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病は気から

作者: 遠美 見

「忘れな草」の続きです。

3月14日は皇帝ラインハルトの誕生日。




 でも、派手なことがキライなラインハルトは大きなパーティーとか、舞踏会とかはやりません。




 この日は国民の休日にしてあって、みんなが家族でのんびり過ごす日ということになっています。




 じつは、皇帝一家にも、年に一度のお楽しみがある日なのです。






 3月12日の夜、ロイエンタール家とミッターマイヤー家の電話が鳴りました。14日はまた3家族集まっての誕生日パーティーです。




 「アレク、おば様はみえてるの?」




 電話に出たフェリックスがきくと、




 「うん、昨日オーディンからついたよ」




 アレクは嬉しそうに笑った。




 アレクの伯母、つまり皇帝の姉のグリューネワルト伯爵夫人は、毎年皇帝の誕生日に合わせてフェザーンに来訪し、2ヶ月ほど滞在する。そして、5月の終わりの皇太子の誕生日を祝うとオーディーンに帰っていく。




 子供たちのお目当てはやさしい伯爵夫人自身もだが、もっと楽しみなのは彼女の作るケーキやクッキーやパイである。滞在している間、毎日のように焼いては子供たちに食べさせてくれる。




 飾り気のないチョコレートケーキやりんごのパイが多いけど、とにかくすんごくおいしいので毎年みんなが楽しみにしている。よく最後の一切れが取り合いになったりするのだが、そこにときどき大人が若干一名混ざっているのが困ったものである。




 それと、もうひとつ・・・・・・。




 「お兄さんは? 一緒に来た?」




 「もちろん!! いっぱい遊んでくれるって言ってるよ」




 「楽しみだな~~早く14日にならないかな~~」




 伯爵夫人はいつもフェザーンにくるときに一人の少年を連れてくる。この少年と会うのを子供たちだけでなく、大人たちも毎年とても楽しみにしているのだった。



 14日の昼。みんながローエングラム邸に集まりパーティが始まる。



 3家族で集まるときは、子供がたくさん参加するのでたいていランチでのパーティーをすることになっている。




 ローエングラム家はとにかく庭が広いので、子供たちに大人気だ。




 みんなでわいわい楽しくご馳走とケーキを食べたあとは、おまちかねの遊びタイム。




 子供たちは1年ぶりに会えた「お兄さん」を奪い合うようにせっついて庭へ出て行った。




 少年はまだ幼さの残る顔立ちだが、物腰が柔らかいので年齢よりもずっと大人びた印象を受ける。そう年の変わらないアレクやフェリックスにもまだ小さいテレジアやエレノアにも上手にやさしく相手をしている。




 鮮やかな赤毛と深い青の瞳がとても印象に残る。






 「やれやれ・・・やっと静かになった」




 子供たちが出て行ったあとの静けさは、まるで嵐が去ったあとのようで、騒がしいのが大の苦手のロイエンタールなどは心底ほっとする一瞬である。




 エヴァンゼリンとエルフリーデがコーヒーを入れた。庭で元気に遊びまわる子供たちを眺めながらのコーヒータイムは最高の時間だ。




 「ところで、キルヒアイスはいくつになりました? グリューネワルト伯爵夫人」




 ミッターマイヤーが尋ねた。




 「今年で13歳になります」




 アンネローゼはにっこり笑って答えた。




 「初めてフェザーンに来たのが確か3歳のときだったから・・・あれから10年か!!われわれも年をとるわけだ・・・・・・」




 「そうだな。しかしあのときほど驚いたことはない」




 ロイエンタールがため息をつく。大人たちの話題は自然に10年前の話になった。



 10年前。



 最後の遠征から帰ったあと、ラインハルトの病状は悪化するばかりだった。




 医師団は懸命に治療をしたが、気休め程度にしかならなかった。所詮根治法がない病なのだ。




 そんなある日、オーディンから2人の少年がフェザーンを訪れた。年長の少年はコンラート・フォン・モーデル。彼はまだ小さい連れの少年の手をひいてアンネローゼの元へ急いだ。




 




 「・・・なぁ、キルヒアイス。そろそろお前を姉上にお返ししようと思う」




 ラインハルトは掌の中のペンダントに話しかけた。




 「もう俺には形見はいらないんだ。もうすぐ、ヴァルハラでお前に逢えるから・・・」




 少し眠ろうと目を閉じようとしたとき、アンネローゼが部屋に入ってきた。3,4歳くらいの子供をつれて・・・。




 「姉上・・・? その子は?」




 「私の子です」




 「は?」




 「3年前、私が秘密裏に産んだ子です。ごめんなさいね・・・あなたにまで黙っていて」




 「・・・・・・・・・・」




 ラインハルトは混乱しながらも、姉の傍らにいる子供の顔をじっくりと見てみた。




 クセのある鮮やかな赤い毛に、くりくり元気のいい青い瞳・・・。




 どっからどう見てもキルヒアイスの子だろ、これは。いつから関係があったんだぁああ!! 畜生あいつめ、ヴァルハラで絶対殴ってやる!! 首をあらって待ってろ~~。




 一瞬のうちにここまで考えたラインハルトの顔を見て、その子は急に笑い出した。




 「相変わらずすぐに考えていることがお顔に出る方ですね、ラインハルト様。今、わたくしをぶん殴ろうとか考えていらっしゃるでしょう?」 



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 思考すること1分。ラインハルトが口を開いた。

 


 「幼年学校の帝国史の教官のあだ名は・・・?」

 「寝ボケミミズ」

 間髪いれず、少年が答える。あまりのバカらしさに周りがへたり込む中、ラインハルトと少年は「逢いたかった~~」と抱き合っていたのだった。


 

 「しかしまた、どういうわけで姉上の子供になってしまったんだ?」

 「それが・・・わたくしにもよくわからないんですよね。ガイエスブルグで殺されたあと、魂だけオーディンに飛ばされて気がついたら家の前に立っていて・・・」 



 キルヒアイスは不可思議な体験を昨日の出来事でも語るように話す。

 


 「どうせ死んでるんだし、もう我慢しなくていっか~と思ってアンネローゼ様と・・・」

 「・・・・・・みなまで言うな」

 頭痛がしてきた・・・こいつがこんな手の早い男だったなんて。

 ラインハルトも決して他人のことは言えない。結局似た者どうしなのである。

 


 「で、次に気がついたらアンネローゼ様に抱っこされてて」

 「時期から考えると、お前と姉上の間にできた子供にお前の魂が入ってしまったということみたいだな」

 


 「わたくしはこうしてラインハルト様にまたお逢いできたのですから、理屈はどうでも良いです。そのうえ后妃様や皇子様まで見ることができるなんて嬉しかったですよ」

 


 「そっか・・・でもまたすぐお別れだ。俺は病気でもうすぐ死ぬんだよ」

 「ラインハルト様らしくもない・・・随分と弱気でいらっしゃる」

 「いいんだ、最後にお前に逢えたから・・・」

 



 しかし、この日を境にラインハルトの病状は急激に良くなっていった。医師たちはみんな首をひねり、「病は気から」ということわざを思い出していたという。




    ENDE











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