6,マリィというメイド
マリィはおひさまの光でふわふわに乾いたタオルを畳んでいる最中だった
心地の良い天候のなかで
暖かい洗濯物の業務は、マリィのお気に入りの仕事の1つだった
時折窓から見える景色の中で
騎士のゴードンが剣を振るう姿を見れたら、その日はとても心が踊る日となった
目が会ったら挨拶をする程度の彼に、いつか話しかけてみたいと思っているけれど業務中だとおしゃれな格好ではないので、どうせなら可愛い格好の時に声を掛けたいし、かけられたい
いつかプライベートの時間に彼とゆっくり会話が出来たらなぁ…と密かな恋心を胸に秘めいて、それを大切に抱えて日々を過ごしていた
窓の向こうを見るとゴードンが汗を流しているのが目に入る
いつから目で追うようになったのか、始まりらしい始まりは無かったと思う
かっこいいな…と思っていたら、いつのまにか恋心のコップが満杯になっていた
その瞬間からいつでも彼を目で追ってしまうようになったし
こんにちわ、と声を掛けられた時には自分の身なりが気になってしょうがなかった
いつかお話出来る機会があったら何を話そうか…
お休みの日はなにをされていますか?
ご趣味はなんですか?
お酒は嗜まれますか?
どんな女性が好みですか…?
だなんて、考えただけで心が踊った
よかったら…、ご飯でも一緒にいかがでしょうか…?
だなんて!言えたらいいな!
と、考える事が楽しい
そんなとき、珍しい相手から腕時計の通信端末に連絡が入った
ロードライド殿下の専属従者のフィンリーである
よく会話はする友人だけれども、連絡がこのように入るとは珍しい
”離れの塔で本に埋もれてしまったので、助けてほしいです”
「……………えっ!」
確かあの塔はほとんど人が入らない離れの場所である
しかも老朽化の進んだ廃墟のような建物だ
本に埋もれたと書いてあるが
あの塔の中の本の量は過去の物を多く保管しているため、膨大な量である
以前清掃で入った時に、他のメイドが
「取り壊しか、改築か…陛下は決断なさってないらしいわ」
と言っているのを思い出した
マリィは顔がゾッと青ざめた
これは大変なことである
そもそもフィンリーがこのように珍しく連絡を入れてきたということは
よっぽどのSOSだとマリィは受け取った
”すぐいく!”
長い返事を返すような時間は勿体無いと思った
タオルを投げ出して、窓を開けた
そこに丁度良い騎士がいる
もう、誰だって良かった
人の命がかかっている前では、恋もおしゃれも関係なかった
「ゴードンさん!私と一緒に、離れの塔に来てください!!!」
それは、今まで暖めてきた想像とは全く違う言葉だった
心臓がドキドキした
それでも、その胸の動機が恋じゃないことは
マリィが一番わかっていた
「友達が…、本に埋まってしまって…!」
窓から、精一杯の声をだして危機を伝えた
ゴードンは、マリィに気付くと
いつもの優しく微笑む表情とは違う顔付きで
「すぐに行こう!」
と力強く返事をかえした
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