1、早起きは苦手
皇族の朝は早い。
国内外から謁見の申し込みや
最終的な書類に押印だって山程ある
その他、内地の視察も務めの1つであるので
時間はどれだけあっても足りない
ロードライド殿下の秘書であるフィンリーは、朝一番からの予定である陛下との朝食会に遅刻することは許されない…と早朝、殿下の部屋の扉を叩くのであった
「ロードライド殿下。お目覚めいかがでしょうか。フィンリーです。お出迎えにあがりました」
扉に向かって、ノックをして、声を掛け、深く頭を下げる。
「……………。」
「……………。」
返事がない。
「……………。殿下、失礼させていただきます。」
ロードライド殿下の部屋を警備する騎士は、フィンリーのこの対応に慣れているようで扉に手をかけても何も言う事はなかった
「殿下、お目覚めですか?殿下。」
「……………んっ…、」
ベッドルームにたどり着くまでの途中、締め切っている状態のカーテンに手を掛けてシャーーッと開けながら歩いて殿下のもとへ向かうフィンリー
ベッドの上では、モゾモゾと動く塊が1つあり、時計を見るとそう時間に余裕があるわけでもなかったので、この朝に弱い殿下を起こすべく、本日も布団を引っ剥がすことにした。
「殿下おはようございます。フィンリーです」
「んぅ……、朝…ァ…、ンッ!」
布団を剥がして出てきたのは、とんでもない色気の成人男性。ただパジャマが気崩れているだけだというのに、ほのかに事後の香りを伺わせる雰囲気を纏っていた。
「お目覚めのお時間ですので、お呼びに参りました」
「ありがとフィンリー…ふぁぁ…」
ベッドの上で伸びて身体を動かして、ゆっくりとベッドから降りるロードライド。
汗をかいたようで不快だったのか、早々にパジャマの上を脱いで床に落とした。フィンリーはロードライドの上半身を見て頬を染めることも無く、真顔でしゃがんでパジャマを拾った
「ねーぇ、もし部屋に入ったときにアタシが1人でエッチな事してたら、フィンリーはどうすんのよ」
立ち上がろうとしたときに
ロードライドが後ろから覆いかぶさるようにフィンリーが立つのを邪魔してきたので
「起床済みであればエッチな事をしていただいても問題ありません。スケジュールに影響が出なければ殿下の自由です」
と、頬を染めたりすることは一切無く、真顔で返事をする
彼女は心に留めて発言は控えたけれど、内心むしろ朝から元気にエッチな事をしてもらっていた方が目が覚めて時間に余裕が生まれるのではないかと思っていた。言わないが。
「んもうっ!フィンリーってば!もっとアダルトなアタシにドキドキしていいのよッッッ!」
「殿下、朝から御冗談をおっしゃる元気があって大変宜しいかと。朝食まで残り40分です急ぎましょう」
パンパンと手を叩くと、どこからともなく現れるメイドが本日のお召し物を持って並んだ
「ロードライド殿下。本日は晴れ。気温は暖かく、少し風が吹く可能性があるようです。何をお召になりますか?」
フィンリーが聞く
ロードライドは、何か言いたそうだったが、すぐに表情を切替えてから少し考えて
「…………そうね、身体のラインが綺麗に見えるこのシャツとスラックスでシンプルに決めましょうか」
と、メイド達に向かってニッコリ微笑んだ
鍛え上げられた皇族に仕えるメイドには効果が無いが、免疫の無い人間が殿下に微笑まれたらその色香に当てられて立ち眩んでしまうであろう
「あ、ピアスは雫型にするわ」
「それから、靴はヒールの気分」
オーダーすれば、ドアで待機している多くのメイドがすぐに所望したものを持って入室するので着替えにそこまでの時間がかかることはなかった
「首筋にキスマークがついていれば、最高のアクセサリーなのに…フィンリー、つけてくれない?」
「畏まりました。すぐに掃除機を持って参ります」
「………………………。やっぱネックレスにするわ…」
ロードライド殿下は、
お顔立ちは世界最高峰レベルであり、彼が微笑めば世界中の金は一箇所に集まるだろうなどと言われている。だがその美貌と低い声では想像し難い事だけど、彼の言動や作法は女性的な色味が強かった。
故に彼は、中性的な殿下として一躍注目を浴びている珍しい皇族である
「ロードライド殿下、本日のご朝食ですが…」
フィンリーが予定を伝えようとするが、その発言は遮られてしまった
「ごめんねフィンリー。今日はお腹減らないと思うわ。沢山出されても困っちゃうと思う…」
陛下と朝食を摂る事はそう頻繁では無い。お互い多忙な為、朝食の同席は故意に予定の1つとして組み込まなければ親子といえど会える機会も滅多に無いのである
椅子に座り、メイドが御髪を整える
その横でフィンリーは会話を続けた
「畏まりました。量の調整を致します。いつものメニューであればお召し上がりになりますか?」
「うー…ん、いつものモーニングはフィンリーと食べるから美味しいのよ…今日は…そうね…アイスコーヒーとサラダ程度で留めておいて頂戴」
ロードライド殿下は、あまり陛下とゆっくり心ゆくまで朝食の時間を設ける気がないようだった
フィンリーは多くは言わずに、畏まりました。と頭を下げた
「あの石頭と話したって時間の無駄だもの…!」
「本日の面会予定時間は1時間取っております」
「その1時間があれば、アタシの美しさを国民にプレゼンしたほうが有意義ではなくて?」
「1時間では不可能でしょう。ロードライド殿下のお美しさは1日あっても語りきれません」
「やーーーだもう!嬉しい!好き!抱きしめても良い??」
「殿下、メイクはいかが致しますか?ドレッサーの準備が整いました。」
顔色を変えずに朝の支度に勤しむメイド達は、内心この二人のやり取りが大好きである
「メイクは武装よ!必須必須!!!」
「かしこまりました。チェインさん、メイクを時間巻き気味でお願いいたします」
メイドのチェインは「ラメたっぷりで輝かしく彩らせていただきます」
と、コットンに化粧水を染み込ませた
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