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真鏡優梨と安座真雄心 ②

第21話


 僕が幸の家のインターホンを押した。

「は~い・・あ、天音君?それに安座真監督!こんな時間にどうしたんですか?」

 インターホンに出たのは、幸だった。


 安座真さんが平静を装って応える。

「幸、千代のことなんだけど、ちょっと聞きたいんだが、今いいか?」

「千代のこと?分かりました。すぐ開けますね」


 カチャリと鍵が開く音がして、どうぞ、と幸の声が聞こえた。

 僕たちは顔を見合わせて、ドアを開け、そして入った。

 玄関は明るく、廊下も、各部屋も照明が点いていた。僕が後ろ手にドアを閉める。


 その瞬間、パタン!という音と共に全ての照明が落ちた。幸の家全体が暗闇に包まれる。だが、この状況は想定していた。


 僕たちはそれぞれが自分の霊気を解放した。これでお互いの状況は明かりが点いているのと変わりなく分かる。それに、怪異の瘴気も見えるのだ。僕たちに暗闇は無意味だった。


「思った通りだが、まず幸の家族を探そう。確か両親と妹の4人家族だ」


 僕と母さんは頷き、リビングに入った。そこにはソファーとフローリングに3人が倒れ込んでいる。

 母さんが素早く3人に近づく。そして手を背中や胸に当てると、3人とも薄く気を纏った。


「大丈夫、気絶してるだけ。気は吸われてるけど、私が結界を張っておいたからあとは心配ないわ」


 それを見て、安座真さんが“ヒュウ”と短い口笛を鳴らす。


「やっぱすげぇな、天音のお母さん」

「ふふ、ホントにすごいのは、こっからですよ?」

「ふたりとも、なにやってるの?奥に行くわよ!きっと2階、自分の部屋だわ」


 僕たちは階段を上り、幸の部屋とおぼしき扉をそっと開けた。すると部屋の照明が点いて、幸が椅子に座っていた。


「あ、天音君、安座真監督、それから、知らない女の人。太斗君は?それに千代は?」


 幸が笑顔を貼り付けて言う。ちょっと見は普段と変わらない。


「天音、あの子の霊気、あれは・・」


 母さんが僕の背中に手を回す。無意識に僕を守ろうとしているようだ。それは幸の、禍々しい深紅と暗黒に彩られた霊気を見たからだ。


「あれは、ほとんどが瘴気だわ。天音、あなたはまだ本気を出しちゃダメ。子供の頃も死にかけたのよ?2回も力を使ったから。今だって、こんな経験は初めてでしょ?」


 母さんはそう言うと、安座真さんに目配せした。ふたりで行く、という合図だ。

 安座真さんは小さく頷いて、幸に近づいた。


「幸、いや、幸じゃないな。お前、どれだけの子供たちの霊気を吸った?幸の霊気を吸ったなら、ずいぶんと強くなったろうな」


 怪異を挑発する。姿を見せてくれれば簡単だからだ。


「え?安座真監督、なにをおっしゃってるのか全然意味が分かりませんけど、私、何かしました?」


 幸はその手にスマホを握りしめている。それこそがこの怪異と現世を繋ぐ通路だ。


「ふぅ~ん」


 母さんは、なるほど、という顔で鼻を鳴らす。そして幸の問いには応えず、すたすたと幸との間合いを詰めた。あまりに唐突な接近に、思わず幸が立ち上がる。邪悪な瘴気が膨れ上がった。しかし母さんは怯まず、右手の人差し指を立てて、唇に当てる。


「しっ!!」


 母さんの体を巨大で真っ白な気が包む。安座真さんが見上げるほどだ。


「はぁ、これはこれは」


 そして母さんはその人差し指を幸の胸に当てた。瞬間、母さんの気は指先に収束し、幸の胸に突き刺さる。


「ガッハァ!!」


 一瞬のことだった。幸は何かを吐き出した。それは赤と黒が混ざり合おうとするようにぐねぐねと動く球だった。瘴気の塊だ。


「ふん、子鬼か」


 母さんは瘴気の塊を自分の霊気で包み、押しつぶした。だが、幸の口からは、次から次へと瘴気の塊が吐き出される。そのうちのいくつかは、醜い人型の子鬼に変わり、安座真さんに襲いかかった。

