琉球弧伝承研究室 ②
第35話
僕たちふたりの歓迎会は、那覇の居酒屋で始まった。
自己紹介も終わり、部室にいたのが部長と副部長、そして会計のような役割の部員だと分かった。そして言葉と僕、日葵ちゃんが新人だ。他の部員は各学年に数名づついるそうだが、ほとんどが在籍だけの幽霊部員らしい。中にはすごい人もいるって話だけど。
部長の名前は比嘉さん。4年生だ。もしかして安座真さんの師匠の比嘉さんと繋がりが?と思ったが、沖縄では比嘉姓はとても多く、無関係らしい。副部長は当銘さん。3年生。用紙を渡してくれた先輩だ。そして会計をしているのが新垣さん。唯一の女性部員で2年生だ。
今年、そこに言葉と日葵という女子部員が加わった。比嘉部長は「これで男子部員が増えるんじゃないか!」とか不謹慎なことを言っている。「それ立派なセクハラですよ?」と新垣さんにたしなめられるほどだ。だが比嘉部長は「いったい誰に対するセクハラだい?」などと受け、火に油を注ぐ。
副部長の当銘さんはそんなふたりに「比嘉さん、なにを言ってるんですか?新垣だって女性なんですよ?それ、セクハラです」と、火に油どころか爆弾を放り込む発言で新垣さんの顰蹙を買っている。
うん、この人たちが面白い人たちだということは分かった。歓迎会は常に笑い声で溢れている。
さすが流行ってる居酒屋料理は豆腐チャンプルーだってちょっと違う。島豆腐がこんがりと焼けて香ばしい。控えめに入ってるゴーヤーもいいアクセント。ゴーヤーが多いとゴーヤーチャンプルーになっちゃうからね。材料は豆腐とゴーヤーだけなんだけど、見た目も花カツオが踊ってて豪華だ。ただのチャンプルーなのにな。他の料理も同様、ただの出汁巻きも、ただの唐揚げも、どれも美味しいや。
こんど母さんにも教えてやろう。
僕の隣に並んで座る言葉と日葵ちゃんもそんな料理をたくさん食べて、もうずいぶんと酔っているように見える。
いや、ふたりとも酔っていた。
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「あのさぁ、あまねさぁ、さっき部室で聞きそびれたんだけど、今日からなんですか?私のこと、コトハって呼ぶことに決めたんですかぁ?」
言葉が絡み酒の酔っ払いのように聞いてきた。そうだ、今日からチヨではなく、コトハって呼ぶことに決めたんだ。
「あ、うん、今日からチヨは、コトハです。そう呼ぶことに決めました」
「へぇ、なんで?なんで今日なんですかぁ?」
「なんでって、ずっとチヨって呼んでたけど、ヤチヨのチヨで名字でしょ?だから、な?理由なんて無くって、名前で呼ぼうかなぁって、そういうこと!」
「はぁ?なんか理由になってるようでなってないってゆうか、これって結構大事なことだと思うんですよねぇ~」
なんとも割り切れない感じの言葉だけど、長年呼び慣れた呼び方を変えるのは中々勇気がいるものだし、理由を聞かれても困ってしまう。まさか正直に言うのも、ねぇ。
そんな僕と言葉のやりとりを見ていた日葵ちゃんが急に話に割り込んできた。これは助かる。
「ねぇねぇ、天音くんとコトちゃんって、高校が一緒だったんでしょ?部活も剣道部で一緒、で、今度は大学も一緒?」
日葵ちゃんはもう、言葉のことをコトちゃんと呼ぶことに決めたらしい。興味津々で言葉に問い掛ける。
「ってことはれすよ?ふたりはもう、付き合ってるのれすか!!」
まったく、ストレートにも程がある質問だが、言葉はちょっと僕を見て、複雑な表情を浮かべた。
「え~っと、えっとねぇ、付き合ってる、ことはない、よ、ねぇ」
そう言うと僕の顔を見る。その様子から日葵ちゃんは何かを察したらしく、シークヮーサーチューハイをグビリと飲んで言った。
「そうなんだ!コトちゃんと天音くんは付き合ってないのね!まだ!ふぅ~ん、そうなんだぁねぇ」
それを聞いた言葉も、手に持ったレモンチューハイをぐいっと飲んだ。
「もう!ひまちゃん、なに聞いてくるの?そんなの今聞くぅ?もっと飲んで!ほらぁ。で、ひまちゃんこそ、天音のこと好きなんじゃないのぉ?幼馴染みに久しぶりに会って、そぉんなに嬉しかったぁ?」
日葵ちゃんは遠慮無く聞いてくるタイプだが、言葉も負けてはいない。なにしろ剣道部で鍛えられた負けん気と精神力がある。それに日葵ちゃんは物言いがストレートなだけで、嘘が無い。言葉もそれを感じたのか、もうふたりとも遠慮無く言い合える関係になっている。
しかし、言葉も日葵ちゃんもあんなに酔っ払って・・・
あれ、ノンアルチューハイなのにな。
つづく
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