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4,徒歩


ロードライドの突然のお散歩は

結構な頻度で提案されている為、従者たちは割と突然の発案でも直ぐに動くことが出来た


その代わり、城下までのルートは必ず決まった道を歩くことが条件だった


王城の門では、騎士が「善き1日をお過ごしください」と頭をさげる

ロードライドが「暑いのにありがとね」と騎士に感謝を伝えた


「フィンリーも、いつも我儘聞いてくれてありがとね」

「とんでもない事でございます。」


この門を出ればロードライドに対してフランクに接する必要があるため、フィンリーは軽い会釈に留めた。

可愛らしい日傘を持っていたフィンリーはその傘を閉じたままの状態でロードライドの右側に立った


「本日は、この位置でお守りさせていただきます。」

「もしかしてその傘も…」

「ご安心ください。威嚇程度の威力しかございません。」



本当にどこまでも素晴らしい部下で惚れ惚れする




「殿下…いえ、ロディ様…。本日は文具店のみで宜しいのですか?」

「そうね、午後の公務もあるし、そんなに長居はしないわ。文具店で新しいペンを選びたいの」

「畏まりました。では、道のご案内はお任せください」



歩幅を合わせてあるき出した


ロードライドは、なんだかデートみたいね!と言おうとして止めた


そんな無粋な事をわざわざいわなくても、自分がデートだと思えばこれはデートなのだ。と自分の中で納得をして飲み込んだ



「ロディ様見てください。農夫です。」

フィンリーは道をあるきながらロードライドに声を掛ける


「そうね農夫さんだわ。何を植えてらっしゃるのかしら」

「存じ上げませんが、あの農夫は護衛の騎士です。」

「!今回も自然に溶け込んで護衛してるわね…」

「農場と契約を結んでおりますので、敷地内の立ち入りを許されております。」


のんびりと穏やかな時間が流れていた


「フィンリー、今日はとっても可愛らしい髪型ね!全て編み込んでまとめてるのね!」

なんの気無しに会話をふった


「はい、サイドの毛髪があるといざという時に死角となりかねません。」

みてください、ピンで留めてスプレーで固めております!

