天音の新しい暮らし ②
第30話
朝ご飯を食べながら、じいちゃんとばあちゃんは優しい目で僕を見ていてくれる。
血の繋がりが全くない赤の他人である僕のことを。
“大人の花子さん”との闘いの後、母さんと安座真さんはすぐに結婚した。だからじいちゃんとばあちゃんは、母さんと僕の経緯を知っている。
僕は母さんの事がずっと気に掛かっていた。
僕のために結婚もしなかった母さん、真鏡優梨。僕が高校を卒業して独り立ちすれば、母さんは自分の人生を歩めるのかもしれない。そんなことも考えていた。
でも、あの闘いで出会った安座真雄心、僕の剣道部の監督は、真鏡優梨の運命だったようだ。
まるで、ふたりが出会うために僕が存在したような。
そして今、母さんの名前は、安座真優梨。
そして僕の名前は、安座真天音。
この家はもう、僕の実家だ。
「ところでよ?あまね、今日のバイトは昼からか?」
「うん、昼の1時から。夕方の6時までだから、7時過ぎには帰れるかな?」
「そうか、こっちに来て買ったバイクの調子はいいんだろ?でも気を付けてな」
僕は沖縄に来てすぐコンビニでバイトを始めていた。安座真家でお世話になる限り生活費は掛からないし、じいちゃんはお金はいらないって言ってくれたけど、食費として一ヶ月1万円を受け取ってもらうことにした。大学はある程度時間に余裕があるので、それに合わせてシフトを入れられる。頑張れば月7万から8万にはなる。
そして僕はバイクを買った。通学に必要だし、沖縄本島のあちこちに行きたかったから。
「でもねぇ、雄心が結婚するなんてねぇ、あんな良い子とねぇ。それに、こんなすぐに良い孫ができるなんて、ばあちゃん嬉しいよ」
「ははは、伸子は最初から大賛成だったさぁね。しかし、じいちゃんも嬉しいぞ?まるで高校生の雄心が帰ってきたみたいさぁ」
安座真さんは高校から県外に行ったから、じいちゃんもばあちゃんもその頃の安座真さんとは暮らしていない。だから僕が来るのが嬉しかったらしい。それもあるのか、じいちゃんもばあちゃんも僕のことをすごく可愛がってくれる。本当にありがたいことだ。
「そう言えばあまねは、優梨さんの名字の意味、知ってるか?」
「え?母さんの旧姓、真鏡?」
「ああ、あの名字はな、本来、マコトのカガミのナと書いて“シンキョウメイ”とか“マキョウナ”、”マキョウメイ”、あとは“マジキナ”と読むんだが、優梨さんは真鏡だけだろ?まぁ今は安座真なんだから考えることもないんだけどな、じいちゃん、ちょっと気になってなぁ」
母さんの旧姓、真鏡は沖縄でも珍しかった。それどころか、恐らく沖縄に1件だけだろう。
じいちゃんの言うとおり、元はマキョウナかマキョウメイなのだろうが、母さんの両親が改名したらしい。それは母さんに聞いたことがある。ただ、母さんの両親、僕にとっての母方の祖父母は、母さんが小さいときに亡くなっているらしいのだ。母さん自身は叔父のところで育ったらしいけど、僕も詳しいことは聞いていない。
でも、僕を引き取るときに親族の大反対に遭って、母さんは僕を連れて東京に移り住んだんだ。
「うん、母さんには、昔、母さんの両親が改名したんだよって聞いたことがあるけど、親戚にも会ったことないし、僕も分からないです」
「そうなんだよなぁ、じいちゃんは、そこもちょっと気になるんだ。優梨さん方に挨拶しようにも、なんの伝手もなくてな。優梨さんも“それは大丈夫です”って言うしな」
「じゃあ、僕からも母さんと安座真さんに言っておきます。僕も一度会ってみたいし」
「そうだな!じいちゃんからも雄心に言っておくさぁ」
僕とじいちゃんの話を聞いていたばあちゃんが、やれやれという顔で話に割り込んだ。
「もう、なんねぇあまねくん、安座真さん、じゃなくって、おとうさん、でしょ?」
「あ!はい、そ、そうです。ねぇ」
そうだ、僕はまだ、安座真さんのことを“おとうさん”と呼んだことがない。だって、高校1年で出会ってずっと、監督か安座真さんとしか呼んだことないから。
逆に、まったく初対面の方が呼べるんじゃないだろうか?おとうさんって。
僕はそんなことを考えていたけど、呼べるのかなぁ。
安座真監督、安座真さんのことを「おとうさん」って。
つづく
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