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3話:王立アルティア学園入学式

 数ヵ月はすぐに経過して、王立アルティア学園入学の日となった。

 今日から実家暮らしではなく、学生寮での生活となる。王都に屋敷を持つ貴族や王族などは、学生寮ではなく家から登下校となる。


 俺の場合、王都にも屋敷はあるが学生寮でいいと言ってある。


「さて、どんな奴がいるか楽しみだ」


 楽しみを胸に、俺は入学式が行われる大講堂へと向かい、自分の席へと座る。

 程なくして入学式が始まった。まあ、前世でも同じような、長ったらしい挨拶が行われ、俺は退屈していた。

 そして新入生代表の挨拶がやってきた。


「新入生代表。イリス・ルクセリア」

「はい」


 聞き覚えのある名前に目を向けると、ステージの中央に立つ少女が目に入った。

 金色の髪が燦々と輝き、光を受けて溶けたように流れるような美しさ。宝石のような碧眼は、まるで彼女がすべてを見通しているかのように感じられた。均整のとれた顔立ちと相まって、彼女の存在そのものが一つの美として昇華されていた。


 ――【剣聖】イリス・ルクセリア。


 彼女がステージに立つと、その美しさに誰もがヒソヒソと話し出す。

 そのほとんどは、憧れからくる羨望の眼差しが多い。

 しかし、俺は違う。彼女の纏う雰囲気、気配を感じていた。


 強いな。でも、兄さんや姉さんたちほどじゃない。


 冷静に彼女を分析して、そう判断する。

 新入生代表として壇上に立つ彼女は、視線を前に向け堂々と胸を張っていた。その自信に満ちた態度が、いかに多くの期待を背負っているのかを物語っている。

 何を背負っているのかはどうでもいい。ただ俺は、【剣聖】がどれほど強いのか試してみたかった。


 イリス・ルクセリアは一瞬の躊躇もなく口を開き、清らかでよく通る声で、まるで鈴を転がすような響きで言葉を紡ぎ始めた。 


「本日、こうして王立アルティア学園に入学することができた私たち新入生は、大いなる期待と責任を背負っています。この学園は、私たちが未来を築くための力と知識を養う場所です」


 その声は会場全体に響き渡り、一切の雑音を打ち消すかのようだった。


「私、イリス・ルクセリアは、この学園で学ぶすべての者が持つ可能性を信じています。そして、それを共に磨き、高め合うことができる場所であることを心から願っています」


 真摯な語り口が、彼女の決意と覚悟を物語っていた。


「剣を極める者、魔術を探求する者、知恵を広げる者。私たちは異なる道を歩むかもしれません。しかし、ここで得る絆と成長は、未来の世界を形作る礎となることでしょう」


 彼女の碧眼が、会場にいる新入生一人一人を見つめるように動く。そして、俺と目が合い、その瞳には、どこか鋭さを含んだ決意の光が宿っている気がした。


 俺を見た、よな?


 あの一瞬、敵意すら感じた気がした。恨まれるようなことはしていないし、話したこともないのだから敵視されるのは勘弁願いたい。


「私は、この学園での時間を通じて、自らの剣を磨き、また同じ志を持つ仲間たちと切磋琢磨しながら進んでいきます。そして、この誓いをもって、私たち新入生を代表して言葉とさせていただきます」


 最後の言葉を述べると、彼女は一礼し、その場の空気を一層引き締めた。


 会場が静寂に包まれた数瞬後、どこからともなく拍手が湧き上がった。それは次第に大きくなり、やがて講堂全体を満たした。彼女の演説は、それほどまでに力強く、人々の心を掴むものだった。


