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8話:売られた喧嘩は買う

 俺たちが第三訓練場に向かうと、すでにほとんどのクラスメイトが集まっていた。

 始業数分前になり全員が集まり、マリベル先生がやってきた。


「全員集まっているようですね。事前にお話しした通り、午後はみなさんの実力を見させていただきます。模擬戦形式で行います」


 マリベル先生が説明を続ける。


「さて、模擬戦についてですが、今回は実力を確認するのが目的です。個人戦で行いますので、自分の得意な戦い方を存分に見せてください。もちろん、相手を傷つけすぎないようにするのがルールです。魔法も剣も使用可能ですが、学園が設定した結界内で行います。ただ、相手を必要以上に痛めつけないように」


 この時点で、周囲の生徒たちがざわざわし始める。どうやら、多くの生徒にとっては初めての模擬戦らしい。


「勝敗は明確な戦闘不能、もしくは降参の意思表示で決めます。制限時間は十分ですが、時間切れになった場合はこちらの判断で決めます。今回は実力を見るだけですので、成績などには影響しません。ですが、手を抜くようなことはしないように」


 マリベル先生が厳しい視線を周囲に送りながら続ける。


「最後に、いかなる場合でも戦闘後は礼儀を忘れないように。対戦相手はあなたたちの仲間です。力を競い合い、学び合うのが目的だということを肝に銘じておくことです」


 マリベル先生の言葉にみんなが返事をする。そして誰が最初に行うのか問うと、数人が手を挙げた。

 そこから試合が行われる。

 俺はリュークとリリアと一緒に観戦をしつつ、クラスメイト達の実力を分析していくのだが、ため息を吐いた。


 弱い。弱すぎるだろ……


 そう。クラスメイトたちはあまりにも弱かった。まだ十五歳ということもあり、弱いのは仕方がない。これからの成長に期待でもしておくか。

 リュークも試合を行うが、軍人家系ということもあるのか、他の人より動けていた。

 リリアはまあ、治癒師ということもありすぐに負けた。俺が回復魔法を教えてもいいかもしれない。

 そんなことを考えながら試合を見ていたら、声がかけられた。


「おい、そこのお前」


 その人物は、自己紹介の時に回復魔法を馬鹿にしていた、ディックとかいうヤツだ。

 だが俺は応えない。なぜなら、誰を呼んでいるのか分からないから。

 ちゃんと名前を呼べと言いたい。それでも貴族の子弟か。


「おい、聞いているのか! こちらの方は侯爵家の次期当主、ディック様だぞ!」


 取り巻きだろう者が声を荒げる。リュークとリリスは俺を見て、小声で「どうするんだ?」と訊ねてくる。正直、面倒くさい。


「侯爵ねぇ……」


 すると俺の呟きが聞こえたのか、ディックが苛立った表情を浮かべていた。


「たかが辺境伯の、それも嫡男でもない者が俺様にそのような口を聞くのか?」

「別にいいだろ? 学園では誰もが平等だ。爵位も関係ないという話を聞いていなかったのか? それとも、国王陛下が決めたことに逆らうとでも?」

「そ、そうは言っていない!」


 さすがのディックも、国王の名前を出されては反論ができないようだ。まあ、それでも「関係ない」と言ってきたらヤバいやつだ。

 未来が心配になる。


「まあ、それならいいさ。ただ、俺に用があるならちゃんと名前を呼ぶことだ。貴族の礼儀としてな」


 俺は軽く肩を竦めながらディックに向かってそう言った。その言葉に周囲の空気がピリつく。周囲の生徒たちは、緊迫感に呑まれたように俺たちを見つめている。

 ディックの顔は明らかに赤くなり、怒りを押し殺すように拳を握り締めた。


「ふん……いいだろう。アルド・クレイヴンハート。次の試合、お前の実力を見せてもらおうじゃないか」

「クレイヴンハート家と知って、それでも俺を指名するのか?」


 クレイヴンハート家と聞いただけで、逃げる者だっている。

 しかし、ディックは鼻で笑った。


「クレイヴンハート? 戦うことしか取り柄がない、辺境の田舎者だろう? それに貴様は回復魔法が得意だろいうじゃないか。そんなゴミみたいな魔法で何ができる」


 多分、ディックは馬鹿なのだろう。そうじゃなきゃ、クレイヴンハート家を蔑むような発言はしない。


「……今の発言は聞かなかったことにしてやってもいい。だが、俺の職業が狂戦士ということも理解しているのか?」

「狂戦士など、理性のない獣だろう? 余裕じゃないか。お前を倒して、ハーヴェル侯爵家の名を広めてやる」


 戦争でも、クレイヴンハートの者を倒して武功を挙げようとする者は多いと聞く。

 だから、ディックの言っていることは間違いではない。

 同じ国に住む者として、その考えはどうかとは思うが。


 まあ、ここまで強気なのだから、強いのだろう。


「その発言、後悔しないことだ」


 俺が静かに返すと、ディックは鼻で笑いながら腕を組む。その様子は余裕を見せつけたいのだろうが、どこか苛立ちも感じられた。

 その瞬間、周囲の生徒たちがざわざわと話し始める。


「アルドとディックが戦うのか……?」

「さっきの自己紹介でのやり取り、まさかここで続くなんてな……」

「面白いものが見れそうだな」


 リュークが苦笑しながら俺に耳打ちしてきた。


「おい、アルド。やりすぎるなよ?」

「あそこまで高圧的なんだ。きっと強いんだろうさ。それに、戦いというのは楽しむものだ」

「やっぱりお前はクレイヴンハート家の者だよ」


 リュークが呆れており、隣でリリアが「その、頑張ってください」と応援してくれたのだった。



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