5話:回復魔法を教わる2
数週間が経ち、俺は少しずつ成果を感じ始めた。
以前は苦戦していた傷の治療が、今ではスムーズに行えるようになっていた。孤児たちが「アルドお兄ちゃん、ありがとう!」と笑顔で感謝してくれるたびに、自分の成長を実感する。
マリアも俺の努力を評価してくれるようになった。
「アルド様、驚きました。ここまで真剣に取り組んでくださるとは思いませんでした。領主様のご家族がこんなにも回復魔法を大切にしてくださるなんて」
「いや、俺が勝手にやってるだけさ。みんなまだ、回復魔法のことは冷遇しているよ」
悲しそうな表情をするマリアに、俺は「俺が変えてみせるよ」と励ましの言葉を送った。
俺は新たな目標を胸に刻んだ。
回復魔法は凄いということを世界に知らしめる、と。
マリアからの指導を受けながら、俺はさらに修練を重ねていく。
そして、この道がいずれ家族や周囲を見返す武器となる日を夢見て、俺は今日も魔力を巡らせ続ける。
教会での修練を続ける中、俺の回復魔法の技術は確実に向上していた。だが、それと同時に兄との試合を思い出す。
あの時は思うように戦えなかった。
教会での訓練では落ち着いた環境で魔法を使うことができたが、戦いの中で同じように魔力を制御できるかは未知数だった。
そんな折、俺が訪れていた教会に一人の冒険者がやってきた。彼は足を引きずりながら入ってきて、マリアに助けを求めた。
「どうされましたか?」
「森で魔物に襲われて……足を怪我してしまった。ポーションも切れて、このままだと戻るのに時間がかかる。回復魔法をお願いしたい」
回復魔法の需要はその程度でしかない。それでもこのように求めて来るのはかなり珍しい。
マリアが治療の準備をする中、俺はふと思いついて声をかけた。
「もしよければ、俺にやらせてくれないか?」
冒険者は驚いた表情を見せたが、マリアが頷いてくれたおかげで許可を得ることができた。俺は慎重に魔力を巡らせながら、冒険者の傷を癒す術式を発動した。
傷口が徐々に閉じていくのを目の当たりにし、冒険者が驚きと感謝の表情を浮かべる。
「ありがとう、助かったよ。回復魔法が使えるなんて珍しいな。それも、こんなに早く治せるなんて……今まで馬鹿にしていたが認識を改める必要があるかもな」
冒険者はお礼とお布施としてお金を置いて帰って行った。
俺は冒険者の言葉に、少しだけ自信を得た。だが同時に、冒険者の話を聞いて改めて思った。
「戦いの中でポーションを使う瞬間は、大きな隙になる。やっぱり俺の考えは間違っていない」
しかし俺の魔法は、まだまだ実戦で通用するレベルではない。
より効率的で迅速な術式の研究が必要だと痛感した瞬間だった。
冒険者から得た助言をもとに、俺は教会での修練をさらに発展させることにした。
魔力制御の訓練は、これまでは静かに瞑想しながら行っていたが、それだけでは実戦に対応できないと感じた。そこで、走ったり素振りをしたりと、身体を動かしながら魔力を制御する新たな方法を取り入れることにした。これにより、激しい動きの中でも魔力を正確に操る技術を磨くことができるようになる。
一方、回復魔法の実践訓練では、筋力トレーニングと並行して魔法を使い続ける形に改めた。筋肉を鍛える負荷で微細な損傷を負うたびに、回復魔法を発動してすぐに治す。
この訓練を繰り返す中で、筋肉が壊れた瞬間から再生を促すことで、筋力の強化に繋がった。
肉体を極限まで追い込んでから再生させれば強靱な肉体が手に入るだろう。しかし、瞬時に治癒できる技術を完全に習得してからの方が効果的だ。それまでは、基礎を磨き、確実な制御力を身に付けることに集中するべきだと考えた。
最後に、魔力増幅のための限界突破訓練だ。これはずっと同じ方法を使っており、地道な努力が実を結び、少しずつ魔力量が増えている実感があった。
実戦を見据えた鍛錬を通じて、魔法と肉体、両方の可能性を広げるための道が少しずつ見えてきた。
そんなこんなで俺が協会に来てから一年が経った。
回復魔法に関して、マリアから学べるものはすべて吸収した。しかし、まだ治療速度は当初より断然早くなったが、俺の目標である瞬時に治すと言う点ではほど遠い。
「マリア、今日までありがとう」
「寂しくなりますね。いつでも顔を出しに来てください」
「当然だよ。みんなにも会いたいしね。マリアも、何かあれば城までくれば力になるよ」
「その時はお願いします」
俺はみんなに見送られながら孤児院を後にした。
ここからは独自に改良していくしかないだろう。
屋敷に戻って鍛錬を続けて数日、俺はヴァルターに呼ばれていた。
いつもの書斎へ向かうと、兄シグルドが待っており、俺を見て笑顔を見せた。
「アルド。まだ回復魔法なんて言うものを練習しているのか?」
「はい。以前に申した通り、まだ試行錯誤の段階です。でも、着実に以前より成長しています」
「ほぉ」
ヴァルターの目が細められる。
前回は回復魔法を使うことすらできずに負けたのだ。しかし、今回は違う。
以前の俺ではないのだ。
「アルド。また負けるよ?」
「シグルド兄さん、もう以前の俺ではありません。試してみますか? 俺は試して見たくてウズウズしているんですよ」
「ふふっ、奇遇だね。僕も一年でどの程度成長したか気になっていたんだ」
俺とシグルドは笑みを浮かべる。
「殺すつもりでいきますね」
「当然だ。可愛い弟の成長が早くみたいな。父上、いいですよね? というか、父上だって気になっているでしょう? だから僕も呼んだのに」
「……いいだろう」
ヴァルターは頷いた。
そして、俺たちは再び訓練場で対峙した。