3話:回復魔法の可能性
こうして俺は、誰にも知られないように回復魔法の修練を始めることにした。
まずは回復魔法の基礎を学ぶため、城内の書庫にこっそり忍び込んだ。
そこには誰も読もうとしない古びた魔法書が山のように積まれていた。職業が僧侶や治癒師向けの指南書、魔力の扱い方に関する理論書など、一見地味で、辺境伯家の戦士たちには不要と思われるものばかりだ。
今の俺からすれば宝の山でしかない。
一%でも強くなれる可能性があるなら、少しでも学ぶべきである。
貪欲に強さを求めるのだ。
魔法書を読み漁りながら、俺は自分の身体を使って実験を繰り返した。
簡単な傷を癒す小さな術式から始め、少しずつ魔法の効果範囲や効率を調整していく。
同時に、魔力を増やす訓練も並行して行った。
魔力の枯渇が成長を促すという話を前世の知識で覚えていた俺は、敢えて魔法を使いすぎて魔力を使い切る状況を作り出した。
当然、魔力の使い過ぎによる激しい頭痛や倦怠感に悩まされることもあったが、休息を取るたびに身体が魔力を溜め込む感覚がわずかに増えていくのを感じた。
だが、そんな俺の行動はやがて周囲に気づかれるようになる。
訓練の合間に何やら魔法の真似事をしている俺を見て、兄姉や家臣たちは笑い、時には軽蔑の視線を向けてきた。
適性がない者でも、魔法を使うことが出来る。しかし職業スキルや補正で威力や効果は変動する。ゆえに、職業と相性がいい魔法以外はみんな覚えたりすることがない。
「アルドが回復魔法だって? 狂戦士のくせに何の冗談だ」
「そんなものを学んでどうするつもりだ? 剣を振るえ、剣を!」
四男のアレンが俺を小馬鹿にして笑い、次男のロドリックがもっと鍛錬しろと言ってくる。アレンとは五つ歳が離れており、次男のロドリックとは十一歳も離れている。
シグルドとは十二歳も離れており、一番歳が離れていないのは、次女のフィリアで二歳差だ。
他にも十一歳離れている長女のエルセリアと、八歳離れている三男のアーケインがいる。
アーケイン以外は、みんな戦うことが好きだ。
まあ、俺も戦うのが好きだけど。
そんな一族の中で、回復魔法を学ぶ俺は完全に「変わり者」として扱われるようになった。
だが、それがどうした? 俺には俺の目指す理想がある。
彼らが笑おうと馬鹿にしようと、俺はただ前を向いて進むだけである。
笑われ、軽蔑されても、俺は止まらない。
周囲が何を言おうと、俺には確信がある。狂戦士としての力を活かし、回復魔法を極めれば、俺は誰にも真似できない戦い方を手に入れることができるのだ。
修練を続けているある日、俺は父ヴァルターに呼び出され、書斎へと訪れていた。
「アルド。お前が最近、回復魔法を学んでいることは知っている」
ヴァルターの言葉は終わっていないので俺は無言だ。
ヴァルターの職業は【武帝】。あらゆる武器、武具を使いこなす戦闘職であり、職業スキルも豊富に保有している。
国内のみならず、大陸にその武勇は轟いており、最強の名を欲しいままにしている。
俺の実力はまだ、彼の足元にすら届いていないだろう。
その身から放たれる覇気はまさに怪物。
だが、俺はそんな父をいずれ超える。
「回復魔法を学んで何の意味がある? 周囲から奇異な目で見られるだけだ」
「……理解しています。ですが、俺は回復魔法に希望を、可能性を見出したのです」
「それに向かって修練していると?」
「はい」
ヴァルターが俺の目をジッと見据える。
しばらくして、父から大きな溜息を吐いて、呆れたように俺を見ている。
「お前は昔からそうだ。聡いのに変わったことを考える」
「すみません」
「馬鹿にしているわけではない。もう一度問う、回復魔法などという、使い物にならない魔法は、お前にとっては強くなるために必要なのだな?」
