真鏡優梨と安座真雄心 ③
第22話
僕が金色の霊気を練り上げ、怪異に向けて放つ瞬間、母さんの叫ぶ声が聞こえた。
「あまね!!撃っちゃだめ!!」
僕はハッとして母さんを見た。
母さんの髪が、ずずずずっと音を立てながら伸びている。同時に胸が見る間に膨らんで、もうシャツのボタンは弾けそうだ。
母さんの首が、がくっとうなだれた。
「母さん!だめだ!チーノウヤになっちゃ!!」
覚えている。僕が小学1年生だったあの日、母さん、優梨先生はチーノウヤに取り憑かれ、僕の首を絞めた。でも結局母さんは、チーノウヤを自分の中に取り込んだんだ。それが今、出てきている。チーノウヤのあの目、死んだ魚のような、焦点の合わない濁った目。
今、母さんがそうなる。
「母さん!しっかりして!チーノウヤに乗っ取られる!!」
うなだれた首を母さんがゆっくりと持ち上げ、天音の方を向いた。その目は母さんの、真鏡優梨の目だった。
「天音、大丈夫・・・母さんよ」
「あ、かあさん・・」
母さんの気は大きい。元々は透き通るような純白の霊気。それが何倍にも膨れ上がっている。マジムンであるチーノウヤの瘴気は、この10年の間に母さんの霊気に取り込まれ、能力の一部になっているようだ。
チーノウヤの灰色の瘴気と母さんの純白の霊気が混ざりあい、今、母さんを包んでいる霊気は白銀に輝いていた。
「安座真さん!いい?全力よ!全力出して!!」
「ああ!おかあさん!分かった!!」
安座真さんは渾身の気を霊刃に集め、自身の周囲の瘴気を大きく切り裂く。ひとりではすぐに修復されるが、そこに母さんが霊気の塊を叩き込む。
「が、があ、がががあああああ!!」
怪異の瘴気は、安座真さんと母さんの攻撃であらかた吹き飛んでいた。怪異が急激に萎んでいく。そしてそれは、幸に向かって流れ込もうとしていた。
「いかん!おかあさん!私が幸に被さるから、おかあさんが止めを!」
安座真さんが霊気を纏って幸に覆い被さった。それ以上進めない怪異は、丸くまとまっていく。
「ん!分かった、いくよ!!」
母さんが両手に霊気を集中し、瘴気の玉を狙う。
バッチィイイン!!
だが怪異を形作る瘴気は、一瞬早く母さんの霊気の隙間を縫い、幸の右手に握られたスマホに逃げ込んだ。
「あ!逃げる!!」
元々スマホの中、ネット上で生まれた怪異であるブギーマンは、最後の最後、幸の体を捨てて自分が生まれた世界に逃れたのだ。
「あぁ、逃がした。しくじった」
母さんは急激に元の母さんに戻った。どうやらチーノウヤの力は出し入れ自在らしい。
「ええ、もう一歩でした、おかあさん。もしあのとき天音の霊気をぶつけていれば、確実でしたが」
「そうだけど、初めての実戦ではちょっと危ないかも。天音の力はものすごいけど、調整できないから全部出し切っちゃうのよ。そうなれば最悪、目が覚めなくなる」
僕は声を上げた。
「かあさん!安座真さん、幸は?」
「お、そうだ。おかあさん、どうですか?」
母さんは幸を抱き上げて気の強さを計っている。
「うん、消耗は激しいけど、大丈夫だわ。きっと目が覚めても、これまでのことは覚えてないだろうけど。ところで安座真さん、これからどうします?」
「えぇ、私にちょっと考えがあります。今日のところは幸と幸の家族を介抱して、休ませましょう」
「分かりました。安座真さんの力はよく分かったし、明日またお聞きします。それとね、安座真さん」
「はい?なんでしょう、おかあさん」
「私の名前は”おかあさん”ではありません。真鏡優梨です。ゆうりさん、とでも呼んでくださいね」
「は!はい、ゆりさん!」
「ゆうりさん!!」
「はい!優梨さん!」
「じゃ、明日またね、安座真さん。後は任せるわ。さ、天音、帰ろ?」
後のことを全て任された安座真さんは、ぽかんと突っ立っている。僕は母さんに急かされるまま帰ることになった。この状況を幸の家族にどう説明するのか心配だけど、千代に連絡して来てもらえば何とかなるだろう、後は明日だ。
あの怪異、ネットに逃げ込んだブギーマンをどうやって誘い出すのか。
安座真さんの考えを聞くことにしよう。
でもこのふたりの気は、やっぱりぴったり合ってるなぁ。
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つづく
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