忍び寄る学校の怪異
第16話
高校3年生の、冬のある日。
「さっむ~い!ね?天音!」
「うん、さむいね~!俺、沖縄生まれだから、なおさらすっごく寒いよ!」
「だったね!天音は沖縄生まれだった!でも、なんで東京に来たんだっけ?」
「え?う~ん、それはねぇ、ちょっとねぇ、なんかねぇ・・」
「あ、ごめんね、いいからいいから、天音の家もお母さんと二人だもんね、言えないこともいっぱいだよね」
僕は、登校中に会った千代と話しながら校門をくぐろうとしていた。
僕たち3年生はもうすぐ終わる高校生活を思いつつ、そこから始まる新生活を夢見つつ、ふわふわとした時間を過ごしている。
僕も千代も、そして太斗も進学志望だった。太斗は剣道の腕を買われ、スポーツ系の大学に進学する予定だ。やっぱり全国レベルの選手は違う。
僕はこれまで考えていたとおり、沖縄の大学に進学することに決めていた。特に勉強が出来る方ではなかった僕だけど、高校1年からしっかりと準備は進めてきたんだ。どうしても、沖縄の大学に進学したかったから。
このことはもう、太斗にも千代にも言ってある。
そしてある日の放課後、僕たちは教室に集まって、いつものように話していた。
「天音は沖縄の大学なんだよな~、そこって剣道は全然関係ないんだろ?惜しいよなぁ、天音がひと言”俺も行く”って言えば、また一緒に剣道できたのに!」
「太斗、それ、誰が惜しいの?天音は惜しくないよね?私も惜しくない。あんたが惜しいって思ってるだけでしょ?」
「あ、わかった?」
太斗は常々、自分と同じ大学に行こうって誘ってくれた。曰く、高校で始めた剣道だけど、たった2年ちょいでここまで強くなるのは異常だそうだ。あり得ないって。
そんないつもと同じ他愛ない会話、しばらく話して、じゃねって解散、そう思っていたら、千代が急に思い詰めた顔をして、相談があると言う。
「急にゴメンね・・・あのさ」
声を落とす千代。こんなことは滅多に無い。いや、初めてかもしれない。
「え?どうしたの?千代のそんな困った声って、珍しい」
僕は思わず千代に聞いてみた。
「ん~、私だってこんな声になることもあるよ!だってさ、ちょっと、困っててさ・・」
僕と太斗は目を見合わせた。こんな千代は本当に初めてだ。そして僕たちは、目線を合わせながら頷いた。
「おい千代!俺らに言いたいことがあるなら言え!返り討ちにしてやる!!」
千代の目が少し潤む。
「ば!太斗、何言ってんの!あのさ、千代、今のを翻訳すると~」
「分かってるよ、太斗のバカの言いたいことくらい。助けてくれるって事でしょ?」
「そう、そのとおり!とにかくさ、何でも言ってよ、俺らが力になるからさ」
「うん、ありがと、天音、太斗」
それから僕たちは、千代の話を聞いた。それはちょっと信じられないような話だった。
始まりは、中畑幸だった。
幸は剣道部でも千代と並ぶ中心選手、そして千代の親友でもある。
「それでね、幸が放課後、3階の女子トイレの前を通りかかったとき、スマホが鳴ったんだって。見たらRINGの着信なんだけど、設定してる着信音じゃなかったから、おかしいな?って立ち止まって確認したらしいの。そしたらね、トイレの中から声がするんだって」
「う~ん、どっかで聞いたような話だなぁ、それでトイレに入ったら、一番奥の個室がギィ~って開いてぇ・・・」
太斗は眉をひそめるけど、僕は千代の話を聞いて鳥肌が立っていた。どうも千代の霊気の色がおかしいんだ。
「私もね、そんな気がしたんだけど、違うの。幸はね、なんだろ?って思ったけど、きっと誰かが使ってるんだなって、通り過ぎようとしたら・・」
「そしたら?」
「またスマホが鳴り出して、しかもまた別のRINGの着信音で、ハッとしてスマホの画面を見たら、メッセージが入ってて、“こっちこっち”って」
「こっちこっち?女子トイレってこと?」
「うん、そしたらね、女子トイレの中からも、“こっちこっち”って聞こえたんだって!」
「そ、それで?」
「うん、あんまり気味が悪いから、幸は走って逃げたんだけど、今度は後ろから聞こえたらしいの・・」
「な、なにが聞こえたの?」
太斗はゴクリと喉を鳴らした。僕の鳥肌はもう全身に立っている。
「バタバタバタって追いかけてくる足音と、こっちこっちこっちこっち!逃げるな!!っていう声!」
「ぎゃーー!なにそれ!小学校の怪談みたいじゃん!」
太斗は両腕を組んで二の腕をさすっている。本当に小学生がするような王道の怪談話だ。でも、千代の話はそれで終わらなかった。
「でね、幸が剣道部の女子たちにRINGを回したんだけど・・」
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つづく
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