琉球弧伝承研究室 ①
第34話
4月、琉球大学キャンパスの午後。安座真天音と八千代言葉は校舎に向かう道を並んで歩いていた。
入学して間もない二人だが、ようやく生活のリズムが出来たところで、同じサークルに入ることにしたのだ。
天音は言葉に、優梨と行った××小学校での話をあらかじめ聞かせていた。
優梨と共に名城明日葉の魂を探しに行ったのだが、その痕跡が全く残っていなかった。つまり、ミミチリボージは明日葉の魂と共にどこかに移動したのだろう、ということだ。
明日葉の魂はどこに行ったのか、その手掛かりを探すためには、沖縄のどこかで起こる怪現象の情報を集めなければ、という話にもなった。そして天音の幼馴染みである金城日葵にも話を聞くことになっている。
日葵の家は天音も担任だった優梨も覚えているし、引っ越していても近所の人に聞けば分かるだろう。天音と優梨はそう考えていた。
この話を聞いて言葉が提案してくれたのが、琉球大学のサークルへの入部だった。大学には物好きな学生がたくさんいるのだ。沖縄のオカルトを収集するような。
それが“琉球弧伝承研究室”だ。
沖縄本島のみならず、周辺の離島、宮古、八重山、そして世論、沖永良部、奄美へと続く琉球弧全体の民話や、現代に起こる怪現象を収集、研究するサークル。
その目的は、琉球弧における伝承から各島々の民俗学を深く研究し、共通の文化を探索、究明する、というとても立派なサークルである。
だがその実体は、オカルトおたくの集まり、と言っていい。
天音は言葉の提案に乗ることにした。そして今、ふたりは琉球弧伝承研究室のドアの前に立っている。
「じゃ言葉、いくぞ!」
「うん!天音!って、え?今なんて?コトハって?」
「入ります!入部希望の1年です!」
天音は部室のドアをノックして開けると、頭を下げて挨拶した。
「あ?はいはい、1年生ですね、ふたり?入部希望?ほぉ~今年の1年は3人目かぁ、新記録だなぁ、それも、女の子ふたり入った」
部室には4人の先輩?がいた。
奥のPCデスクにはメガネを掛けていかにも部長然とした先輩、中央のデスクではノートPCを開けて作業中の先輩、そして声を掛けてくれた先輩、あとひとりは書類を手にノートPCをのぞき込んでいる、先輩?
全員が天音と言葉を見て、ほぉ、という顔をしている。
「はいはい、じゃ、こっちに来て、これに、学年と学部、名前とかモロモロ、書いてね~」
天音と言葉は並んで座り、渡された用紙に必要事項を記入していく。だが言葉にはそれより気になることがあった。小声で天音に話し掛ける。
「ねぇ、さっき私のこと、コトハって呼んだよね?」
「ん、それさ、後で話すよ。今はこれこれ」
天音はさっさと用紙に記入し終わり、先輩に提出した。言葉も少し遅れて提出する。
「はい、ありがと、えっと、やちよ・ことはさん。コトバと書いてコトハさん!いい名前だねぇ、で?えっと、あざま・あまねくん、だね」
そのとき、書類を手に立っていた先輩?がハッとした顔を天音に向けた。
「えっ?あまねって、あ、なしろあまね、じゃないのよね。ビックリしたぁ」
びっくりするのは天音の方だった。なぜこの先輩?は、この女子は、自分の昔の名前を知っているのか?
瞬時に考えを巡らせたが、答えはひとつしか思い浮かばなかった。
「あの、もしかして××小学校の卒業生?ですか?」
天音の問いに、その女子が応える。
「うん!そう!あなたも××小?・・でも同級生であまねって子は、ひとりしかいないんだけどなぁ」
やはりそうだった。この女子は・・
「もしかして、ひまちゃん?金城日葵、ちゃん?」
金城日葵、そう呼ばれた女子は、大きな目を更に大きくして、ピョンっと飛び上がった。
「なしろあまねくん?もしかしてのもしかしての、あまねくんなの?でも、名字は安座真って」
「うん、なしろあまね。名字はね、変わったんだ。今は安座真天音。東京からこっちに、琉大に入学したんだよ」
「きゃー!ホントにあまねくんなんだ!何年ぶり?ね!小学校の1年生以来だから、10年、12年ぶり?きゃーー!」
高揚した顔で天音に近づく日葵だったが、急に立ち止まり、神妙な顔になった。あまねの母親、名城明日葉のことを思い出したからだ。
「あ、ごめん、あまねくんのお母さん、あんなことになっちゃって、私は子供だったからなんにもできなくって、思い出しちゃった?ホントごめん」
「ううん、いいんだよ。それより会えてとっても嬉しい。実は会いに行こうと思ってたんだ。まさかここで会えるなんて、ね、ひまちゃん」
ひまちゃん、そう呼ばれた日葵の眼はパッと輝いた。
「部長!今日歓迎会!!新人歓迎会ですよね!ねっ!」
日葵はPCデスクの先輩に突進して歓迎会を提案している。部長と呼ばれた先輩は日葵に腕を掴まれ、揺さぶられている。その頭はボブルヘッド人形のように揺れ、頷いているのか横に振っているのか分からなかったが、どうやらオーケーのようだ。
今夜は突然の新人歓迎会。天音と言葉の都合などお構いなしだった。しかし、その申し出はふたりにとっても都合がいい。
「今日、バイト入れなくって良かったね」
「ホント、そうだね」
天音と言葉は顔を見合わせて、苦笑いするしかなかった。
つづく
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