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12話:王国戦技大会

 数日が経った。あの日の模擬戦以来、イリスのことを思い返すこともあったが、俺はいつも通り、王立アルティア学園での生活に戻っていた。

 退屈な授業を半分寝ながら過ごし、実戦訓練の時間になれば本気の模擬戦で汗を流す。それが俺の日常だ。


「アルド、手加減してくれって!」


 目の前で剣を構えながら叫ぶクラスメイトのリュークだ。よく模擬戦をするが、正直、俺の相手になるほどの実力はないが、それでも【魔剣士】という特殊な職業のせいか、本人のやる気なのか、実力はメキメキと付けていた。


「手加減してるつもりなんだけどな?」


 剣を軽く振りつつ、相手の突きを受け流す。リュークの剣筋は悪くないが、まだまだ荒い。俺は余裕の態度を見せながら、あえて隙を作ってやる。


「ほら、そこだ。もっと強く来い」


 挑発すると、リュークは必死になって飛び込んでくる。だが、その動きは読みやすい。俺は軽く体を引きながら、彼の剣をかわし、背後に回り込む。


「終わりだな」


 剣をリュークの喉元に突きつけると、彼は悔しそうに剣を下ろした。


「くそっ、やっぱりお前には勝てないか……」

「悪くなかった。次はもっと工夫してみるといい。他には――」


 俺はリュークに足りていないところを指摘していく。

 言い終わると、リュークは苦笑いしながら肩を竦めた。しかしそれも一瞬で、目には力が入っていた。


「もう少し教えてくれ」

「はっ、いいねぇ」


 やる気を見せるリュークに、思わず笑みを浮かべた。

 昼休み、俺は疲れ果てているリュークと一緒に食堂で飯を食っていた。

 食べていると、リュークが思い出したように俺に言ってくる。


「アルド、知ってるか? 『王国戦技大会』の話」

「ああ、なんか聞いたな。各学園の代表が集まって優勝を争うんだろ?」

「そうそう。うちの学園でも代表選抜が始まるらしいぞ。お前、どうせ出るんだろ?」


 リュークはニヤリとしながら俺を見た。

 こいつ、俺のことを分かっている。


「そりゃ出るさ。面白そうだしな。それに、強いやつと戦えそうだ」

「相変わらずだな」

「そりゃあ、俺はクレイヴンハート家の者だ」

「そうだったな。てか、お前が出るなら、他のやつらは勝ち目ないんじゃないか?」

「そんなことはねぇよ。強いやつはどこにでもいる。だからこそ面白いんだろ」


 俺はそう答えながら飯をかき込む。戦いの話をしていると、自然と体が熱くなってくるのが分かる。リュークは呆れたように笑った。


「ほんと、お前は戦闘狂だよな。俺は観客席でのんびり見てるわ」

「お前も挑戦してみろよ。案外楽しいかもしれないぞ? それに、毎日俺と一緒に鍛錬しているんだから、良いところまで行くんじゃないのか?」

「勘弁してくれ。俺は戦闘狂じゃない。でも、出場するのは悪くなさそうだ」


 軽口を叩き合いながらも、リュークは大会への期待を感じさせる表情をしていた。


 午後の授業が終わる頃、ついに学園から「王国戦技大会」の詳細が発表された。

王国内の学園代表が集まるこの大会は、剣技の名手たちが腕を競う場だ。各学園からは六名──各学年二名ずつが選ばれるらしい。


 生徒たちの間では早速ざわめきが広がる。


「アルドが選ばれるのは確定だろ!」

「だよな。あいつが出れば、うちの学園が優勝するんじゃないか?」


 教室でそんな声が聞こえてくるが、俺は気にしないフリをする。期待されるのは悪い気はしないが、それよりも俺自身がどれだけ楽しめるかの方が大事だ。


「アルドは期待されてるな」

「リュークも頑張れよ? お前の本気を見せてくれよ」

「お前ってやつは……まあいいか。なら鍛錬付き合ってくれよ?」

「当然だろ? 強くなったお前と戦いたいからな」


 リュークは「相変わらずか」と呆れるように溜息を吐いていた。

 イリスにキッと睨まれるが、どうせ「貴女には負けない」とか言って来るに違いない。


 放課後、俺が鍛錬していると、イリスが現れた。

 あの日の模擬試合以来、初めて声をかけられたが、彼女の表情は以前よりも鋭さを増している。

 未だに勝利に囚われているようだ。


「アルド、次は負けないから」


 いきなりの宣戦布告に、俺は笑って応じる。


「また勝負するのか? いいねぇ。楽しみにしてるよ」

「必ず『王国戦技大会』に出るわ。代表選抜の試合であなたと戦うことになる。そこで本気の勝負をしましょう」


 その目には、以前の迷いがほとんど見られない。彼女の決意が伝わってくる。


「面白いじゃねぇか。お前の成長がどれだけのもんか、見せてもらうぜ」

「次は負けないから!」


 イリスはそう言い放ち、その場を去っていった。その背中には、あの日の涙を乗り越えた強さが少しだけ見えた気がする。

 彼女は成長して、胸を熱くさせるような試合をしてくれるに違いない。


 鍛錬が終わる頃には空は茜色に染まっており、俺は見上げながら呟く。


「王国中の強い学生が集まるか……燃えてきたな」


 次の戦いが待ち遠しい。俺の剣が、戦い方がどこまで通用するのか、確かめるいい機会だろう。

 狂戦士として、俺を本気にさせてくれる相手がいることを願うしかない。

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