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天音が見た千代の記憶

第27話


 千代の話を聞いて、母さんは泣いていた。あの夏のことを思い出したんだろう。

 それに僕の父のことを母さんが知るはずもないから、これで母さんも、僕のことを全て知ったことになる。


「そうか、千代、さっき僕たちは大きな霊気を出しながら手を繋いだ。だから大きな力が出て、あいつを吹き飛ばすことができたよね。でもそのとき、僕たちは霊気を共有したんだ。混ざってしまったって言ってもいい。でもね、僕はこういう経験って、2度目なんだよ」


 僕は千代にそう言った。すると千代は、さも当然という顔で応える。


「分かるわ。安座真監督でしょ?天音を卓球部から引き抜いたとき、自分の過去を見せてたわね」


 それを聞いた母さんが安座真さんを睨む。安座真さんは慌ててそっぽを向いた。


「うん、そうだ。でね、と言うことは、僕も千代のこと、見たんだよ」

「っ!!私の夢って、そういうこと?」

「うん、そういうこと。話していい?」


 千代はずいぶんと迷っていたが、結局、ここではダメ、ということになった。それもそうだ。ここには太斗もいる。幸や友達もいる。安座真さんや母さんも。知られたくないことも、あるだろう。


 僕たちは明日、ふたりきりで会うことにした。



 夕方、マグドの奥の席。


 今日は天音が私のことを話してくれる。私の過去、きっと私が知らない私のことも、天音は知っているんだ。

 Lサイズのドリンクを頼んで、私たちはいつもの席に座った。


「それでさ、あまね、私のどんな記憶を見たの?」


-ああ、あんなことやこんなこと、天音に見られたっていうの?もう、どうしよう。


 私はドキドキしながら天音の答えを待った。


「うん、千代の記憶ね、はっきり言って、全部見た」

「ぜ、ぜ、ぜんぶぅ~~?」

「うん、全部」


-わぁ、どうしようどうしよう!私のこと、全部天音に知られちゃってるんだ!


 でも天音の顔色はあまり優れない。少し心配になってきた。


「ねぇ、もういっそのことすっぱり言っちゃってもらえませんかねぇ。もうこんな状況、私、限界かも」


 心配のあまり私の口調も変になる。でも真剣な顔の天音は、覚悟を決めたように私の目を見つめている。


「じゃ、千代、話すよ?」


 天音の話は私が小さい頃の思い出でも、最近経験したことや考えている事でもなかった。


「千代、僕は千代の、お父さんが亡くなった日のことを全部見た。千代は小学4年生、これは前に聞いたね。そしてリビングでお父さんを見つけて、そして呆然と数時間を過ごした・・・」


 それはあの日、私がリビングで過ごした、数時間の記憶だった。



 私はお父さんの亡骸のそばで、ずっと泣いていた。


 鳴り止まないRINGの着信音、ディスプレイに次々と表示されるメッセージの切れ端、その全てに悪意を感じた。


 恐ろしかった。怖かった。


 そして、憎かった。


 涙が溢れて見にくかったけど、私はお父さんのスマホを両手で掴み、震える手でそのメッセージをなぞっていた。


 憎い、憎い憎い!


 私の大好きなお父さんを、この人たちは貶め、蔑み、晒し物にした。


 そしてお父さんは、自ら命を絶った。


 私を置いて、自分だけ、たったひとりで。


 手の平には知らず知らず霊気が宿り、私はそれをスマホに向かって叩き込んでいた。


 霊気の色は、真っ黒・・・憎しみの黒だ。


 そして私はお父さんの傍に寄り添い、ランドセルから小さな彫刻刀を取り出した。


 私は、お父さんと一緒にいたかったんだ。


 私は右手に握った彫刻刀の刃を左手首に当てた。


 このままスッと引けば、私はすぐにお父さんに会える。そう思っていた。


 そのときまた、父さんのスマホの着信音が鳴った。RINGのようだが、初めて聞く着信音だ。


 送られてきたメッセージは、空白だった。


 私はすごく怖くなって、早くお父さんのところへ、って考えた。そして右手に力を込めようとしたら、なにかが私の右手を押さえた。


 見上げると、私の後ろから私を抱きしめるように、濃くて真っ白な影が覆っている。


 その影が腕を伸ばし、私の右手を止めているんだ。


 それは人型には見えなかったけど、顔のところにあるシミには見覚えがあった。


 それは、お父さんの顔だった。


 耳ではない、頭の中にお父さんの声が響いた。


「だめ、だめだよ、ことちゃん。そんなことしちゃだめだ。おとうさんはよわかったから、にげてしまったけど、ことちゃんはにげないで。それからね、ことちゃんはまっしろなんだから、こんなくろいのは、すてちゃおうね」


