね」
「そう、彼女ね、学校の暇をみて色んなとこに、それこそ琉球弧全体に出掛けてるんだな~」
「琉球弧全体、ですか」
「そう、それで何してるかっていうとね、彼女、除霊して回ってんの!!」
「え?除霊って、マジですか?」
「まじまじ!彼女、真鏡名神鈴はね、オカルトおたくっていう造花サークルに咲いた、一輪のホンモノ、なのよ」
「神鈴ってホンモノの霊能者、だったんですか」
「霊能者っていうかね、ユタだね。彼女の家って、その家系らしいよ?」
「真鏡名家がユタの家系、ってことですね。知らなかった」
「でさ、週末にさ、神鈴が帰ってくるらしいから、全員集合掛けよう。そんときみんなに発表ね!」
真鏡名神鈴、琉球大2年生。ユタの家系にして本物の霊能者。
そして琉球弧伝承研究室の、次期部長である。
つづく
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