 壇上を降りる彼女を見ながら、俺は思ってしまう。

 なんか面倒ごとが待っていると。


「続きまして、生徒会長フィリア・クレイヴンハートよりお言葉を」

「はーい」


 何とも呑気な返事が返ってきた。

 軽快な足取りで壇上に上がった彼女は、一瞬でその場の空気を変えた。新入生たちの緊張感をものともせず、自由奔放で飾らない雰囲気を纏った俺の姉、フィリアが笑顔を浮かべ、会場を見渡し、俺と目が合うとニコッと嬉しそうにする。


 彼女は、長い白髪を後ろでひとまとめにし、普段から剣を振るう者とは思えない、華奢な身体つきをしている。しかし、その立ち姿は堂々としており、どこか余裕すら感じさせる。


 フィリア姉さん、変なこと言わなきゃいいけど。


「新入生のみんな、ようこそ王立アルティア学園へ!」


 開口一番、明るく張りのある声が響き渡った。


「私は生徒会長のフィリア・クレイヴンハート。まあ、学園にいる間はただのフィリアでいいから、気軽に声をかけてね!」


 クレイヴンハートと聞いて戦々恐々としていた者たちだが、そのカジュアルな言葉に、会場からクスクスと笑いが漏れる。それを気にする様子もなく、フィリアは話を続ける。


「ここは、君たちが力を伸ばし、可能性を試すための場所。けど、ただ厳しいだけの毎日なんてつまらないでしょ? だから、楽しくも厳しく、充実した学園生活を送ることを心がけてほしいな!」


 フィリアはどこか子どもっぽい仕草で肩を竦め、ウインクをしてみせる。だが、その裏に隠された実力を知る者にとっては、この無防備な態度さえ恐ろしいものだ。

 こんな性格をしているが、彼女もれっきとしたクレイヴンハートの一族。その身に流れる血は、常に強者との戦いを望んでいるのだ。


 フィリアは講堂全体を見渡し、視線を一瞬だけ楽しげに泳がせた。その表情は明るく笑っているのに、その裏に狂気じみた何かが見え隠れしている。


「さて、みんながここでどれだけ頑張れるか、私も楽しみにしてるよ。でもさ――ただ頑張るだけじゃ、つまらないよね?」


 柔らかく微笑んでいるはずなのに、その声には奇妙な鋭さが混ざっている。まるで甘い毒を含んだ蜜のように、聞く者たちの心をざわつかせる。


「ねえ、みんなはどれくらい強いのかな? 私、こう見えて戦うのが大好きでね。強い相手とぶつかると、胸がドキドキして、血が沸騰するみたいに熱くなるの。わかる人、いる?」


 フィリアはまるで誰かに語りかけるように、ゆっくりと顔を左右に振る。その瞳には、隠しきれない興奮の光が宿っていた。


「もし、この学園で『最強』って呼ばれたいのなら――その覚悟、ちゃんと見せてね? 中途半端な気持ちで挑んでくるなら、悪いけどすぐに叩き潰しちゃうからさ」


 一瞬、会場の空気が凍りついたように静まり返る。

 その間を楽しむように、彼女は手を顎に当て、考える素振りを見せる。


「でもまあ、君たちがどうやって私を楽しませてくれるか、すっごく期待してるよ? 退屈させたら罰ゲームだからね! あ、心配しないで。命までは取らないから」


 最後に冗談めかした言葉を付け加えながら、フィリアは満足げに笑みを浮かべる。だが、その場の誰もが、その笑顔の奥に潜む“本物”の危険を感じ取っていた。


 そして、誰もが理解したことだろう。

 彼女もまた、クレイヴンハート家の者なんだと。


「さあ、新入生のみんな。遠慮しないで、全力でぶつかっておいで! 私、君たちのこと、ちゃんと全力で受け止めてあげるから!」


 その言葉には一切の虚勢もなければ、遠慮もない。ただ純粋な本音と、底知れぬ力への自信が滲み出ている。

 壇上から降りる彼女を見ながら、俺はため息をついた。


「はぁ……相変わらずだな、フィリア姉さんは……まあ、俺も人のことは言えないけど」


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