 その声を聞いた瞬間、私の全身から真っ黒な霊気がほとばしって、スマホの中に消えた。


「ほら、きれいになった。ことちゃんはまっしろ、かがやくしろさ、だよ?」


「でも、ことちゃんはこんなふうに、だれかにねらわれちゃうみたいだね」


「だからおとうさんがまもってあげる。ことちゃんをおいてにげたから、ごめんなさい、でね」


「そのうちね、ことちゃんをまもってくれるひとに、かならずあえるから、そのときまで」


「ことちゃんは、ひとにやさしく、そしてつよく、いきなさい」


「おとうさんは、いつもそばにいる。じゃあね、ことちゃん」


 私はそのまま、気を失った。


 それからの私は、絶対にいじめを許さない、誰であっても、それが先生であっても、自分がいじめられようとも、絶対に許さない子供になった。


 いつしか私は、みんなに頼られる人にも、なった。


 本当は、違うのに。


 そして私はRINGが、SNSが怖くなっていた。



 天音の話はそれだけだった。


 私の目から、ただ涙が流れていた。


 涙は止められない。尽きるまで止められない。


 だって、あのブギーマンは、大人の花子さんは、私が、私の憎しみに染まった真っ黒な霊気が作り出したんじゃないか。だからあいつは私を狙った。


 私に固執したんだ。


 それに私は強くない。


 お父さんに守ってもらってるから、強くなれただけなんだ。


「ちよ、千代、もういちど思い出して。お父さんが千代に言ったこと」


 天音の声が聞こえて、私は初めて涙を拭いて顔を上げた。


「おとうさんが、言ったこと?」

「そう!千代のお父さんが言ったことだよ」

「えっと、私の気は、真っ白?黒いのは、捨てちゃおうって」

「そうだよ、千代の霊気は真っ白、輝く白さ!そして黒いのは千代の気じゃない。あれが、もうすでにネットに巣くっていたブギーマンの瘴気だ」

「そうだね。あれは元々、私の中にいた。だから私は、あいつに狙われた」

「うん、でもね、千代のお父さんはこうも言っていた。千代は狙われるから、お父さんが守るって。何か気付かない?」

「なんだろ?不思議な雰囲気を感じることはあったけど・・・」

「昨日、ブギーマンが千代を狙ったとき、千代の体を真っ白で濃い霊気が覆った。気付いたろ?」

「うん・・でもあれが私の霊気じゃないの?」

「いや、違うんだ。あの日、リビングで千代の手を止めた霊気、あれと同じものだ」

「え!じゃあ、あれって」

「そう、千代のお父さん。お父さんが千代を守ってたんだよ。あのリビングでも、昨日の闘いでも」

「そう、なのかな。じゃ、お父さんは、ずっと私の傍にいてくれたのかな」

「そうなんだよ。でもね、こんなふうにも言ってたよね。千代は怪異に狙われるから守る。つまりね、普段の千代が強いのは千代の力で、お父さんの力じゃない」


 天音が私の目を見つめてる。

 

「だからね、千代、千代は今のまま、今までのようにしてて、いいんだよ?」


 天音の言葉を聞いて、私の目からまた涙が溢れ出した。

 なにかが堰き止めていた自分の感情が溢れ出すように、それはやっぱり、止めることが出来なかった。


 天音は私の涙が止まるまで、何も言わず傍にいてくれた。




つづく


お読み頂きまして、ありがとうございます。

毎日数話ずつ更新していますので、ぜひ続きをお読みいただきたいと思います。

気に入っていただけましたら、ブックマークや評価をしていただけますと嬉しいです。

よろしくお願いします。

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