幼なじみのひまりちゃん
第33話
琉球大学社会人文学部。
在籍者数約300人、安座真天音と八千代言葉はそこに在籍している。
時間は少し遡り、天音が大学に入学してすぐの頃、××小学校の前に天音と優梨の姿があった。
「わぁ、懐かしいわねぇ。あまねも当時、あんな感じで可愛かったのよ~?今も可愛いけど。で、私があそこで明日葉さんとあまねの胸に、花飾りを付けてあげたの」
-そうだ、僕はここで母さんと、真鏡優梨先生と出会ったんだ。
天音は懐かしそうに校門をくぐる優梨の後を追った。ここで、名城明日葉の魂を探すためだ。
天音の本当の母、名城明日葉は、強い霊力を持っていた。そしてその力で、幼くして強い霊力を持ち、常に怪異に狙われる息子の天音を護っていた。だが、この学校に巣くう強大な怪異、4体の耳切坊主と対決する中で、天音と優梨を助けるため、その魂を使ってしまった。
明日葉は自分の魂と耳切坊主の瘴気を混ぜ、自身をマジムンに落とし、その力で耳切坊主を封印した。
そして今も、明日葉は耳切坊主を封じ込めているはずなのだ。
この学校のどこかで。
「ふぅん、何も感じない。あまね、どう?」
「うん、なんにも。校庭からも、校舎からも、瘴気のようなものは感じないね。子供たちも先生たちも、ぜんぜん大丈夫」
「明日葉さんが完璧に押さえ込んでるってことかしら。それならそれで問題ね。明日葉さんを解放すると、ミミチリボージの瘴気も一気に解放されるってことだわ。雄心も連れてくれば良かったかしら」
天音と優梨は顔を見合わせた。こうなれば、この学校をくまなく捜索するしかない。だが最初に行くところは、もう決まっていた。
「じゃ、母さん行こう!保健室に」
「そうね、行こう!」
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保健室には今も変わらず養護教諭の斉藤明美がいた。斉藤も当時のことはよく覚えていた。
「・・ええ、ひまりちゃん。覚えてます。あのとき、ひまりちゃんも含めて十数名だと思いますけど、立て続けに同じような体調不良で来る子供たちがいたんです」
斉藤は当時、乳の親というマジムンに取り憑かれていた。そのチーノウヤはミミチリボージに憑かれていたから、実質ミミチリボージに取り憑かれていたことになる。そして彼女は、保健室に来る子供たちから生気を吸っていた。つまり、子供たちの体調不良は、彼女、斉藤明美本人が引き起こしていたのだ。
だがその記憶は彼女には、ない。
「そうですね、そしてその後、私とあまね、そして名城明日葉さんがここに来た。そのことは覚えてます?」
「いえ、それは全然覚えてないんです。でも、私はなぜかここで気を失っていて、廊下に出たら、その・・・」
「大丈夫です、斉藤先生、おっしゃっていただいて」
言い淀む斉藤の背中を天音が押した。あの後、優梨が天音を抱いて走り去った後、何があったのか知っているのは彼女だけだったからだ。
「ええ、廊下に出たら、あまねくんのお母さんが仰向けに倒れていて。私はすぐに蘇生を試みたんですけど、心臓はまだ動いていたし、すぐに戻ると思っていたんですけど、突然、ぶつんって何か切れるように・・・ごめんなさい!あまねくん!!私があのとき、もっとしっかり蘇生していれば!明日葉さんは戻ったかもしれないのに!!」
斉藤明美は両手で顔を覆い、嗚咽している。自分が明日葉を助けられなかったことを激しく悔やんでいるのだ。だが天音も優梨も、そんな彼女を責める気は毛頭なかった。
「斉藤先生、泣かないでください。先生が一生懸命だったことや、母にしてくれたことはよく分かってます。感謝もしています。本当にありがとうございました」
「そうですよ?斉藤先生。あの後警察も来ていろいろ調べてましたけど、死因は虚血性心疾患になりましたよね。つまり突然死。斉藤先生に罪はありません。その上でお伺いしたいのは、あのとき、明日葉さんの蘇生をしているとき、なにか気がついたこととか、誰がいたとか、何か言っていたとか、覚えておられませんか?」
斉藤明美はハンカチで涙を拭うと、姿勢を正してふたりに向き直った。
「気付いたこと、というのはさっきも言いましたけど、明日葉さんの脈が、ぶつんっと音を立てるように切れたことですね。あんな急には切れないはずなんですけど、その後はもう、どうやってもダメで」
天音と優梨は頷きながら耳を傾ける。
「あ、子供たちがいましたね、何人か、4人くらいだったかな。変なことを言っていました」
「変なこと、とは?」
「ええ、あまねくんのおかあさんが急に出てきた、とか、空中に浮かんでた、とか。ちょっと意味が分からないんですけど、それから廊下に倒れたって、口々に・・・」
ミミチリボージが張った結界は異世界そのものだった。その中でマジムンと化したとき、明日葉の体は廊下に倒れた。結界が消えた瞬間、空中に浮いて見えたのは、マジムンになった明日葉だろう。ふたりはそう思った。
「そうだ、あの子がいました」
「あの子?」
「ええ、ひまりちゃん。えっと、金城日葵ちゃん。天音くんと真鏡先生が走ってるって言ってたと思います」
日葵の名を聞いて、天音と優梨は顔を見合わせた。
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保健室を後にしたふたりは校内をくまなく探索したが、明日葉の霊気はおろか瘴気の一片すら見つけることはできなかった。
「母さん、ここには何も残ってないね。母が今もあいつをここで封印してれば絶対なにか感じるはずだし、封印が解けているならばなおさら足跡が残っているはず」
「そうだね、と言うことは、明日葉さんはミミチリボージを封印したまま、どこかに移動したことになるね。とすると」
「うん、その移動した先々で、なんらかの現象が起こっているかもしれない」
「明日葉さんの、足跡、か」
「どうすれば辿れるかな、母の足跡」
「どこかで色んな情報を集められるといいね、そんな現象の情報をさ」
思案するふたりの頭に、ある名前が浮かんだ。
「ひまりちゃん、金城日葵、あの子は怪異と繋がったことがある。あの日あの場所にもいた。それにあの後ずっと沖縄にいたんだろうし、なにか手がかりを持っているかも」
金城日葵、天音の幼なじみで、あのとき怪異と繋がって、体が透けてしまった。そして、あの異世界が壊れる瞬間、名城明日葉の最後も見てしまった少女。
天音と優梨は、日葵に会ってみようと決めた。だが、天音はすぐに日葵と出会うことになる。
それも、意外な場所で。
つづく
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