「はい。今はまだ言えませんが、完成すれば間違いなく最強になれます」
それだけ確信できる。
「わかった。ならば今、その成果を見せてみろ。シグルドに言って相手をさせよう」
「……わかりました」
まだ訓練で仕える代物にはなっていないが、見せろと言うのなら仕方がない。
当主の命令には逆らえない。
数時間後、父や兄姉たちが訓練場に集まった。
俺は今、回復魔法がどれだけ役立つかを証明しなければならない。
「今日は俺の魔法が役立つ場面を見せるしかない……」
準備をして現れた俺に、兄姉たちが面白そうに見ている。
「シグルド兄さん、今日はお願いします」
「可愛い弟の頼みだ。それに、回復魔法を見せてくれるんだろう? どれだけ戦いに役に立つのか見て見たい気持ちもある」
シグルドはそう言って剣を構え、俺と向き合う。
目的はあくまで、戦いの中で回復魔法を使うことをみんなに見せ、興味を持ってもらうことだ。
俺は気を引き締めた。シグルドは、戦う時になると性格が変わるのだ。
そして試合が始まった。
シグルドの攻撃は容赦がなく、俺はすぐに腕に浅い傷を負った。だが、それこそが俺の狙いだった。即座に回復魔法を発動し、傷を治そうとする。
だが――
「くっ!」
焦りと魔力の制御ミスが重なり、術式がうまく展開されなかった。
傷は浅いまま癒えず、魔法の光だけが中途半端に漏れ出す。
「どうした、アルド! それが回復魔法か?」
シグルドが嘲笑する。
兄の剣が再び俺に迫るが、魔法に集中するあまり防御がおろそかになり、肩を叩かれる。
その後も何度か試みたが、実戦のプレッシャーの中で魔法をうまく使いこなすことはできなかった。
結局、訓練は俺が追い込まれる形で終了し、みんなからの興味は失せたようだった。
ヴァルターも、興味を失ったのか一言も発することなく部屋へと戻って行った。
「結局、戦いには向いてないってことだな」
「お前が剣を捨てるなら、治癒師にでもなればいい。しかし治癒師の待遇はお前も知っているはずだ」
アレンとロドリックは、そう言葉を投げかけてくる。俺は無言で剣をしまい、訓練場を後にしようとして、シグルドが声をかけてくる。
「まだ続けるつもりかい?」
「……はい。今回は俺の未熟さが出した結果に過ぎませんので」
俺はそう告げて訓練場を去った。
訓練場の隅で、姉のフィリアが俺を見ていた。
彼女だけは笑うでも見下すでもなく、ただ真剣な目で俺の姿を追っていた。
「アルくん、本当にやりたいんだね。その回復魔法って」
フィリアの声に、俺は小さく頷いた。
「……失敗したけど、俺はこれを極めたいんだ」
「なら、頑張ればいいよ。失敗なんて、最初はみんなするんだから」
フィリアの言葉に、俺は少しだけ救われた気がした。
その夜、俺は再び書庫に籠り、自分の魔法のどこが間違っていたのかを見直した。
術式の練り直し、魔力の流れの再確認、そして何より、実戦でも冷静に魔法を扱うための精神集中法――考えうる限りの改善点を洗い出していく。
「次は絶対に成功させる」
誰にも聞こえないように呟き、俺は新たな訓練計画を頭に描いていく。
孤独な挑戦はまだ続くだろう。
失敗は俺を止めるものではなく、成長のための礎となる。
失敗による改善。それを何度も繰り返せばいいだけだ。
そうすることで、理想として思い描いた、最強の狂戦士に届く。
失敗しても立ち止まらない限り、成長し続ける。
しかしだ。
「独学では無理があるか……」
どこかに回復魔法を教えてくれる人はいないだろうか?
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