表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/86

千代が見た天音の記憶

第26話


「あまね、あまねっ!!」

「う・・うん・・あ、母さん、安座真さんも」


 仰向けで倒れている僕の目の前に、母さんと安座真さん、ふたりの顔があった。


 僕は大人の花子さんが消えた後、少し気絶したのかもしれない。だけど僕は、その間にある光景を見ていた。


 それはただの夢なのか、それとも現実にあったことなのか、それは分からない。



「太斗は?幸は?」


 僕は頭を少し上げて、太斗と幸を探した。

 ふたりは傍にいた。床に横たわるふたりの側には廊下で待っていた友人たちが付いてくれている。


「うん、大丈夫だよ。ふたりともほとんどの霊気を吸われてたけど、私と雄心でちゃんと補っておいた。おかげで私らもスッカラカンだけどね」

「ああ、こんなの初めてだ。子供たちの小さな悪意も、長い時間積み重なれば、とんでもない化け物を産むんだな。これからこんなのが増えるのかと思うと、ぞっとするよ」


 母さんと安座真さんはそう言って笑い合っている。


 ふと、母さんが僕の手元に目をやった。


「ところで天音、あんたさ、いつまで握ってるつもり?」


 急に意味ありげな事を言う。


「そうだぞ?お前、誰かさんのことは気にならないのか?」


 安座真さんも母さんに同調する。


「え?・・・あっ!千代っ!!」


 僕と千代は、まだしっかりと手を繋いでいた。


「ん・・うん、あまね?」


 千代が目を開けた。そして僕と繋いだ手を見て、叫んだ。


「やだっ!」


 僕たちはようやく手を離した。



「ことはちゃん、あなた、泣いてるの?」


 しばらくして体を起こした千代は、泣いていた。母さんたちにはその理由は分からないだろうけど、僕には分かる気がした。


「はい、気を失ってる間に、なんだか今の今までいろんな光景を見た気がして、すっごく悲しくて、涙が・・止まんない」


 そう言いながら千代は僕の顔を見る。きっと千代も、僕と同じような光景を見たんだ。僕は千代に話すことにした。さっき見た、遠くの世界の光景のことを。


「あのさ、千代、俺さ、気絶してる間にお前の夢みたいなのを見たんだけどさ、それ、話していい?」

「ううん!天音、私が見たことを先に話すわ。じゃないと私、涙が止まらないかもしれない。いい?天音、そして、お母さん」


 僕と母さんは目を合わせる。母さんも同じ考えのようだ。


「いいよ、ことはちゃん、話してごらん?」


 母さんが優しい声で千代を促した。



「私、あまねのお母さんに、会いました。あまねのお父さんにも」

「え?・・・あまねの、父親?」


 母さんは驚いている。それはそうだ。母さんは、真鏡優梨は、僕の本当の母、名城明日葉なしろあしたばの事しか知らないのだから。


 千代はそれから、千代が知るはずのない過去を語り出した。

 幼い僕と名城明日葉の暮らし、小学1年の担任だった真鏡優梨のこと、そして僕らとミミチリボージの闘い。

 母と優梨先生は僕を命懸けで守り、優梨先生はミミチリボージに憑かれていたチーノウヤを解放し、自らの中に取り込んだ。


 そして母は、名城明日葉はミミチリボージを封印するために、自分の命を使った。

 名城明日葉は、マジムンになった。


 その後、優梨先生が僕の新しい母となり、東京に移り住んで、僕は高校生になった。

「あまねのお母さん、名城明日葉さんの心に、私は触れてしまった。それに、優梨さん、今のお母さんの心にも。あの怪異たちの恐ろしさ、激しい闘い、そしてその後のこと。それだけで私は、涙が溢れて止まらないの」


 千代は涙を拭うと僕の目を見つめて、言った。


「でもね、私、あまねのお父さんにも会ったのよ?あまねはね、まだ赤ん坊。私が見たのは、赤ん坊のあまねの、記憶」



 あまねはまだ2歳になってない。ようやくよちよち歩きを卒業したくらいだったわ。


 その日、あなたたち家族は海にいた。お父さんがあまねに、海の波や、ビーチの砂や、生き物たちを見せたいって、お母さんは反対したんだけど、お父さんがどうしてもって。


 そこでね、あまねのお父さんは亡くなった。


 あまねのお母さんには強い霊力があったから、予感していたのよ。でもその予感は、お父さんが亡くなるんじゃなくって、あまねに危険があるっていう予感だったの。


 お父さんはあまねを抱いて、腰くらいの深さまで海に入ったわ。


 あなたはお父さんに海の水を掛けられたりして、とってもはしゃいでいたけど、海の中を近づいてくる“こわいもの”に気が付いて急に泣き出した。それでお母さんは、急いで駆けつけたの。


 あなたが感じた“こわいもの”は、海に巣くう怪異だった。そいつはあなたを狙って、お父さんの足を掬ったのよ。


 お父さんはバランスを崩して倒れたわ。でもあなたを助けようと、腕を伸ばしてあなたを水面に掲げて、自分は水中に沈んだ。


 駆けつけたお母さんはあなたを抱いて、怪異を防ぐために結界を張ったわ。そしてお父さんを助けるために手を伸ばした。でも手が届かない。お母さんはあなたが水を飲まないようにしながら、水中に頭を入れた。


 そこで見たものは、お父さんが両足を何かに巻かれて、深みに引っ張られていくところだった。もう手は届かない。お母さんの霊力も、あなたを抱いたままではうまく使えなかった。


 そのときあまねは、お母さんの腕を振りほどいて、海に飛び込んだのよ。そしてお父さんに手を伸ばしたの。あなたのその小さい手は、霊気を纏っていたわ。きっとお父さんを助けたかったのね。でもそれも、お父さんの手には届かなかった。


 お父さんはあまねを見ながら言ってたわ。


 ありがとう、あまね。もういいよ。大きくなれって・・言ってた。

 あなたはお父さんを呼んでた。海の中で、一生懸命。


 お母さんも叫んでいたわ。


 しょうま、しょうまーー!って。



 僕の父さんは”しょうま”っていうのか。名前も顔も覚えていなかった。それどころか、父がどうして亡くなったのかも聞いていない。


 名城明日葉、母が教えてくれなかったからだ。


 でも千代は見た。それは、僕の潜在意識に埋もれているような記憶だったんだろう。


 幼い僕、父母のこと、そして今までのこと・・もう千代は、僕の全てを知っている。


 でもそれは、僕も同じなんだよ。



つづく


お読み頂きまして、ありがとうございます。

毎日数話ずつ更新していますので、ぜひ続きをお読みいただきたいと思います。

気に入っていただけましたら、ブックマークや評価をしていただけますと嬉しいです。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