11話:研究
ナイミラとの修行が進む中で、ある日、彼女は突然、別の方向に話を持ちかけてきた。
「アルド、君は魔法の扱いにかなり熟練してきた。しかし、君が求める力には、現代魔法の枠を超える技術が必要だ。そこで、古代の技術に触れてみるべきだと考えた」
俺は驚いた。古代の技術という言葉は、本で読んだことがあっても、それがどんなものかは全く想像もつかなかった。それは、それらが失われていたからだ。
ナイミラは、何か新しい魔法を示唆しているようだった。
「古代の技術、特に『刻印魔法』には、現代の魔法では実現できないような力を引き出す方法――ルーン文字がある。それを君の魔法に組み合わせれば、より強力な魔法を生み出せるだろう」
ナイミラはそう言って、指先に魔力を集めて動かした。そこに現れたのは、文字のような模様だった。
「刻印魔法に使われるルーン文字だ。ルーン文字にはそれぞれ特定の力が込められており、それを組み合わせることで魔法の効果を強化したり、複雑な魔法を呼び出したりすることができる」
その説明に、俺はしばらく言葉を失った。ルーン文字というものには、どこか神秘的な力が宿っているような気がした。しかし、ナイミラは一歩進んで、その知識を実践に移すと言った。
「回復魔法とこの刻印魔法を組み合わせてみよう。身体の修復速度を飛躍的に上げることができるはずだ」
その提案に、俺は驚きながらも興味を持った。成功すれば、戦闘での生存率が格段に上がる。しかし、その方法は決して簡単ではないだろうと思った。
ナイミラは準備を整え、俺に言った。
「この実験は君の身体を使って行う必要がある。君自身の魔力と、刻印魔法の力を合わせて、新しい魔法を形成するんだ」
俺は少し躊躇したが、すぐに決心を固めて頷いた。これが俺にとっての進化の一歩だと感じたからだ。
ナイミラは、ルーン文字が刻まれた魔法陣を地面に描き、それを発動させた。その瞬間、空気が震えるような感覚が走り、俺の体内に魔力が流れ込むのを感じた。痛みと共に、何かが急速に変化していく。
「この力を受け入れ、回復魔法を発動させろ」
ナイミラの指示に従い、俺は回復魔法を使おうとした。しかし、刻印魔法の力が予想以上に強力で、魔力が暴走しかけた。次の瞬間、強烈な痛みが走り、体が重く感じ、意識が遠くなりかけた。
「アルド!」
ナイミラの叫び声が、耳の奥で響いた。だが、その瞬間、俺は何とか意識を取り戻し、暴走した魔力を何とか抑え込んだ。汗だくになりながら、全身が震える中で、自分の魔力の制御を試みた。
「くっ……」
その試練を乗り越えた時、俺はようやく自分の魔力を再び調整できたが、身体に痛みが走り、傷だらけになっていた。ナイミラはすぐに駆け寄り、手をかざして回復魔法を使い、俺の傷は瞬く間に癒されていった。
「無事か?」
「大丈夫だ……でも、すごい力だ。まるで別世界にいるみたいだった……」
俺は息を整えながら答えた。確かに、今の回復魔法は明らかに以前とは異なっていた。
だが、ナイミラは不満そうな表情を浮かべた。
「これでまだ不十分だ。君の身体には限界がある。次はもっと強力な魔法を試さなくてはならない」
その言葉に、俺は心の中で覚悟を決めた。確かに、最強の狂戦士になるためには、どんな痛みも乗り越えなければならない。そして、この研究が自分を次のステージへと導いてくれることだろう。
「次は、もっと慎重に実験を進めよう。キミの意志がこの魔法の真の力を引き出すためのカギだ」
ナイミラはそう言って、再び新たな実験に挑むよう促した。
怖気づいてはいられない。この先に俺の目指すべき最強が待っているのなら。
それから数ヵ月が経ち、俺はついに、回復魔法の極致とも呼べる再生魔法を取得した。
再生魔法は、あらゆる傷や欠損を再生する魔法。しかし、必要な魔力や発動後の再生速度が遅いのが欠点だった。
そんな中、回復型刻印魔法の完成に向けて、彼女は次なるステップに進む準備をしていた。
今回は、魔法の中でも特に高い精度と効果を求められるもので、最初に触れた時とは比べ物にならないほどの代物だ。
「回復魔法の極致ともいえる『再生魔法』。刻印魔法とルーン文字。これらを数ヵ月研究してきたが、ついに完成だ。そうだな……『エインヘリヤルの刻印』とでも呼ぼうか」
エインヘリヤルの刻印。
アルドが不死身の狂戦士へと変貌するため、ナイミラと共に開発した禁断の刻印魔法。これは、回復魔法の極致である『再生魔法』と、古代のルーン文字、そして刻印魔法を融合させた奇跡の術式である。
この魔法の核心は、身体全体に『エインヘリヤルの刻印』を回路のように刻み込むこと。
刻印の施行は、生命そのものを脅かすほどの痛みを伴い、失敗すれば肉体も精神も破壊される。
成功すれば、魔力が尽きない限り、意識しただけであらゆる傷を再生するという恩恵を得られる。
これは従来の再生魔法とは違い、意識するだけ傷が治る。なによりも、どんな傷も一瞬で再生するのだ。
しかし誰でも扱えるわけではない。上記に挙げた痛みもそうだが、何よりも『エインヘリヤルの刻印』を刻まれた者が、回復魔法の極致である『再生魔法』を使えなければ意味がないのだ。
彼女が俺を見つめる。
「本当にいいのだな? 共同開発しといてなんだが、禁術に近い代物だ。死ぬかもしれない」
今更『死』など怖くない。
そんな彼女の言葉に、俺は笑みを浮かべ、瞳には狂気を宿してこう答えた。
「この程度で死ぬのなら、その程度の人間ってことだ。だが、俺は戦い続けるために生まれてきた。死ぬなら、戦場で倒れるのみ。恐れるものなんて、何もない」
「……死にも勝る痛みを我慢できると?」
「上等だ。受けて立つ」
「あはははっ、いいね。やっぱりキミは最高に狂っているよ」
ナイミラが愉快に笑った。