とアピールをするフィンリー。

ロードライドを外でお守りしているという役目を光栄だと思っているので、そのどこを切り取って褒められても嬉しくて仕方ないのである

そんな彼女をまるで、大切に箱にしまっている宝物を愛でるかのように見つめた

自分の為に誠意を尽くしてくれているフィンリーを、ロードライドは心から愛おしく思っているのだ


「いつか…、本当にいつの日か…、プライベートで二人でお散歩が出来た日があれば、そのときは好きな髪型で街をあるきましょう?」

「ご安心ください。どのような未来でもその全てにおいて、殿下をお守りいたします。」


彼女の心の軸はそう簡単にはブレない

ずっとそうだという事を彼は十分に理解しているし

だからこそ、そんな彼女から目が離せないのだと分かっていた


ロードライドは少しだけ寂しそうな顔を見せてから

「もう!いい子!!!」


と、フィンリーの肩を抱き寄せて一緒に歩いた







「フィンリー!お揃いのペンを買いましょう!」

「ロディ様は”お揃い”がブームですか?」

「違うわよぉ!フィンリーと同じものが欲しいのっ!」

「左様でございますか。」


文具店で、二人肩を並べてペン売り場で商品を眺めた


「ロディ様、私が今使っているものはコチラです。」

「そういえば、よくポケットに差しているわね」

「卸業者がオマケということでくれたのですが、書きやすいので重宝しております」

「頂くペンって、当たり外れ分かれるのよね…」

「細いペン先が好きです」

「アタシも〜!」


傍から見たらきっと友達同士の楽しそうな一コマである


フィンリーが既に持っていペンのデザイン違いを選んで

試しに紙に文字を書いてみた


「………これペン先太いです」

「こっちが細いんじゃないかしら?」


ロードライドがペンを紙に走らせる

フィンリーが「あ、ロディ様が試し書きしちゃったらその紙に価値ついてしまいます…」

と文字をみて言う


「えっ?こんな些細な文字で?」

「私が店主であれば、このあとこの紙は額縁に入れて高く掲示します」

「フィンリーがご店主のお店なら、サインにキスマークつけてプレゼントするわよ!」

「では、もしその日がくるようであれば…、当日はグロスの塗布はお控えください」

「やだすっごい現実的要望…!」

「長期保存を視野に入れてます」


身分を隠しての外出なので、いつもと比べるとフィンリーは気心の知れた関係程度に接してくれていた


もともと堅い言葉遣いが多い彼女だけれども

時と場をわきまえて柔軟に対応できるところは素直にすごいと感心する


「え…なんなら部屋に飾る?」

「折角頂けるなら落書きではなくて一筆お願いしたいです」

「じゃあ来週にでも写真家をお招きしましょうか…」

「ブロマイド…!」


そんな2人の後ろの通路をすれ違ったマダムの格好の護衛も

その近くでハタキを持ってうろうろしている店員の護衛も

「ここになければ無いですね…」と会話する男性と店員も全てが護衛である


少しでも二人の近くに自然に寄り、安全を考慮しつつ他人を装ってはいるが

「ねぇ折角のお揃い…ペンだけじゃ足りなくない…?」

「そうですね、替芯も買い足しておきましょう」

「んもぅ!!!違うのよ!!!」


先ほどから二人の会話が面白く、笑ってしまいそうで大変であった



本物の文具店のご店主が、店員に扮した護衛に

「あの女の子は、わざと…?」と聞いた

護衛は「面白いでしょう?」と言うに留めた







帰り道、また同じように二人で歩いた

行きとルートが違ったので、フィンリーに道はあっているのかと聞いた所、帰りはこのルートで大丈夫だと言いながら近隣に立っている護衛を紹介してくれた

護衛が先回りで配置されているというのならば、このルートでいいという事である

1,2時間程度の外出であったが、なかなかに充実していて心から楽しいと思えた

ロードライドは自分のために尽力してくれる従者達に目配せをしてお礼の気持ちを膨らませた


「フィンリー、午後の書類の中に急ぎの案件って入っていたかしら?」

「ロディ様…折角のお散歩ですのに、もうお仕事の話ですか?」

「…………ふふっ、それもそうね。」


少し汗ばむ陽気のなかロードライドはフィンリーに歩く歩幅をあわせて、ゆっくり帰路を進んだ


帰路ということは、このまま歩けばこの自称・デートも終わりということである

せめてこの穏やかな時間が1秒でも長く過ごせるようにと、ロードライドは思った


そうしてしばらく歩き、街のはずれに差し掛かった頃

奥まった場所に静かに佇む1件の可愛らしい店舗をみつけた

「フィンリー、ここは外装がおしゃれね」

「ロディ様ならそう(おっしゃ)るんじゃないかと思ってました」


モチーフが他国の宮殿のようで

まるで異国の地に来たような気持ちになる外装の建物だった


「とてもメルヘンな感じね、なんだか心が踊る外観!」

「非日常をコンセプトとしているようですよ」


今までなんとなく店の存在は気付いていたロードライドだったが、通常は馬車で通過をする程度でしか知らない景色だったので近くで詳しく見るのは初めてだった

「なにを売っているお店なのかしら?」

素敵な外装であれば中もきっとワクワクするような店に違いない、そうロードライドは思った


フィンリーが、そんな彼の心情を一切気にする様子もなく


「今朝、興味がおありのご様子でしたので。」

とサラリと忘れていた話を蒸し返してきた


「………えっっっ?!」

「何か……………?」

「ここ、……えっ…、?!お宿?!」

「左様でございます。」


「こんなに可愛らしいお宿なのね…!」

「安全は考慮しております。入館をご希望なさいますか?」

「入館……?!」

「ロディ様がその意向であれば、一度中に…」

「アタシが…フィンリーと入りたいなら…???」


愛を囁きあう場所に

彼女にそんなつもりはないと分かってはいるけれど

そんなつもりは無いと!分かってはいるけれど!


誘われていると錯覚するこの状況。

ロードライドはポポポ…と顔を赤く染めた


「えぇっ…?そんなっ…フィンリーと…うぅぅん…!」


邪念が脳裏を駆け巡る

愛する恋人たちの秘密のお宿

………叶うなら、入りたい。

抱きしめて耳元で愛を囁く権利があったならば

迷うこと無く手を引いて入りたい


という様々な欲目のこもった気持ちを

飲み込んで

深く

長い

想いのこもったため息を

10秒……、


からの間。


「フィンリー…入る時は…二人っきりの時がいいわ…」


両の手で頬を抑えて

何かを言いたげなその視線には

言葉よりも多くの感情が詰まっていた


「………今だと、8人…ですかね…。」

と、フィンリーが真面目な返事をする


ロードライドは安堵と落胆の複雑な表情を浮かべている

染まった頬は赤いまま、こぼれる吐息がなんとも嘆かわしい

その姿はとても色気が強く、薔薇よりも甘いその空気が、なんだか酷く酔ってしまいそうだった


「もう恥ずかしい…やだ…ごめんなさい…!」

「……ロディ様、そのお顔は他所ではお控えください」


色気で国が回らなくなってしまいます。とフィンリーがいう。


既にその後ろの方では、ロードライドの色気を浴びた騎士達が一心不乱に素数を数え始めている姿が見え始めていた。







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