琉球弧伝承研究室 ③
第36話
楽しい時間はあっという間に過ぎ、会はお開きとなった。
「はい~、今日は楽しかったねぇ~、では!これでお開きとしますが、絶対飲酒運転はしないように!って、1年生は大丈夫か、ノンアルだからね~、でも、気を付けて帰ってね~」
なんともホンワカとした比嘉部長の締めで、みなが席を立った。
「天音くんと言葉ちゃんはバイクで来てたね~。日葵ちゃんは僕たちの車で来たけど、どうする?新垣は方向が一緒だし、乗ってく~?今から運転代行呼ぶけど~」
「えっと私は、どうしようかな?天音くんは?」
僕を見るひまちゃんの眼は「送ってって!」と言っているようだ。今も変わらないひまちゃんの家は南部だから、僕の帰り道でもある。
「うん、いいよ、メットあるし。比嘉部長、ひまちゃんは僕が送りますから、大丈夫です」
「わかった~、じゃ、くれぐれも気を付けてね~。じゃ!また~」
僕は皆に一礼してバイクを止めた駐車場に向かった。もちろん日葵ちゃんも、そして同じ駐車場にバイクを止めている言葉もだ。
「わたしもひまちゃん、送っていこうかな~、天音の運転心配だしぃ」
「なによコトちゃん!心配なのは運転じゃなくって、ふたりがちゃんと帰るか、でしょ?」
「あはは、まぁね~」
並んで歩く言葉と日葵ちゃん、ふたりはホントに仲良しだなぁ。
そう思ったところだったが、今の今まで笑顔だった日葵ちゃんが急に立ち止まった。
「ところでさ、あのさ、もうここで話しておきたいんだけど」
日葵ちゃんは真剣な顔で僕たちに話し出す。
「あの、天音くんのお母さんのことなの」
僕はもう××小学校に行って調べていたから、あそこに手掛かりが無いことは分かっている。だからいつかは日葵ちゃんにあの日のことを聞くつもりだった。それは今でもいい。言葉もそれは分かっている。
「うん、ひまちゃん、僕はこないだ××小に行って、保健室の斉藤先生と話して来たんだ。それでひまちゃんにも会って聞きたいって思ってたんだから、何でも話してくれていいよ」
「うん、あのね・・」
日葵ちゃんはあの日、自分が見たことを話してくれた。
友達3人と保健室に行こうとしていた日葵ちゃんは、パリンっという音を聞いたそうだ。その瞬間、母さん、名城明日葉が宙に浮いているのを見た。でも次の瞬間、母さんは廊下に倒れていたと言う。
母さんは自分の魂を解放してミミチリボージの瘴気を取り込み、その力で三体のミミチリボージを封印した。その時すでに、母さんの体は廊下に倒れていたはずだけど、日葵ちゃんにはマジムンと化した母さんが宙に浮いて見えたんだろう。そして瞬間的にその姿が消え、廊下に倒れている母さんを見たんだ。
でも、それからの話は、斉藤先生からも聞けなかったものだった。
「あのね、天音くんのお母さんのこと、あれから××小学校で、学校の怪談になっちゃったの。一緒にいた私の友達が、あのことをみんなに話しちゃったから。私は止めようとしたんだけど、仲間外れにされそうで、止められなかった。そしたらその話が広まって、いろんな噂とくっついて、私が卒業する頃にはもう、保健室の、その・・・」
「妖怪?それとも、お化け?」
口ごもる日葵ちゃんより先に、僕が話を継いだ。
「うん、そんな感じ。でも、もっとひどい感じかも」
そう言うと、日葵ちゃんは涙声になった。
「天音くん、ホントに、ホントにごめんね。お母さんがあんなことになったのに、今でもお母さんはあの学校で怪談になっちゃってて、天音くんのお母さんなのに」
俯いて泣いているひまちゃんの背中を、言葉が優しく撫でている。
「ひまちゃん、大丈夫だよ。話してくれてありがとう。それにね、今の話はとっても大事なことを意味してる。僕が聞きたかったことが入ってるんだ」
日葵ちゃんは黙ってはいたけど、何回も頷いている。言葉も「だいじょぶだいじょぶ」と小さな声で日葵ちゃんを元気づけている。
しばらくすると、日葵ちゃんは落ち着いたのか、顔を上げた。
「ああ、もう10年以上、ず~っと私の胸につっかえてたものが、すとーんってどっか行っちゃったみたい。私、あのことがあったからこのサークルに入ったのよ?沖縄の伝承とか調べたいと思って。そしたら天音くんに会えた。ホントに会えて良かった。それにコトちゃん、優しいから好き」
日葵ちゃんはすっかり元気になった。その笑顔は僕たちにも元気をくれる。
「ところでさ、天音、さっき言ってた大事なことって、なに?」
言葉が僕に聞いてきた。そうだ、これはとても大事なことなんだ。
「うん、あのね?ひまちゃんの話では、ひまちゃんが卒業するまで僕の母さんの話がずっと語り継がれて、それは今もそうなんだよね?」
ひまちゃんが頷く。
「そうすると、あの小学校では母さんの話以外、怪現象は起こってないって事になるんだ。つまり、あの小学校にはあれ以来、怪異はいない」
「そっか!じゃあ天音のお母さんが封印したヤツは、翌日には学校からいなくなってるってことね!それすっごい大事」
「うん、だから、母さんの足跡を辿るなら、僕らが小学校1年生だった年から現在までに起こった怪現象を追えばいいってことだ」
「ほんと、大事な情報だわ。ありがと!ひまちゃん!」
ふたりで盛り上がる僕と言葉の顔を交互に見て、日葵ちゃんは目をパチパチさせている。
「ふたりとも、なんなの?怪異って、それにお母さんが封印してるって・・・なにを封印してるの?」
「あ、そうだよね、何言ってるのか、意味不明だよね」
僕たちは、あの日起こった事の真相とこれまでの事、全てを日葵ちゃんに打ち明けることにした。それは長い長い話なので、日葵ちゃんの家に行って話すことになった。
もちろん言葉も一緒だ。
さぁ、日葵ちゃんをバイクの後ろに乗せて、言葉と一緒に走ろう、南へ。
僕が小学校に入学した、あの街。
僕たち親子が名城明日葉と名城天音だった頃の、あの街へ。
そして明日から、新しい日々が始まるんだ。
そんな予感に満ちた夜だった。
つづく
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