 安座真さんはいつの間にか机にあったボールペンを握っている。そしてそれを子鬼に向けた。

 ボールペンから霊気がほとばしり、刃を象る。霊刃だ。


「ひゅっ!」


 わずか数歩間合いを詰めた安座真さんは、向かってくる子鬼たちをその霊刃で薙ぎ払った。


「あら、やるわね」


 母さんと安座真さんの前では、子鬼などいくら出しても無力だった。


「がぁ!がぁあああーー!!」


 幸が、いや、幸に取り憑いた怪異が叫ぶ。すると、幸の全身を赤と黒の瘴気が覆い、見る間に分離していく。それは、その姿は、大人の花子さんだった。

 幸はがっくりと膝を突いて床に倒れ込んだ。怪異が幸から離れたんだ。


 怪異の姿は部屋の天井に届くほどの上背、その髪はおかっぱ頭のようだ。白いシャツ、赤いスカート、そう見える。だが、よく見ればそれはどれも、この怪異の表面に浮かぶ瘴気の文様だ。


 おかっぱ頭は真っ黒な顔に乗った歪な頭蓋骨。この怪異の頭は、真っ黒な髑髏だった。

 子鬼など比べものにならない瘴気の濃さ。母さんと安座真さんは、無意識に近づき、連携していた。


「安座真さん、その霊刃で、あいつの瘴気を散らしてちょうだい。あとは私の霊気で包んで、潰す」

「りょーかいです!おかあさん!!では、行きます!!」


 安座真さんは数瞬で間合いを詰め、手にした霊刃を振りかざした。そして怪異の頭を狙い、渾身の面を叩き込む。


「っとぅああああーーーー!!」


 怪異は頭から左右に断ち切られた。


「行くわよ!」


 母さんも霊気を纏って怪異に突っ込む。そして両手を広げ、そのふたつの手の平に巨大な霊気を纏わせ、柏手を打った。


 バッチン!!


 霊気は怪異を左右から包み込む。そのまま母さんは、両手の指を組んで、渾身の気を入れた。


「潰れたか!!」

「まだだ!おかあさん!」


 安座真さんが叫ぶ。母さんの霊気の球から、ドロドロと漏れ出ているものが見えた。瘴気は潰れていないんだ。


「こいつ!隙間から!」


 床に漏れ出た瘴気は、即座に形を変え、またも天井に届くほどの怪異となった。そしてそれは、自分の両手を大きく広げ、その手の平に瘴気を集めている。


「ま、まずい」


 怪異は手の平に集めた巨大な瘴気を安座真さんと母さんに向けて解き放つ。同時に、広げた腕を顔の前で合わせた。


 バッチン!


 怪異が母さんの技を真似たのだ。

 安座真さんと母さんは、怪異の瘴気に挟まれた。ふたりは体の周囲に霊気を纏って耐えてはいるが、濃い瘴気に徐々に押されている。


 全身を瘴気に包まれれば自身の霊気が蝕まれ、怪異に取り込まれる。抵抗できないこの状況はまずい。


 僕は自分の霊気を目の前で練り上げた。


-ここで僕の霊気を使う。でなきゃふたりが危ない。


 僕が練り上げた霊気は、まばゆい金色に色を変えた。だが、まだ足りない。もう少し、もう少し大きく、もっと大きく!


 一発で、決める!




つづく


お読み頂きまして、ありがとうございます。

毎日数話ずつ更新していますので、ぜひ続きをお読みいただきたいと思います。

気に入っていただけましたら、ブックマークや評価をしていただけますと嬉しいです。

よろしくお願いします。

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