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13話:学園長セリーヌ・ルミナリエ

 学園の鐘が鳴り終わった頃、特別講堂への集合が指示された。どうやら「王国戦技大会」の代表選抜についての正式な説明が行われるらしい。

 生徒たちは次々と講堂へ集まった。


 講堂の前方に立っていたのは、この学園の学園長――セリーヌ・ルミナリエ。

 この学園の卒業生であり、数多くの戦争で数多な戦功を挙げ、唯一の【召喚士】。

 契約した魔物などを使役し、召喚して戦う職業だ。

 噂では、ドラゴンすら従えているとされている。戦ってみたいものだ。


 彼女は金髪をきっちりと結い上げた端正な女性で、その鋭い眼差しは生徒たちを一瞬で黙らせる迫力を持っていた。


「静粛に」


 その一言で、ざわついていた講堂がぴたりと静まり返る。学園長は俺たちを見渡し、厳かな声で口を開いた。


「『王国戦技大会』は、各学園の誇りを背負い、最強を競う伝統ある戦いです。今年も王国内の十の学園から選ばれた代表たちが、一堂に会することになります」


 講堂の空気が緊張感を帯びていく。誰もが学園長の次の言葉を待っていた。


「王立アルティア学園からは各学年ごとに二名、合計六名の代表を選出する。そのための代表選抜戦を、来週から行う」


 生徒たちの間に再びざわめきが広がった。

 俺は腕を組みながら聞いていたがリュークが隣で、肘で俺の腕を小突いてくる。


「ほら、やっぱり出番だろ、アルド」

「当たり前だろ。お前も出るんだろうな?」

「あれだけ鍛錬したんだ。当然だろ」


 リュークの返答に笑いながら、再び学園長に注意を戻す。


「選抜戦はトーナメント形式で行い、公平を期すため、学年ごとに別々に戦う。全ての試合は公開形式で行い、観客の前で己の力を証明してもらう」


 ここで学園長は一瞬間を置き、さらに声を張った。


「なお、優勝者だけが選ばれるわけではない。実力、戦術、そして戦いに対する心構え──全てを総合的に評価して代表を決定する。その覚悟がない者は、立候補を控えなさい」


 学園長の言葉に講堂は再び静まり返る。彼女の厳しい視線が、生半可な覚悟の者を拒絶するかのように突き刺さる。


「質問は?」


 一人の生徒が手を挙げて立ち上がった。イリスだ。


「代表選抜戦での武器や魔法の制限はありますか?」

「良い質問だ。基本的には自由だ。ただし、相手を殺傷する恐れのある攻撃は禁止される。それ以外は自由です」


 イリスは真剣に頷き、座った。その姿はどこか以前の彼女よりも落ち着きと自信が感じられる。


 説明が終わり、生徒たちがそれぞれ帰路につく中、俺はまだ講堂に残っていた。

戦技大会、そして代表選抜戦──どちらも俺にとっては楽しめそうだ。


「アルド・クレイヴンハート」


 背後から声をかけてきたのは学園長だった。こうして声をかけられるのは初めてだ。

 俺は振り返り、少しだけ笑みを浮かべる。


「初めまして学園長」

「君のことはヴァルター軍務卿から聞き及んでいます」

「そうですか」

「前回、前々回の王国戦技大会は、君の姉フィリアさんが優勝しています」

「フィリア姉さんも大概ですからね。でも、俺はフィリア姉さんより強いと自負していますよ」

「ふっ、その強気な姿勢は嫌いじゃない。今度、ゆっくりと話しをしよう」

「俺は話しよりも、学園長と本気で戦いたいところですけどね」


 そう答える俺に、学園長は面白そうに笑う。


「シグルド様といい勝負をしたと聞く」

「かもしれないですが、俺はまだ未熟者ですよ」

「私がシグルド様と戦った場合、どっちが勝つと思う?」


 シグルド兄さんは【剣王】という近接に長けている職業。対して学園長は【召喚士】というユニークな職業だが、使役した魔物を使った戦い方。

 だが、俺は学園長を観察する。魔力が豊富ということもあり、魔法使いとしても一流の実力を持っているようだ。


「案外いい勝負をしそうですね。ですが、シグルド兄さんが勝ちますね」

「ふっ、いい目を持っているようだ。そんな兄といい勝負をした君と私が戦えば、ギリギリで私が負けそうだ」


 降参するポーズをする学園長。


「いい勝負? なら、どっちが勝つか分からないってことですよね。今から試合でもします? 俺の場合、手足が千切れようと、治せるので問題ないですよ?」

「聞いてはいましたが、回復魔法ですか」

「みんなには有効性を知ってほしいですけどね。魔力が無駄とかいいますけど、近接戦が得意な者にとって、傷を治せるってのは強みですよ」

「君みたいに、みんな頭は柔らかくはないんですよ。しかし、欠損を治すというのは信じられないですね……」

「なら、その時が来るまでのお楽しみってことで」


 俺としては今すぐにでも戦いたいが、学園長は学生と戦いたくないだろう。 


「ふふ、君らしい答えですね。でも、この選抜戦は今までの模擬戦とは違う。どんな相手が出てくるか、誰も分からないです」

「それがいいんです。全力で戦えるなら、それで十分ですから」


 学園長は少しだけ目を細め、満足そうに頷いた。


「君が全力を出せる相手がいることを願います。期待していますよ。君には学園の名を背負う覚悟があると思っています」

「覚悟なんてないですよ」

「では?」

「胸が熱くなるような、心の底から楽しめる戦いを求めているだけです」

「なんとも、クレイヴンハート家らしい回答ですね。では、健闘を祈ります」


 そう言い残し、学園長は講堂を後にした。俺は一人残り、次に待つ戦いへの想いを胸に刻む。

 さあ、選抜戦だ。どれだけ強いやつが現れるのか、楽しみで仕方がない。

 俺は来る試合に向けて、笑みを深めるのだった。


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