大人の花子さん
第17話
千代が言うには、幸がRINGを回した後、同じような経験をする女子が続いているらしい。
ある女子は幸と同じく女子トイレで、ある女子は部室で、ある女子は図書室で、校内いたる所で起こっている。
いつもひとりの時、そしていつも放課後の遅い時間に。
「そしてその子たちね、みんな見てるの。追いかけてくるお化けの姿」
「え?お化けの姿って幸は見てなかったよね、でも他の人には見えたんだ。どんな風に見えたの?」
普通の人に姿が見えるなら、そいつはかなり危ない怪異だ。僕の鳥肌はおそらく、千代からごくわずかにそいつの瘴気を感じるせいだろう。
でも、なぜ千代に瘴気が?
千代は話を続ける。
「それがね、白いシャツに赤いスカートで、白いソックスを履いてて、髪はおかっぱ・・」
「ちょ待ってよ!白いシャツ?赤いスカート?白いソックスにおかっぱ?それってまるで」
太斗が慌てて口を挟んだ。
「うん・・・まるで花子さんなの」
「そんなの小学生の怪談じゃん!高校生がそんなの、見る?」
「でも違うのよ、太斗。確かに花子さんみたいなんだけど、それ、身長が2メートルくらいあるみたいなの」
「に、2メートル?」
「うん、それと、顔はまっくろで見えなくって、手には真っ赤な手袋をしてるみたいで、とてもあの、”花子さん”っていうイメージじゃないの。大人の花子さんって言うか、もっと怖い存在って言うか」
花子さんのイメージ、それは様々なメディアで皆が見ているイメージ。小学生なら必修科目のように見せられ、刷り込まれるイメージだ。
僕は千代に聞いた。
「千代はそれ、誰に聞いたの?もう一度確認するけど、幸は見てないんだよね」
「うん、私は見た子たちからの又聞きなんだけど、困ってるのはそこなの。実はそれを見た子たち全員が体調を崩しちゃってて、休んでる子もいて、登校してる子たちもいつも何かに怯えてるんだ」
「そうか、ところで幸はどうしてる?落ち込んでるんじゃないか?」
太斗は眉をしかめ、腕組みしながら千代に聞いた。
「うん、すっごく落ち込んでる。全員が剣道部の女子で幸の友達だから。それに幸自身はそいつを見てないせいか体調が悪いわけじゃないし、みんなに、ごめんね、ごめんねって言ってる」
「なるほどな、じゃ天音、俺らには何ができるかな?」
太斗は僕の目を見ながらそう言った。きっと、幸のところに行ってやりたいんだろう。
「あぁ、幸に話を聞いてみよう。何ができるかは、それからだ」
「ホント?良かった!天音たちなら、きっとそう言うと思った!」
千代は幸を心配して僕たちに相談しに来たんだ。落ち込む親友を見ていられないけど、自分だけではどうしたらいいか分からなかったんだろう。しかし、太斗と僕が行って、幸は元気が出るのかな?
それと、ひとつ気になることがある。
「千代さ、幸はRINGで繋がってる剣道部の女子たちにそいつのこと送ったんだろ?千代にはそのメッセージ、来てないの?」
千代はちょっとだけ目を伏せて、すぐに頭を上げて言った。
「私、RINGとかのSNSってやってないじゃん!実はね、そういうのちょっと苦手なのよ」
「あ、そうだ、そうだったな。ずっと前に聞いたことあったわ」
太斗はいかにも”思い出した!”という顔をしている。
僕もSNSが苦手で、言われなければアドレスを交換することは無い。だから千代からアドレス交換を言われないのも不思議じゃなかった。
-そっか、千代はSNSが苦手なのか。
そのときはそう思うだけだった。
「じゃ、千代、太斗、明日の放課後、幸と話してみよう!」
「おう、分かった!」
「うん!ふたりとも、お願いね!」
時間はもう夕方をかなり過ぎている。
僕たちは明日の約束をして、別れた。
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「それでさ、幸はそいつのこと見てないでしょ?みんなが見たそいつの話聞いて、どう思った?」
僕たち3人は、教室で幸の話を聞いている。
教室には僕ら以外誰もいない。気心の知れた僕たちに全部喋って、幸の表情は少しだけ明るくなっていた。
「うん、怖かったし、今もとっても怖い。だって花子さんって意外と良い子のイメージがあるでしょ?寂しがり屋とか、それが2mもあって、手足が血に濡れてるって、私はすっごく怖い。みんなも怖がってたでしょ?」
「うん、ホントに怖がってる。あとさ、幸が追い掛けられた時に聞いた声は?女みたい?それとも男?」
僕は幸の話から、この怪異がどんなものなのか探っていた。でも、幸に刺激を与えすぎるのもまずいから、言葉は選んでいる。
刺激を与えると変わるんだ。幸の気の色が。
「う~ん、やっぱり女かなぁ、花子さんだもんなぁ」
幸はやはり、みんなの話に引きずられているようだ。一番最初に怪異に遭遇しているから、一番フラットな情報を持ってるのは幸なんだけど。
「天音、もういいんじゃないか?幸もいろいろ思い出したくないだろうし、とにかく今回の件は幸のせいじゃない。それは間違いないだろ?」
「ああ、もちろん。ある意味、幸はこの怪異の一番の被害者だよね。でも最後にもうひとつだけ、幸はその子たちに、どうしてRINGしたの?」
「だってすっごく怖くて、でももしかしたら、こんな事があったよ!ってみんなに教えたかっただけなのかもなぁ・・」
「あと、千代には電話で?」
「うん、千代はRINGとかしてないから、いつも電話とか直接会って話すの。それはみんながそうだから」
「そうか、分かった!幸、ちょっと元気が出たみたいだね。ね?千代」
「うん、ホント、ちょっと元気出た、ね!太斗」
「ああ!来て良かった!俺らで何が出来るかなってちょっと思ってたから、すごく良かった!」
幸は太斗の顔をチラリと見て、にっこりと笑った。
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つづく
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